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愛護法改正で何が起こっているのか?

- 象徴的なケージサイズの議論を基にした個人的考察 -

動物愛護法の改正:ぬぐえない違和感
昨年6月に「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月19日法律第39号)」が成立・公布されたのをご存知の方は多いと思います。いわゆる動物愛護法の改正ですが、今年6月から段階的に施行されます。その中で、2021年6月に施行予定の「8週齢規制」に設けられた「特例」に違和感を持った愛犬家は少なくないでしょう。

第22条の5 犬猫等販売業者(販売の用に供する犬又は猫の繁殖を行う者に限る。)は、その繁殖を行った犬又は猫であって出生後56日を経過しないものについて、販売のため又は販売の用に供するために引き渡し又は展示をしてはならない。
指定犬に係る特例
2 専ら文化財保護法(中略)の規定により天然記念物として指定された犬(中略)を販売する場合における当該指定犬繁殖業者に対する同条の規定の適用については、同条中「56日」とあるのは「49日」とする。

多くのみなさんによる努力の結果、生まれて8週を経過するまでは子犬の展示や販売が禁止されます。ただし、天然記念物に指定された日本犬はこの新しい規制から除外され、これまで同様に7週齢での販売が可能です。この件については別途議論したいと思いますが、今回は同じタイミングで施行される、第一種動物取扱業者に遵守義務が課せられる「基準」(以下、数値規制)の検討について考えたいと思います。

飼育環境の改善に関する議論:具体的な規制の必要性
改正後の「動物愛護管理法」(通称、動物愛護法)第21条に、第一種動物取扱業者(繁殖業者やペットショップ、ペットオークションなど)に対する「基準遵守義務」が明記されています。

基準遵守義務
第21条 ・・・動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため、(中略)環境省令で定める基準を遵守しなければならない。
2 前項の基準は、動物の愛護及び適正な飼養の観点を踏まえつつ、動物の種類、習性、出生後経過した期間等を考慮して、次に掲げる事項について定めるものとする。

ここで定めることが決められている「事項」として、飼育施設の設備・構造・規模とその管理方法(要するに繁殖業者の建屋やその管理・運営方法ですね)、飼育環境、従業員数、繁殖の回数や繁殖を行う親犬の選定、子犬の展示や輸送方法など7つのポイントが明記されています。そして、「基準は、できる限り具体的なものでなければならない」とされており、数値を含めた具体化に向けた検討が環境省主導で行われています。

現在のスケジュールでは、3月16日*に第6回の「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」が開催され(*コロナウイルス関連の事情で延期され、現時点で日程は未定)、第2四半期までに規則・細目の骨子案が作成される予定です。その後、第4四半期半ばまでに素案が出来上がり、2021年第1四半期の事務手続きを経て6月19日までに施行という見通しです。

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個人的には、以前書いた様に愛犬の遺伝的疾患と繁殖業者の問題もあり、「親犬の選定」について思うことが多いのですが、ここでは、今、早急な議論が必要な「ケージ等の規模」に関する条文について、どんなことが起こっているのかご紹介したいと思います。

動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会:その役割
この基準の具体化に大きな役割を担っているのが環境省の「中央環境審議会動物愛護部会」や「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」です。検討会は、「動物愛護管理法に基づき定められている動物取扱業に係る飼養及び管理に関する方法等について、科学的知見に基づいた基準やガイドラインのあり方について専門的な見地から検討を行う」(同省ウェブサイトより)となっています。つまり、第21条を中心に、改正愛護法が真に「動物の適正な飼養管理」につながるかどうかが、この検討会にかかっていると言っても過言ではありません。

同検討会は学者や法律家など7名の委員で構成され、平成30年3月5日から定期的に開催されています。

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<出典:環境省自然環境局 総務課 動物愛護管理室>

今年の2月3日に行われた第5回では、「関係団体ヒアリング」の場が設けられ、杉本彩さんが代表理事を務める「公益財団法人動物環境・福祉協会 Eva」、「動物との共生を考える連絡会」、「犬猫適正飼養推進協議会」の3団体が現場や動物を知るそれぞれの知見から15分の説明と5分の質疑応答を行いました。

