春のオルガン(湯本香樹実)

きれいな文章だった。猫や病気や春、そういった物が織物のようにきれいに組み重なって一つの物語を紡いでいる。
僕が思うに、こういう小説と書きたいのだと思う。
ある事実の羅列や、虚構の設定集に終わるのではなく、現実的でありながら、警句的な出来事のかずかずにであう。そして、少しづつ、読者にも分かる形で成長していく。
心が踊るアクションや、昂った修羅場など、強い状況設定に甘んじず、些細な出来事などに深遠な意味を見出すことこそ文学の本文じゃないのかな。
それでいえば、あとがきも好き。昔のことを思い出す、それがどんな意味であれ、輪郭がはっきりしてくるとは、膝を打った。

これは私事だが、久々に本を読んでいて泣けてしまった。
そんなこと、怪帝ナポレオン三世を読んだ時以来で、自分でも驚いた。
この作家の他の話も読んでみたいと、そう思わせてくれる本だった。

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