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パリ、東京、行ったり来たり。(10)パリの成分

 しばらくパリに行っていないと、なんとなく毎日落ち着かなくそわそわした気持ちになってきます。そんなとき、今パリの成分が私の中からきれかけていると感じます。
 頻繁に行き来をするようになってから、ときどき東京の自分かパリの自分かどちらが本当の自分なのか?と思うことがありました。もちろん、パートナーのF氏がパリにいるということは大きいですが、私は東京にいる時間の方が長いし、仕事も東京でしているし、友達もこちらにいるので、時間の長さだけでいえば、東京の自分が本当の自分なのかもしれません。それでもなにか、東京での私は、パリでのなんらかの成分を体のなかに持ち帰ってそれを次の渡仏までちまちま使いながら生き延びているような気がするのです。
 なので、いつもより少し間があいてしまうと、体のなかのパリの成分がきれてきたような感じになり、なにか落ち着かないようなへんな感じです。
 実は私は、コロナで海外に行けないと思われていた時期も、飛行機が動いている限り行っていたのです。私にとってフランスに行くことは、不要不急ではなく、必要不可欠だったからです。2020年の3月にはちょうどパリに行っている間にロックダウンがはじまってしまいました。私が帰国する予定の1日前のことでした。帰国の日には、F氏に空港まで送ってもらうこともできませんでした。飛行機に乗る人しか空港に入ることができなかったのです。電車は動いていて、F氏の家の最寄りの駅から乗り換えなしで空港に行けるのですが、パリから北に向かうその路線は治安があまりよくないし、コロナはアジアからきているという情報だったので、アジア人女性である私が夜にひとりで電車に乗るのは危険すぎます。タクシーを予約しようとF氏ががんばってくれましたが、なかなか見つかりませんでした。
 やっとの思いで、女性ドライバーのタクシーが見つかり、私は無事に空港に向かうことができました。誰も外にいない、高速道路も1台も車がいない中、アラビア系移民の女性ドライバーはF氏の前ではとても感じがよかったのに、私ひとりになるとあからさまに嫌な態度をとりました。おそらく彼女もフランスで暮らす中では、いろいろ差別的なことをされたことがあると思います。私のようにたまに滞在するのではなく住んでいて働いているのだから、いろいろあると思います。でも、そのときはアジア人女性である私が、世界中でだれよりも肩身が狭く弱い人のように感じました。
 結局私は、コロナ禍の間も何度か行き来したのですが、いろいろな体験をしました。まっくらな空港から5人くらいしか乗っていない飛行機で出かけ、帰国後PCRで陰性になっても、公共交通機関を使えずレンタカーで帰ったり。帰国後に自宅待機、ホテルで待機の時期もありました。日本とフランスのマスク事情の違いとか、お出かけの時になんの用事なのか書いた紙を持ち歩く時期もあったり、ワクチン証明書がないとレストランに入れない時期もあって、日本の接種証明書を見せて薬屋さんでフランス用の証明書を作ってもらったりもしました。いろいろ大変でしたが、貴重な経験だったと思います。
 昨年の秋に行ってから、私の生活がいろいろ変わることになって、今回は長く間があいてしまいましたが、もう少しで出発です。私の中のパリの成分はもう枯渇寸前という感じになっていますが、また補充して日本に帰ってきます。そしてこれからももっとガンガン行き来できるようにしていきたいと思っています。


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