「関係団体ヒアリング」:参加団体概要
「Eva」の活動は愛犬家にはよく知られていると思いますので、その他の2団体について少しご紹介します。「動物との共生を考える連絡会(以下、動共連)」は、「人と動物が共に幸せに暮らせる、『いのち』にやさしい社会の構築」(動共連ウェブサイトより)を目指し、動物実験や動物関連の法律に関する現状調査や提言、飼養ガイドラインの作成などを行っているそうです。組織は、以下の「幹事団体」が構成しています:

・日本動物愛護協会(公益財団法人)
・日本動物福祉協会(公益財団法人)
・家庭動物愛護協会(一般社団法人)
・自然と動物を考える市民会議(NPO法人)
・日本捨猫防止会
・ペット研究会「互」
・動物との共存を考える会
・ヤマザキ学園(学校法人)
・国際総合学園(同)
・国際ペットワールド専門学校


なお、日本動物愛護協会や「Eva」も認定を受けている「公益財団法人」や「同・社団法人」とは、法律で求められた公益事業を行い、社会貢献を目的とする団体として、その公益性が国(行政庁)によって認められているものです。「一般社団法人」や「同・財団法人」とは、この「公益性」が大きな違いです。

「一般社団法人犬猫適正飼養推進協議会」は、「犬猫が快適に暮らせる社会の実現を目指す」ため2016年3月に設立されました。この目標の実現に向け、第一種動物取扱業者の自主管理促進を基本方針とし、以下の活動が明記されています:

・ガイドライン・手順書(要求レベルの明確化)
・自己点検(内部監査:継続改善)
・作業記録(外部監査:信頼性・透明性)
・専門人材育成(技能向上)
・講習会(情報のアップデート)
<犬猫適正飼養推進協議会ウェブサイトより>

同協議会を正会員として構成するのは、一般社団法人(以下、略)ペットフード協会、日本ペット用品工業会、ペットパーク流通協会(ペットオークション)、全国ペット協会、ジャパンケンネルクラブ、全国ペットフード・用品卸商協会、および中央ケネル事業協同組合連合と日本獣医師会の8団体で、ペットフード協会会長の石山恒氏が会長を務めています。

ちなみに、石山氏はマースジャパンリミテッドの副社長でもあります。同社は「シーザー」、「ペディグリー」、「シーバ」、「カルカン」、「ロイヤルカナン」、「ユーカヌーバ」、「ニュートロ」など、日本でもお馴染みのブランドを取り扱い、ペットフードの売上高では世界最大の食品会社「マース」(アメリカ)の日本法人です。

「関係団体ヒアリング」:それぞれの提案
これらの3団体が先月行われた第5回「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」で使用した発表資料を読み込むことで、この数値規制を含む「21条」に関する議論が現在、どの様に進んでいるのかを自分なりにイメージしてみました。

なお、私はこの検討会を傍聴していませんので、以下はあくまで環境省が公開している資料から私が個人的に理解したものをまとめたものです。過去の経緯や現場での細かなニュアンス、「空気感」などは織り込まれていませんので、その旨ご容赦ください。それぞれの説明資料は環境省のウェブサイトで公開されていますので、直接、詳細をご覧いただくことをお勧めします。
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/tekisei/h29_05.html

1)Eva:劣悪な飼育環境の改善が急務
Evaは、飼育スペースの規模や管理方法、繁殖犬の出産回数や年齢などの検討項目について、ヨーロッパを含む好ましい例を挙げながら、日本の動物愛護法が進むべき方向について提案を行ったことが読み取れます。その中でも、我が国において早急に改善すべき劣悪な飼育環境の例を、写真を使って報告しているのが印象的です。(以下3点の写真は全て同団体の資料より)

スライド1

「1マスに60匹ほど」とキャプションがつけられた写真(動画?)には、コンクリートの壁と金属でできたすのこ状の床で造られたスペースに、都会の通勤電車並みに詰め込まれた小型犬たちのストレス溢れる表情が写されています。

スライド2

その他、「キャリーケースや段ボールに入れられたまま」、「ケースや段ボールに入れっぱなし、出す時は1日1回」、「自称優良ブリーダーの施設内部」など、少なくともそれぞれ個別の事例は、改善することが急務なことが一目瞭然です。

