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海外動物愛護事情④世界初の法律「鼻ぺちゃ犬」を救え!

オランダで、鼻の低すぎる犬の繁殖を禁止する法律が施行されました!

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前回までは、イギリスの動物愛護についてご紹介しました。政府が直接関わる活動があったり、RSPCAの様に歴史と実績ある組織が活動したり。まだ課題は多いとはいえ、やはり「先進国」と感じます。

そのほか、避妊・去勢の最後にご紹介しましたが、北欧では健康な犬への避妊・去勢手術が法律で禁止されている国があります。イギリスに限らず、ヨーロッパでは動物の福祉を突き詰めて考えようとする傾向があるように感じます。

今回は、もう一つの例として、オランダのケースをご紹介します。

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欧米で人気沸騰中の短頭犬種
アメリカやヨーロッパでは、現在「フレンチ・ブルドッグ」(フレブル)が大人気です。そのあまりの過熱ぶりに、イギリスのケンネルクラブ(「The Kennel Club」)が公式に懸念を表明したほどです:

当ケンネルクラブは、フレブル頭数の急激な増加を懸念している。多くの飼い主は、自身のライフスタイルに合うからという理由でなく、セレブリティや宣伝の影響から、その見た目と「ファッショナブルなチョイスだから」、という考えでブレブルを選んでいる。頭数は過去10年で2964%増を記録している。・・・東ヨーロッパから違法に持ち込まれるケースや、国内のパピーファームで生まれた子犬も多く、健康状態に深刻な問題がある場合がある

2964%って!これ、セレブリティの影響が強いと言われています。デビッド・ベッカム、レディガガ、ヒュー・ジャックマン、レオナルド・ディカプリオやラッパーのスヌープ・ドッグ…。世界的な有名人にフレブル愛好家が多く、インスタグラムなどのSNSに写真が投稿され、人気に火がついたらしいです。

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フレブル以外にも、原産国であるイギリスでは「イングリッシュ・ブルドッグ」(ブルドッグ)がラブラドール、フレブル、コッカー・スパニエルに次ぐ4番人気。ちなみに、パグも2018年までは常にトップの10上位でした。

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アメリカでもブルドッグは常に人気で、2017年にフレブルに抜かれて5位に落ちるまではラブラドール、シェパード、ゴールデンという不動の3犬種に次ぐ登録頭数がありました。あと日本ではほとんど見かけませんが、中型犬の「ボクサー」もしばしばトップ10に顔を出すようです。

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鼻ぺちゃ犬の健康を守るオランダの画期的な政策
こうした短頭犬種に関して、オランダ政府が画期的な判断を下しました。パグやブルドッグ、フレブルなどに関して、動物福祉の観点からマズルの短すぎる個体を繁殖に使う事を法律で禁じたのです。

2014年に成立した「Animal Keepers Decree (直訳:動物飼育令)」には既に織り込まれていた条文だそうですが、政府も施行については慎重な姿勢で臨んでいたようです。

充分に時間をかけて獣医学的な検証を行い、昨年、6項目の基準を発表しましたた。その後、「オランダ・ケンネル・クラブ」からの妥協案も吟味したうえで、農業・自然・食品安全省のカローラ・スハウテン(Carola Schouten)大臣が今年5月18日からの施行を決めたそうです。

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ブリーディングによる弊害
日本でも人気のパグやフレブル。これらの犬種は、その愛嬌ある姿からイギリスやアメリカだけでなくオランダを含むヨーロッパ諸国でも愛されています。でも、その愛らしい顔かたちは自然のものでなく、人間が意図的につくりだしたもの…。

特に「ショードッグ」では、それぞれの犬種の特徴をことさら強調するブリーディングが行われることが多いと言われています。

イギリス国営放送のBBCが2008年と2012年に放送したドキュメンタリー「Pedigree Dogs Exposed(直訳:血統書付きの犬を暴く)」と同「Three Years On(その3年後)」では、極端なブリーディングによる深刻な遺伝的疾患が報じられました。プロデューサーの方によれば:

状況は少しずつ改善してはいます。でも、ブリーダー業界は大きな変化を好まないので、まだまだ課題は多いです

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短頭犬種の場合は、鼻が極端に短く顔の横幅が広い形状によって、様々な疾患を発症する傾向があります。BBCの番組では、ドイツの動物病院で鼻孔と鼻・喉の外科手術を受けるパグの様子が細かく紹介されました。その様に、先天性疾患で苦しむ犬たちがこれ以上増えないようにとスハウテン大臣が施行を決心したのがこの法律(条文)です。

「動物飼育令」第3条の4項
短頭犬種においては、以下の6項目を全て満たしていない個体をブリーディングに使うことを禁止する:

1.呼吸:安静時に通常でない呼吸音がしないこと
2.鼻孔:鼻の穴がきちんと開いていること(写真1)
3.マズル:頭の長さとマズルの長さの比が0.5以上であること(写真2)
4.鼻の上の皺:無いこと
5.白目:犬に正対した際、眼窩の浅さに由来する白目の露出がない、または1/4以下であること(写真3)
6.まぶた:目を閉じた時、完全に閉じること
(オランダ・ケンネル・クラブ資料「マズルの短い犬種用項目」から)
(写真「BREEDING SHORT-MUZZLED DOGS」より)

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かなり細かく、オランダ人らしく(?)厳密な規定ですが、法律として機能するためにはこうした定量的な取り決めは必要ですね。

次回は、こうした「鼻ぺちゃ犬」たちが苦しんでいる傾向の強い、呼吸器系と目に関する遺伝的疾患についてご紹介します。