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2020年4月24日〜4月30日 地下アイドル、うつ経由人間

4月24日『うつ病九段』

 鬱が悪化して救急車で運ばれたりしていた去年の夏、文春オンラインで連載が始まった『マンガ うつ病九段』にとても心救われた。

 当時の私は鬱の症状に苦しむ一方で、「本当は病気じゃないのに心療内科に通って主治医に迷惑がられているのでは?」という思い込みを併発しており、せっかく死にものぐるいで病院まで辿り着いたのに、いざ診察では愛想よく明るく振る舞おうとしてしまって、完全にわけがわからなくなっていた。

 ついに無理が利かなくなって自宅で倒れて救急車で搬送され、担架で動けなくなったまま「病気じゃないならはっきり言ってください!」と涙ながらに訴えたところ、「あなたは立派なご病気です!!!」と返された翌週、『マンガ うつ病九段』の連載は始まったのだった。

 

 闘病中は本を読むどころか、入浴さえままならなかったので、漫画を読んで、話を理解するなんて、ありえないほど高度な行為だった。

 でも、河井克夫さんの絵は、なぜか調子が悪いときでも私の脳と胸にすっと飛び込んでくるのだ。いつでも。

 もう長いこと病気自体はしているので、これまでも無気力になって何も考えられなくなってしまった時は、河井さんの漫画をよく読んでいた。

 何もかもが難しく感じて、意味がわからなくなってしまっても、河井さんの漫画だけは症状が出る以前と変わらずにそのまま見えるのだ。あれは逆に、いつもとても奇妙である。

 先崎学さんの原作もまた、自分の身に起こった事実と感情だけをほどよい温度感で書かれていて、つらい時に読んでも押し付けられる感覚がなく心地いい。

 非常におこがましいのだけど、先崎さんが体験した鬱の病状のほかにも、生い立ちや仕事との向き合い方に共通点を多く感じてしまって、自分と同じような状況の人がきちんと闘病していることに、とても安心感を覚えた(なぜなら、この症状が本当に鬱病のせいなのか自信がなかったから!)。

 私もこの連載を自分に引きつけて読み過ぎていたかもしれないが、鬱には視野が狭くなってなんでも自分に引きつけてしまう側面があると思う。

 症状がひどかった頃、励ましの声にたくさん支えられたが、自分の鬱に効果があった方法を信じて強く勧めてくれる人が少なからずいて、それが通院や薬の服用をやめることだったり、ヒステリックな態度で強引に休業を勧められたりして、それには心底疲れてしまった。

 良かれと思って勧めてくれているので冷たい態度をとるわけにもいかず、せめて気持ちを暗いほうへ引っ張られまいとするうちに、みるみる強情になって、孤立していくように感じた。

 鬱の症状をわかりやすく、しかもフラットに描く河井さんの漫画表現と、先崎さんの冷静な筆致は、常に重たくつらい日常の中で、私の心に風を通してくれた。貴重な時間だった。

 明日は『マンガ うつ病九段』の出版日だ。

 私もそろそろ自分の病気についてまとめなければいけないと思っていた。闘病中も支えられたが、再び背中を押されながら文章を書いていこうと思っている。

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