スライド4

2)動物との共生を考える連絡会(動共連):バランスの取れた提案
愛犬家の代表として(と私は感じます)、現状の悲惨さと進むべき方向について多くの写真(や動画?)を使用して比較的感情に訴えたEvaに対し、動共連は同じ方針を科学的・獣医学的なアプローチで提案している印象を受けます。幹事団体の一つである「日本動物福祉協会」の入交眞巳博士(米国・獣医行動学専門医)と田中亜紀・日本獣医生命科学大学助教(疫学博士)による作成とある、犬および猫の「飼養管理基準(案)」が提出されています。

動物の飼養管理基準作成の目的である「動物の福祉が守られること」の実現には、定量的な数値規制に加え、各動物種の生理・生態・習性に配慮した定性的規制、両方からのアプローチが重要としています。まず、検討の流れとして、3つのステップ案が提示されています:

1stステップ:獣医師及び獣医学博士、動物学者等動物の専門家による適正飼養管理基準の設定
2ndステップ:動物の専門家による適正飼養管理基準の実用性等を法律家、ペット業界関係者、動物愛護団体及び獣医師等により検討
3rdステップ:2ndステップでの検討で意見が分かれた場合、専門家グループ等で再検討

法律の制定については不勉強なのですが、このタイミングでのプロセスに関する提案は議論のあるところかも知れません。ひょっとしたら、政治家や官僚からは批判もあるのではないかと感じます。ただ印象的なのは、動物福祉の原則として「5つの自由」にも言及し、科学的な見地はもちろんですが、「べき論」も念頭に置いた、バランスの取れたアプローチが採られていると感じます。ご参考までに、「5つの自由」とは:

1. 飢えと渇きからの自由
2. 不快からの自由
3. 痛み・負傷・病気からの自由
4. 恐怖や抑圧(不安)からの自由
5. 正常な行動を表現する自由

その上で提示された犬、猫それぞれ向けの具体的な「飼養管理基準(案)」。そこには、食事と水、施設(つまり繁殖業者の建屋)の構造や環境、清掃、管理人数、日頃の健康管理、繁殖年齢や回数、輸送、子犬の展示など、全11項目にわたって具体的な提案もしくは要検討事項が挙げられています。犬の習性や社会性に配慮した人間や他の犬との交流や遊び、しつけなどにも触れられており、非常にキメの細かい、かつ包括的な提案だと私は思います。

なお、現在この「数値規制」において大きな議論となっている犬舎・生活場所/休息場所(つまりはケージ)については、寝床と運動スペースなどの活動場所が分かれているケースとそうでないケースについて、単独飼育とグループ飼育ごとに、それぞれ必要な面積や環境・運動回数、寝床(清潔で柔らかい素材)や床(肉球・関節・爪の負担防止のためワイヤーは不可)の素材など細かな点に関する提言もされています。

Evaの場合、基本的には杉本彩さんとそのお仲間の「想い」が中核にあり、「動物の健康と命の尊厳を守るため、動物の幸せとは何かを動物の目線になって考え、最善を尽くすよう努める」(同団体ウェブサイトより)という理念のもと行動されている団体だと理解しています。

したがって、「非常にシンプルに分けると」とご理解頂きたいのですが、科学的で段階を踏んだ動共連と、情緒的なEvaとはアプローチの面で性格が少し異なると(資料を読んだ限りでは)感じます。しかしながら、どちらを拝見しても、動物福祉の向上に対して真摯に向き合い、それぞれの強み・専門性を生かした取り組みの提案である印象を受けました。

心理学や、時折ビジネスの世界でも、「人は論理で納得し、感情で行動を起こす」と言われることがあります。このバランスがうまく取れていると思います。

3)犬猫適正飼養推進協議会:
3-1) 説明資料の概要1:地球上から犬がいなくなる?!
最後に犬猫適正飼養推進協議会です。その名前から、まさに改正動物愛護法の詳細を検討するのにふさわしい団体なのではないかと期待しながら資料を読み始めました。(この期待は見事に裏切られるのですが…)

