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避妊手術、どうしよう⑤最終回

第5回:本当に我が子が幸せな「犬生」を過ごすために

信頼できるかかりつけの獣医さん
これまで4回にわたって、避妊・去勢手術によって低減できる病気のリスクと、逆に上げてしまう「可能性のある」病気について、知り得たことを私なりにまとめました。

でも、どんな病気に、いつなるのか、まったくかからないのかは、犬種、年齢、その他の病気や遺伝的要素、生活習慣など様々なことが関連しています。結局のところ、100%の正解を事前に見つけ出すことは不可能ですよね。

とはいえ、かけがえのない「家族」である愛犬たちの幸せは、私たち飼い主の判断にかかっています。大切なのは、「このコ」ができるだけ幸せな「犬生」を過ごすために一番良い選択をすること。そのためには、かかりつけの獣医さんと充分に話し合うのが大切だと思います。

病気の時も、元気な時も、場合によっては精神的にも、生活の質(Quality of Life)を保つには、信頼できるプロのサポートが必要です。10数年の生涯を通し、それぞれのご家庭と「うちのコ」にとっては何がベストなのか、かかりつけの先生のアドバイスを仰ぐのが良いと思います。

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この「信頼できるプロフェッショナル」との出会いが難しいのですが、ラッキーなことにひめりんごと平蔵は、「超めんどくさい」父ちゃんが全面的に信頼できる先生のお世話になっています。

でも一般的には、近くの動物病院を受診することが多いですよね。ですので、ご参考までにある記事の一部をご紹介します。こんな事情が少し参考になるかなと。何が言いたいかは判断にお任せするとして…

東洋経済

…近年の(動物病院)開業のコストはざっと4000万円と、10年前に比べ約1000万円増えた。(中略)獣医が高額な検査や手術を勧めてくるのも、ある種自然な行動といえる。特に手術は、単価が高い割に固定費で賄うことができ、原価率が高い。

このブログを書くにあたっては、複数の獣医師さんや、関連団体にもコンタクトしましたが、対応は本当に様々。中でも、「ペットの健康診断を推進する…」らしい獣医師団体さんの、上から目線・拝金主義的対応には驚きました。あそこのメンバーになっている動物病院には、ひめりんご、平蔵に指一本触れさせない。

常々思うのは、人間のお医者さんも、獣医さんも、医学者であると同時に「コミュニケーション」のプロであって欲しいと感じます。「医は仁術(じんじゅつ)なり」って言いますしね。

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ところで:アンジェリーナ・ジョリーさん?
避妊手術と乳腺腫瘍予防に関しては個人的に疑問を感じています。これまでご紹介したリサーチによれば、未避妊の場合の乳がん罹患率は約4%とされています。(別の調査では7%という数字もありました。)
この数字を人間のデータと比較してみました。国立がん研究センターによると、日本における乳癌の生涯罹患率は9%とのことです。犬の場合は精密なデータがありませんが、上記のように4%~7%の範囲であれば、犬も人間もリスクはあまり変わらないと考えられます。
で、「乳がんのリスクが(9%)あるから、手術します!」という女性、女優のアンジェリーナ・ジョリーさん以外にはまだ聞いたことがありません。
また、2012年と古いものですが、ロンドン大学の王立獣医学大学が犬の乳癌と避妊手術の相関関係について、世界中で発表されている全ての英語論文を検証した報告があります。結論としては「避妊手術で乳癌のリスクが低減される」という説にある程度の意義は認めながらも、バイアス(偏りや先入観の意)やエビデンス(科学的根拠)不足により、確定的なことは導けないとしています。また、その論文の中で、最も客観的な検証を行ったと判断された論文は、1969年に発表されたものであることも付け加えておきます。

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手術をする場合のタイミング専門家も、避妊・去勢手術によってこれまでご紹介した病気にかかるか否かは犬種、特にサイズによってかなりの違いがあり得ることを認めています。また、手術を受ける月齢・年齢によっても大きな違いが出ることが分かっています。アメリカ獣医師会はこのように提案しています:

「全犬種にあてはまるシンプルな結論はなく、獣医師と相談のうえでケースバイケースでの判断が望ましい」

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からだの成長が止まってから、というのを聞く一方、「早い方が良い」という意見も多く、生後2~3か月というケースも普通にあるそうで、これも様々なようです。私が個人的に一番納得できるのは、「4本ある犬歯が全て永久歯に生えかわってから」という考えです。

骨格などの成長に影響する可能性をご紹介しましたが、子犬の骨の成長(伸び)が終わる目安がこのタイミングだそうです。(筋肉や骨の中身などは3歳ごろまで成長を続けるそうです。)また、近ごろアメリカでは、1歳半もしくは2歳まで待つべきだ、とするプロのブリーダーも増えているそうです。

