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この死と生きていく

私には、忘れられない死がある。
もう随分と昔の話しで、当時の同僚に
話をしても記憶に無いだろう。

その日私は、個室に入院している10人の患者を
看るリーダーナースだった。

その乳癌OPE後再発の患者さんを
綺麗に死なせてあげられなかった。
その言い方さえ、おこがましいのかも知れない。

私は無意味に彼女の死を汚してしまったのだ。
殺してしまったと言ってもいい。

どう転んでも、避けられない死ではあった。
でも私が担当じゃなければもっと
その死に際のあり様が有ったはずなのだ。

私は若かった。 
ドクター達は終末期の患者には
興味が無かった。
私がもっと急かして人を動かして・・・
キリがない。

胸骨を思いっきり強く拳で叩いた。   
側に居た看護学生に、静かな口調で伝えながら
心の中で叫んでいた。
「今、回診に回っている先生に伝えて!
直ぐに来て下さいと伝えて」と。

患者とご家族に申し訳無かった。 
患者への興味など何処にレベル分けが
あるのだろう?

学生に恥ずかしかった。不甲斐ない自分が
恥ずかしかった。

興味を失われてしまったら、
もうそこにある命も、
穏やかなひと時も全て失われるのだ。
私はそれに加担してしまった。




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