私は普段ビジネスをする場合の習慣で、こうした資料を見る際は、まず結論のページを探します。スライド(同協議会の資料はパワーポイントです)18に「終わりに」というタイトルがありました。そこに書かれていたいささか詩的な文章を以下にご紹介します:

地球上に存在した多くの動植物が人間の行為により絶滅した。何千年ものあいだ、人間とともに暮し、我々を助けてくれた犬も、このままでは日本から消え去ろうとしている。
動物好きな人、動物嫌いな人、愛護家、官公庁、ペット関連団体をふくめ、社会において動物との共生は何か?、どうあるべきか?の社会的合意を形成する必要がある。(原文ママ)

後半で言っていることは理解できますが、動物愛護管理法改正に関わる環境省向けの提案の結びとしては、趣旨やscope(範囲=地球上?何千年?)に違和感をもちました。このコメントを導き出した論理は恐らく直前のスライドにあると思い、めくってみると・・・衝撃的なことが書かれていました。2040年には(一般の飼い主が犬を)「飼いたくても飼えない?」…

そのスライドのタイトルには、「政策とは民意を反映したものではないだろうか?」(原文ママ)とあります。日本語表現の誤り(議論がなされているのは「政策」ではないはずです)はさておき、確かに私たち飼い主のそれも含まれる「民意」に反した数値基準となってしまう事は避けなければなりません。注意深く資料の最初から読み始めます。

3-2) 説明資料の概要2:同協議会が「犬猫が快適に暮らせる社会の実現」のために行っている活動
先にご紹介したように、「犬猫が快適に暮らせる社会の実現」というビジョンが書かれています。結びの文言と相まって、期待がさらに高まります!この時点では。

「科学的根拠の収集」と続くスライドには、関連案件に関する国内外の実態調査や「教育啓発」、「情報発信」といった活動内容のリストがあります。確かに、日々の活動も動物愛護法改「正」にあたっても、我が国における現状調査・分析と海外のベンチマーキングは必須ですね。「国内外の事情(ブリーダー、ペットショップ、法制度、社会通念)の把握に努める」ことを行った上で検討する旨が書かれています。(ただ、これは「社会的」ベンチマーキングであり、「科学的」という表現には違和感を覚えましたが…)

3-3) 説明資料の概要3:人口当たりの飼育頭数が比較的少なく、小型犬の多い日本
その次にはアメリカおよびヨーロッパ6ヵ国と日本の、犬・猫それぞれの飼育頭数と人口比が続きます。日本ではこれらの国々と比較すると、わずかに人口当たりの飼育率が少ないことが示されています。犬の場合、突出して多いアメリカの25%(100人のうち25人が犬を飼っている)を除くと、欧州が平均すると10.6%なのに対し日本は8%だそうです。差は微妙ですね。

次に、日米で飼われている犬の体重が比較されています。取り上げた欧米6ヵ国の中で、最も生活様式や習慣、特にペットの飼育環境が日本と離れていると考えられるアメリカを比較の対象としたところには疑問を感じますが(この辺は長くなるので今回は割愛します)…。アメリカは小型犬から大型犬まで平準化しているのに対して日本は小型犬(体重5キロ以下)がほぼ半分の47%、なるほど。勉強にはなります。

3-4) 説明資料の概要4:登録「犬種」数の漸減
次のスライドではチワワとグレート・デーンの写真とともに、「犬種や環境に配慮した指標:犬種間での体重差は100倍にもなる」と書かれています。このスライドのメッセージを理解するのに少し時間がかかりましたが…、タイトルにある様に犬種の特性に配慮して(数値)指標を決める事が大切、ということなのだろうと思い読み進みます。

と、次に、日本と世界の登録犬種数のグラフが出てきます。まず、タイトルに「世界ケンネルクラブ(FCI)」とあるのがとても気になりました。「FCI」を日本語表記する場合は「国際畜犬連盟」とします(「FCI」:フランス語でFédération Cynologique Internationaleの略)。

細かなことと思う方もいらっしゃると思いますが、少なくともビジネスの世界では書類やプレゼンテーションなど、外部に対して正式に提出・発信するマテリアルに瑕疵は厳禁です。これは官公庁向けの書類や発表であり、法律の詳細を論じる場で使用されるもの。そのクオリティはより重要でしょう。

