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2020年5月15日〜5月21日 病院の行き帰りにだけ道がある、最近

5月15日 LOVE 3D

「本当はもっとたったと歩けるのよ」

 病院の待合に座っていたら、突然隣のご婦人が言い訳みたいに声をあげた。まるで周囲の人たちに教えているような口ぶりだが、位置的にどう考えても私に話しかけている。わかります、という風に軽く会釈をした。

 威勢のいい声とは裏腹に、たしかに彼女は弱々しい足取りで受付に歩いて行く。そしてゆっくりとこちらへ戻りながら、数日前にギックリ腰になったのだと大きな声で話を続けた。

 にこやかに当たり障りのない相槌を打ちながら、でも、気持ちはわかると思っていた。本当の自分はこうじゃないと知ってほしいのだ。彼女はギックリ腰になった瞬間、いかに自分が重たい物を持とうとしてしまったのか(つまり、ほんの数日前までそれくらいの物は持てる自分であったということを)話している。

 病気や怪我をした時、気づけば症状そのものより、わかってもらえない不安に押し潰されそうになっている瞬間がある。

 私はこの病院で受けた診察が何より辛かった。微笑みながら、でも座っているだけで思い出して呼吸が苦しくなる。

 ご婦人と別れて精神科で紹介状を受け取った。カウンターには大声や暴言でほかの患者に迷惑をかけないようにとポスターが貼ってある。目立つようにしてあるデザインがうるさくて脳内が騒がしくなる。「迷惑をかけないでください」の言葉が心に重くのしかかる。誰にも迷惑をかけないように、黙って死んでくださいとお願いされているように感じる。

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