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ひめりんご&平蔵 一家の考え
避妊・去勢手術のメリットとして、マーキング、攻撃性、マウンティング行動などの解消、出血や鳴き声など発情徴候の回避なども挙げられています。難しいですね…。ここは、飼い主さんの価値観にもよるし。

家庭犬は、家族の一員として共に暮らす存在。であれば、人間がストレスを感じるリスクを支障ない範囲で取り除くことが、愛犬の幸せにもつながる、というのも正解だと思います。(「アスリート犬」などは、慎重になる飼い主さんが増えているようです。)

私は、リスクのある全身麻酔をして、健康なからだにメスを入れて健康な臓器を取り出さなくても解消できること、もしくは、そこまでして解消すべきことじゃない、と思ってます。

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でも、やっぱり一番心配なのは、人間と違って「ママ、お腹が痛い」とは言えないことですよね。手遅れになったら悔やみきれない…。だから、乳腺腫瘍予防のための避妊手術も、気持ち的には分かります。

最後に:じゃ、ひめりんごと平蔵はどうするか?
ということで、結局、判断は難しいですが…。昔は結構簡単に取ってしまった人間の盲腸に、実は大事な役割があることが分かったのは、わりと最近ですよね。私たちはまだ、人間自身の身体についてさえ、知らないことがたくさんあります。

生き物の臓器は、一つ一つが独立して単一の機能を担うような、単純なものじゃないと思います。まだ知らないことも含め、互いに働きかけながら複雑な機能を動かしている気がします。

今回お勉強を通して分かったことは、「結果的に『する』か『しない』かは別として、簡単に決めてはダメなのは間違いない」ということでした。

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平蔵は、おじいちゃんになって、関係する病気にかかった時に、「たまたま」とサヨナラすることにします。それまでは、男性ホルモンをバンバン出して、首の筋肉や骨量を増やしてもらいたいです。

以前ご紹介した様に、平蔵は繁殖業者の無知もしくはエゴにより、遺伝的に肩と膝に爆弾を抱え、かつ、首はガラス細工という身体で生まれてきました。子犬の頃はちょっとした高さから飛び降りただけで肩を痛めて叫び声をあげることが何度もありました。

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しばらくブレース(装具)を着けて不自由な生活をしましたが、そのおかげもあって、最近では鬼嫁ひめりんごにプロレスごっこを挑んだりできるようにもなりました。素人考えかも知れませんが、男性ホルモンの影響で骨や筋肉が逞しくなったの「も」、一つの要因だと思います。

少なくともこれまでは、去勢手術を受けさせなくて本当に良かったと思っています。

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ひめりんごは、もう少し複雑ですね…。まずはヒート後を意識してこれまでの年1回から2回に健康診断を増やしつつ、お世話になっている獣医さんと、タイミングについて相談します。

で、避妊手術をした後は、血液検査などでホルモンバランスをマメにチェックすれば、健康で長生きしてくれると思います。

いずれにしても、私が納得するかどうかよりも、「このコにとってのベストチョイス」を、ひめりんごの目線から慎重に考えたいと思います。

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なお、これまでご紹介してきた内容は、すべて「こう言う説がある」というものをまとめたものです。現実的に愛犬たちのからだに起こっていることは、ひめりんごと平蔵以外知りません。なので、やっぱり知識と経験と、さらにハートのある獣医さんと長く、建設的で率直なお付き合いが、ワンコの犬生に重要なんだなと思いました。

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ご参考までに、海外の事情を少しだけ:
アメリカらしい極端な振れ

ところで、アメリカでは、ドッグランに「たまたま」のついた犬を連れて行くと、「無責任でモラルを欠いた飼い主だ!」と後ろ指を指される風潮があるそうです。ペットホテルなどの施設では、ほぼ、受け入れ拒否のようで、「責任ある飼い主はとにかく避妊・去勢手術をする」のが当たり前という感覚が強いそうです。

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この背景にあるのは、70年代に社会問題化した犬の殺処分だそうです。その結果、「子犬の卵巣または精巣を切除する行為が『ドグマ』化した」と言うジャーナリストもいます。

ドグマというのは、宗教的ニュアンスが強い言葉で、教会によって定められた信仰・モラル・行動などに関する規範とか、ある集団によって議論の余地なく定められた教義といった意味で、要するに「理屈抜きの決めごと」という感じです。

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ヨーロッパでは少数
ロンドンで開業しているある獣医師によると、避妊・去勢手術の依頼はアメリカもしくはカナダ人の飼い主がほとんどだそうです。

で、この計画しない出産ですが、今の日本で、例えばトイプーやチワワをノーリードで外飼いし、「気付いたら妊娠していた/させていた」といったことは起きないですよね。(繰り返しますが、ここでは愛犬に手術を受けさせるかどうかについて健康面の観点から書いてきました。)

さらにもう一つ、個人的には日本人の多くが盲目的に毒されていると感じることの多い、「欧米では」の例。ノルウェーなど北欧では、病気治療目的以外での避妊・去勢手術が法律で禁止されています。

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