それはさておき、ここで何を言っているのかを読み解くと…、「登録犬種数」が世界的には右肩上がりなのに対し、JKC(日本)の登録犬種数は2000年以降緩やかな減少を見せていることを説明したと想像します。「犬の個体数」でなく「犬種数」を取り上げた意図は不明です。

考えられるのは、犬種のバリエーションが減少傾向にあるため「犬種に配慮して(数値)指標を決める」というポイントについては比較的容易だという意図かなと思いましたが、このあたりから議論の流れがスムーズに理解できなくなります。(私の知的レベルの問題だと思いますが^_^;;;)

3-5) 説明資料の概要5:ケージサイズの規定作成方針に関する提案
さて佳境に入ります。「ケージの大きさに科学的根拠はない」というタイトルのスライド。書かれていることの全文は事情により文末に記しますのでご参照ください。ここで「犬猫適正飼養推進協議会」のプレゼン資料が全く理解不能になりました。このスライドに書かれている6つの項目から、ケージサイズに関する「科学的根拠」を否定するロジックを私は見つけることができません。

繰り返しますが、私はこの検討会を傍聴していませんので、口頭説明の中に彼らなりの解釈に関する説明があったのかも知れません(そう望みます)。ただ、こうした「説明資料」の場合、いわゆる「一人歩き」した場合でも「ある程度は」そのままでも意味が分かるような(self-explanatory)性格であるのが常識です(クリエイティブな「プレゼン」や、ある種ショー的要素を含む「ピッチ」など例外なケースはあると思いますが)。特に、この場合は国民に一般公開される前提です。

もやもやした気持ちでページをめくると、「結論」。いきなり感があります。これも、正確を期すため全文は文末に記しますが、簡単にまとめると1)欧米の基準は参考にならず、これまで述べてきた2)飼育率や体重・サイズ、登録犬種数など日本特有の状況を基に3)「動物を基準とした測定指標」の作成を提案するものでした。日本の状況を鑑みた動物目線での規制、ということに反論はありませんが、全くしっくりきません。

3-6)説明資料の概要5:主張は、「動物愛護法が日本から犬を消す」?
話題があちこちに飛んでおり、プレゼンテーションの流れが難解に感じるので、「言っていると思われること」を私なりにかみ砕き、想像も含めてまとめました:

1. 犬猫が快適に暮らせる社会の実現を目指している
2. 国内の実態調査および海外のベンチマーキングを実施
 ・人口当たりの犬の飼育率が日本は比較的少ない
 ・日本は超小型犬種がメイン;アメリカは平準化
 ・犬種によるサイズの違いが大きい(100倍)
 ・日本では、登録犬種数が微減している
3. ケージサイズに欧米の基準は参考にならない
4. 動物を基準とした日本独自の指標を作成すべき

という理論展開の様です。かいつまむと、「犬ごとに必要なケージサイズや管理基準を日本の環境に即して決めましょうね」、というものでしょうか?この後、「ポリシーインプリケーション」なるセクションが続きます。そこに、同協議会の考える「日本の実情に即した基準」の提案があるだろうと思い、さらに読み進めます。

まず、そこに書かれていることをできるだけ原文に忠実にまとめ、個人的な解釈は矢印で区別します:

1. 年間繁殖頭数10頭以下の繁殖業者数が大幅に減少(2004年と2014年のブリーダー数をグラフで提示)
=> 2006年の改正愛護法施行により義務化された業者登録義務が供給を阻害しているという主張と想像する

2. 繁殖業者としての登録基準:独・30頭/年、英・50頭、米・50頭、仏・20頭、スウェーデン・20頭、デンマーク・30頭、フィンランド&カナダ・規制なし、日本・2頭または2回
=> 登録が義務付けられる基準が厳しすぎるために繁殖業者数が減少しているとの主張と想像する

3. ケージ(生活スペース)のサイズ:ヨーロッパ基準は満たせない。ドイツ基準を満たせる業者は0%
=> 欄外に「回答データ1436件」とあるので、同協会が業者に対して行ったアンケートの結果と想像する

