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【超ショートショート】(127)~最後の涙の意味は?~☆Chage『永遠の謎』☆

教会の椅子に、
肩を落とした孤独を語る、
そんな背中の男が静かに座っている。

遠くからその男を見守る牧師さん。
「あの男がどんなことで孤独を語るのか?
少し見てみるか?」
そう心に呟くと、
意識を男の背中に向けた。

白い光のトンネルをくぐると、
病院のベッドに寝る女の人が見えた。

どうやら彼女は、大病を患い、
それほどこの世にいられる時間がない様子だった。

「ママ!これ見て!(笑)」

「ママ!私のも見てよ!(笑)」

「ほら、順番だよ!
ママを困らせてはいけないよ!(笑)」

(2人で)
「は~い!パパ!」

牧師さんは心に呟く。
「なるほど、あの男には家族がいたのか。」

それから、
牧師さんが見たのは、
病室の夫婦の会話。

「あなた、大変でしょう?毎日。」

「何が?」

「仕事に子育てに!だから、
毎日お見舞いに来なくてもいいのよ!
私なら大丈夫だから。(笑)」

「うん・・・(困寂)」

そんな会話をしたあと、
男が帰宅すると、
彼女がさっきの気丈さが嘘のように、
激しく泣き出した。

「あっ!洗濯物、持ってくるのを忘れた!」

男が洗濯物を取りに病室に戻ると、
病室のドアの前から彼女の泣き声を聞いてしまう。

彼女の様子が落ち着くのを待って、
病室のドアをたたく男。

「トン!トン!トン!
今大丈夫?もう寝てるかな?
あのさ、洗濯物、
持ってくるのを忘れちゃってさ。(笑)」

「あっ!はい!大丈夫!どうぞ。」

男は洗濯物を手にすると、
彼女の所に来て、
彼女には突然に感じるように、
きつく抱きしめた!

「俺もこわいよ!君が居なくなるなんてさ。(涙)」

「うん(涙)」

そんなシーンを見た牧師さんも、
ついもらい泣きして瞳(め)が霞(かす)むうちに、
病室から自宅に戻った2人を見る。

「ママ!ずっとおうちにいるの?」

「いるの?(笑)」

「えぇ、居るわよ!(笑)」

(男)
「・・・(笑)」

訪問看護師が来ると、
「では、こちらの痛み止めの注射をしますね。
もし夜中に痛くなるようでしたら、
こちらのお薬を飲んでください。
それでも痛みが治まらなければ、
遠慮なく電話してくださいね。(笑)」

彼女の様子は、
毎日の食欲も安定せず、
調子よく食べられたとしても、
次の瞬間にもどしてしまったり。
どうしてもお薬を飲むには、
胃に何かを入れないといけないからと、
朝昼夕と食べるということと闘っていた。

「ママ、おなかに赤ちゃんがいるの?(笑)」

そう娘に誤解されるほど、
腹水がたまり、
大きなおなかを抱えるようになった。

全身に現れる痛みから眠れず、
また痛みから横にもなれない長い夜もある。

そんな大変な毎日を、
男は彼女のために、
そして彼女との残り少ない今を、
慈しむように大切にしていた。

「も~う!また泣いてるの!(笑涙)」

「・・・(涙)」

彼女は昼間、仕事でいない男のために、
内緒でたくさんの手紙を書いていた。

「ママ、見せて!」

「いいけど、このことはパパに内緒よ!」

「何で?」

「それはね!・・・(笑)」

「うん!わかった!パパに内緒にするね!」

「私も!(笑)」

牧師さんは、そんな微笑ましい
子供たちを見て笑顔になると、
真っ黒いカラスが現れ、
牧師さんの目の前を真っ黒にした。
そして、
牧師さんがゆっくり瞳(め)を開くと、
まもなく臨終のシーンになる。