4. 現状の業者のうち「20%が事業継続できたとして年56万8000頭しかいなくなる。僅か1.0%の世帯飼育率」(カギカッコ内、原文ママ)
=> 資料からだけでは、「年56万8000頭」の計算根拠がまったく読み取れないのでコメントは控える

5. 「犬が日本から消え去ろうとしている」

当該資料にある「飼いたくても飼えない?」状況に陥る恐れをきちんと理解しようと丁寧に読み進めたこの資料ですが、ここで、完全に方向を見失いました。(迷子になったのが、私の頭の中なのか、この資料なのかはわかりませんが・・・。)極論を言うと、「繁殖業者の登録義務を緩和し、飼育スペースを最低限に留めないと業者がほとんど廃業してしまい、子犬が産まれなくなる」という主張だと理解します。

追加資料と思われる(「参考資料」とか「Appendix」と明記されているのが常識ですが、全く表記がないので想像です)スライドに、「2005年と2012年の法改正のインパクト」と題するものがあります。そこに、「2018年9月三河地区ブリーダー調査」結果として、「繁殖をやめた理由を教えて下さい」との問いに対する回答として最も多かった項目に赤いアンダーラインが引かれ強調されています:

「登録制になり、書類等の管理が面倒だから」

・・・脱力・・・

3-7)説明資料の概要6:身動き取れないスペース
この数値規制について、話を聞いたり、読んだり、SNS等で見たりすることはありました。大変恥ずかしいことですが、「自分以外のたくさんの人が頑張っているから」と正直なトコロ深く考えてはいませんでした。

私にとっては、愛犬の遺伝的疾患と、それを知りながら親犬の交配を続ける繁殖業者の問題の方が大きく…。しかし、「脱力」後、気を取り直してこれらの資料だけでなく本や雑誌を読んだり、色々な情報を集めたりしていくうちに、いかに間違ったことが行われている、行われようとしているかを知るに至りました。まだまだ足りませんが。

この「犬猫適正飼養推進協議会」なる集団が具体的にどんな提案をしているのか、気を取り直し、改めて正確に調べてみました。ご存知の方が多いことですが、「飼養施設の数値指標(試案)」として「第53回中央環境審議会動物愛護部」(11月25日)に提案されたのは以下の内容です:

検討中の「飼育スペースに関する数値規制検討のポイント:『寝床』と『生活エリア』から構成される」
­ 寝床:
・細目第3条の定性的基準:
犬が立つ、向きを変える、横たわる、伸びをするなどの自然な姿ができること
・同協議会が提示する数値指標(目安):高さ = 体高 x 1.3倍、幅(短辺) = 体高 x 1.1倍
 生活エリア(運動場):
・細目第3条の定性的基準:
犬が歩く、向きをかえる、壁にぶれずに尾をふる、遊ぶ、後ろ足で立つ、他の犬にふれずに横たわる、排便・排泄をしても体が汚れない
・同協議会が提示する数値指標(目安):設置せず

一日24時間、一年365日、身動きすら取れないスペースでの生活が提案されています。それを正当化する目的なのか、次のスライドには「IATA(国際航空輸送協会:120ヵ国、265社)」(原文ママ)のタイトルで、グラフが提示されています。縦軸が「バリケンの面積(m2)」、横軸が「犬の体高(cm)」とあります。このグラフの見方が分からないのですが、例えば体高が20cmの犬の場合、バリケン(クレート)の面積はおよそ0.2m2と書かれています…。

数字にはめっぽう弱いので、間違いがあればご指摘頂きたいのですが、0.2m2というと、20cm2でしょうか?もしそうだとすると、縦横を最大に取ったとしても5センチ×4センチ…。計ってみると、うちの愛犬(体重2.1kg)でも、全長で約35センチあります。分解でもしない限り5センチには収まりません。

ANA Cargoのウェブサイトで確認したところ、「IATA動物輸送規則8章CONTAINER REQUIREMENT 1」は、以下に規定しています
 ・長さ:犬の全長+脇下から地面までの長さの1/2
 ・幅:犬の横幅×2
 ・高さ:地面から頭のてっぺんまで

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例えば、日本と欧州や米・東海岸などへは長時間のフライトになりますが、それでも10時間ほど。24時間 x 365日に「比べれば」、とても短い時間です。その限られた時間内でも、ある程度の余裕を持つことを「Require = 要求」しています。

確かに「Eva」の資料でご紹介した写真のように、本当に「すし詰め」で、伏せをするスペースすら与えられない状態(の地獄)で生きている命もたくさんある現実があります。まずは最低限であっても個々のスペースを確保する、という最初の一歩として、「物理的な比較としては」前進といえなくはないかも知れません。少なくとも、「1マスに60匹ほど」の状況は無くせるでしょう。

しかし、そもそもあってはならない現状を基準に、そこからの「小さな一歩」を提案すること自体にズレを感じます。ここでは、現実を「できる限り」(できない部分も多々ありますが…)客観的にご紹介することにしていますので、これ以上の意見は述べませんが、みなさんどう思いますか?

なお、同協議会の提案ではクレートのサイズを体積や3辺の長さでなく面積や2辺の長さで規定しているところにも大きな疑問があります。これまで資料に散見された単純な瑕疵や、私は稚拙に感じる論理展開はともかく、このあたりに、この資料だけでなく、これを環境省に公式な書類として提出した同協議会の質が現れているのかも知れませんが、どうでしょうか?

3-8) 説明資料の概要7:本当の結論は「(劣悪)繁殖業者保護法」の制定
結局のところ、同資料のまとめとして最後(の方)にあるポイントが同協議会のメッセージを集約していると感じました。私なりに解釈を加えながらも、できるだけ客観的にまとめると:

「日本では年間2頭の子犬を売るだけで事業者登録が義務付けられる。でも、業者はそんな手続きは面倒だと言っている。
ケージサイズをドイツのレベルまで広げるのは理想論で、そんなことに対応できる施設は『ほぼゼロ』。新たな用地確保も、農地法のせいで困難。
もし、1頭あたりの面積を現在よりも拡大すれば、飼育できる頭数は十分の一以下になる。
したがって、5年ごとの登録更新で業者は廃業していき、20年後には犬が日本からいなくなる

なかなかオリジナリティあふれる「物語」だと感じるのは私だけでしょうか?繰り返しになりますが、ここでは、今、何が起こっているのかを私なりにできるだけ客観的にまとめることを目的としていますので、一旦ここで留めますが、愛犬家だけでなく、世間のみなさんはどう感じますか?

同協議会は「犬猫が快適に暮らせる社会の実現を目指す」としています。が、資料に多いようにここも書き間違いで、目的語は「犬猫が」ではなく、「申請書すら書けないレベルの繁殖業者が」であれば理解できそうです。

犬猫適正飼養推進協議会に本音を問う
最後に、パッと思いついただけではありますが、「犬猫が快適に暮らせる社会の実現を目指す」らしい同協議会に対しての質問という形で…:

1. 「非登録の繁殖は困難」(原文ママ)とありますが、非登録の理由は「面倒だから」との説明がありました。第一種動物取扱業者の自主管理を推進するための組織として、これに対処するのはあなた方の責務ではないのか?

2. 「ドイツ基準の適応に国内で対応できる施設は、ほぼゼロ」(原文ママ)な理由の具体的な説明・理由が聞きたい

3. ドイツ基準が適応できない前提で「高さ = 体高 x 1.3倍、幅(短辺) = 体高 x 1.1倍;生活エリア設置せず」という極端な提案に至った理由を具体的に説明して欲しい

4. 新たな用地確保が困難とのことだが、あなた方が常に前提としているのは「小規模」な繁殖業者。また、規模を問わず、繁殖業者が都会の街中で運営されている例を承知していない。それを考えると、飼育空間を「ある程度の」拡大するスペース確保(庭や居間などでも?)に大きな障害があるとは思えないが、いかがか?「農地法」や「農業委員会」を障害として指摘している様なので、同法および同法管轄の農林水産省の抱える問題点についても教えて欲しい

5. また、超小型犬種が多いという報告があった。そうした日本独自の特性を考えると、さらにスペースの拡大は比較的障害が少ないと思うがいかがか?

6. 「1頭あたりの面積拡大 => 同一面積で飼育できる頭数は十分の一以下に」(原文ママ)とある。現在の1頭当たりの平均面積はどの位か?