自宅の部屋には、
部屋の角(すみ)に医者と看護師、
ベッドの周りには、
子供たちと男がいた。

「ごめんね!パパはママに話があるんだ!
だからふたりにしてくれないかな?」

その訴えに答えるように、
医者と看護師が子供たちを
部屋の外に連れて行った。

男は彼女の左手を握りながら、
泣くことしかできずにいた。

「もう、そんなに泣いてどうするの?(笑)」

「・・・(涙)」

「これから子供たちを
あなたが育てなきゃいけないのに、
そんなに弱くてできるの?(笑)」

「・・・(笑)」

「あのね!(笑)」

「何だい?(涙)」

「あなたのこと、好きよ!(笑)」

「あぁ。(涙)」

「ずっ~と好きよ!」

「あぁ。(涙笑)」

「“あぁ”、じゃあなくて言って!
“愛してる”って!」

「愛してるよ!(笑)」

「もう、いつもそうなんだから、
もっとちゃんと言って!
これが最後のお願いだから。」

男は、真剣な彼女の瞳を見て、
深呼吸を2回してこう言った。

「愛してる!君のこと心から愛してる。」

「・・・(笑涙)」

ふたりは、
そんな最期の告白をしながら、
それぞれが生きるべき世界へと
別れていった。

医者が臨終の時刻を確認すると、
彼女の目尻から一筋の涙がこぼれた。
そして医者が気づいた。

「奥さん、とっても嬉しそうに笑っていますね!
さっき、どんな話をしたんです?(笑)」

牧師さんは、
そんな様子に、またもらい泣きをしていると、
教会の椅子に座っているあの男が、
牧師さんの見つけて、
こちらに歩いて来る。

「あの、牧師さん、
僕の話を聞いてもらえますか?」

牧師さんは、
男が座っていた椅子に一緒に座ると、
ある悩みを吐露される。

「牧師さん、僕の妻が大病を患って、
まだ幼い子を残して先日亡くなりました。
妻が亡くなった時、医者が
〈奥さんが笑っている〉と話したんですが、
確かに表情は笑顔でした。
でも、目尻からは涙がこぼれていて・・・。
あれは、どんな意味の涙だったんでしょうか?」

すると、
牧師さんは笑顔を浮かばて、
男の背中を撫でると、
右のポケットから、
一通の手紙を取り出した。

「これを読んでみなさい!(笑)」

「えっ?」

「今日はあなたと奥さんの
結婚記念日でしたよね!?(笑)」

「えっ?はい?・・・(困)」

「あなたご夫婦はここで式を挙げたんですよ!
憶えていませんか?(笑)」

「えっ!はい、そうでしたか・・・(困)」

「この手紙は生前、
あなたの奥さんから頼まれていたものです。
〈もしもの時に渡してください〉とね。」

「はい・・・」

「奥さんの最期の涙の意味は、
この手紙にあるんじゃないかな。
それに、奥さんに愛されたあなたなら、
もうその意味に気づいているんじゃないかな?(涙)」

「はい・・・」

牧師さんは席を立つと、
男から離れ、
最初に男の背中を見ていた場所に戻り、
再び、男の背中を見つめた。

まだ肩を落とした孤独を語る、
そんな背中のままの男。

男は、手紙を見つめ、意を決して封を開ける。
そして、ゆっくり畳まれた手紙を開くと、
静かなすすり泣きが聞こえてきた。

男が手紙を読み終えると、
男の背中は・・・
肩甲骨を開き、背筋が伸び、
どこか穏やかな微笑みを浮かべた
そんな背中となっていた。

そんな様子を見届けた牧師さんは、
心の中で男に拍手を送った。

そして、
男の隣に座っていた男の奥さんが、
牧師さんに会釈をすると、
牧師さんは左手を軽く肩の高さまで上げて、
静かに手を振った。

男には、
そんな様子もわからないだろうが、
教会のステンドグラスに夕陽があたり、
まるでスポットライトのように
男を神々しく照らした。


(制作日 2021.10.8(金))
※この物語はフィクションです。

今日は、
2008年10月8日発売
Chage アルバム『アイシテル』
このアルバムの最後に収録されている
曲『永遠の謎』を参考にお話を書いてみました。

また今日は、
「10月8日」の「10」と「8」で、
『永遠の日』みたいです。

そんなきっかけもあり、
永遠の別れをテーマにしてみました。

この曲のミュージックビデオがないので、
代わりに『永遠の謎』の歌詞を
少しだけ書いてみます。 

~~~~~
二つだったら 影が一つになった
君が去った 椅子をただ見つめてる
静かな日射しがじりじり強く
僕の心 焼き尽くす

いつも隣にいた描き 振り向いても探せない
先読みしたドラマは
逆光の中で白く消されてしまった

最後に落とした涙の 理由を教えて
永遠の謎が この胸を苦しめるんだ
~~~~~

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
Chage
『永遠の謎』
作詞 青木せい子 作曲 Chage
編曲 森俊幸
☆収録アルバム
Chage
『アイシテル』
(2008.10.8発売)

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