7. そもそもだが、「犬猫適正飼養推進協議会」は何のために作られ、活動する組織か?「犬猫が快適に暮らせる社会の実現」とあるが、目的語が「犬猫」ではない印象が強いのは私の誤解か?

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参照情報
本来、これらの資料は公開が前提のはずで、環境省のウェブサイトからもダウンロードできますが、同団体資料のみ「犬猫適正飼養推進協議会(資料の複写厳禁)」となっているため、以下にリタイプ(すべて原文ママ)

a) 「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会(第5回)関係者ヒアリング」資料より
参照資料1)

「ケージの大きさに科学的根拠はない」(スライド8)
1. ヨーロッパはホビーブリーダー(年10頭以下の繁殖:87%)が中心:経済的非合理性:趣味(居間や簡単な犬舎飼育)
2. 日本は商業ブリーダー(年10頭以上の繁殖: 93%)が中心:経済的合理性:(高圧水洗浄機、排水、浄化槽、体重の係数管理、犬舎内の炭酸ガスモニター、犬舎の陽圧化、室温・湿度管理、空気除菌システム、業務用加熱滅菌皿洗い機)
3. ヨーロッパは単犬種 vs. 日本は多犬種で繁殖している
4. 日本は少数の超小型犬種に繁殖が集中している(4犬種で49%)
5. 犬種による運動量違い: ニュージーランドハンターウェイ vs. ラブラドール
6. 社会通念は資料から読み取れない
参照資料2)
「結論」(スライド9)

・ヨーロッパやアメリカの基準は必ずしも参考にならない
・犬が最も多く飼育され、商業ブリーダーが多く存在するのはアメリカだが、今回の方針決定資料にほとんど含まれていない
・一人あたりの管理頭数の決定要因(多犬種繁殖、犬種による最適温度、犬種運動量の違い、排泄物の量、飼育施設の広さ:サイズ(2kg vs. 50kg、合理化)(ドイツ: 10頭、イギリス: 20頭、アメリカ:オレゴン、バージニア、ワシントン州50頭、ルイジアナ州75頭、他の州は規制なし)
・犬種間の個体差や多犬種繁殖が平準化を難しくする
・動物を基準とした測定指標
b) 「第53回中央環境審議会動物愛護部会」資料
参照資料3)

「犬の供給体制の違いと基準の適応」(スライド14)
背景
・欧州=兼業ブリーダーが主体「ホビーブリーダー数87%(繁殖頭数: 75%)、商業数13%(繁殖頭数20頭以上: 7%)」
・日本=年間 2 頭・ 2 回の取引 => 事業者登録(非登録の繁殖は困難)
飼育設備(ケージ等)の広さ
国内の状況
・ドイツ基準を適用 => 国内で対応できる施設は、ほぼゼロ
・規模の拡大 => 新たな用地確保は困難(農地法・農業委員会)
将来予測(シナリオ)
・1 頭あたりの面積拡大  同一面積で飼育できる頭数は十分の一以下に
・5 年ごとの登録更新で廃業
・事業からホビーに回帰
(参考)ドイツの商業登録要件:「保有するメス3 頭」又は「年間 3 胎」を超える場合

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ここまで読んで頂いた方。お付き合いありがとうございました。最後に恒例の「ダークサイド」から本音を ^_^;

何をしても、どんなビジネスをしても、他人がとやかく言うことじゃありません。世の中、きれいごとだけじゃなし。みんな、好きなように生きてます。他人には迷惑をかけない範囲で。

超巨大な会社の責任あるポジションにいる「あなた達」、それから、紙一枚の発行に妙なお金を徴収する「団体さん」、さらに、命を預かっている「せんせい方」、市場規模の成長にリスクを感じたら、その環境下で利益率の向上を図るのがまともなビジネスの取り組みです。もちろん規模の保持も並行して重要ですが、「いのち」の犠牲を前提にするのは悪です!

基本的に裕福なあなた達が、わずかなお金の為にぞんざいに扱っているのは、「いのち」です。 文化的生活を営むことが充分可能な社会に暮らし、「心」をもった生き物、さらに「専門家」として、恥ずかしさは…感じませんか…ね?