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【超ショートショート】(231)~孔雀の背中に恋をして〈7〉~☆CHAGE&ASKA『201号』☆

カフェを出ると、
チャラ男は右に曲がり坂道を登った。
坂道の両脇には、
海辺の家らしい古びた平屋の長屋のような
家が並んでいた。
坂道も車が通る道幅ではなく、
人や自転車が通れるほどの狭い小路。

「ほら!早くおいで!
そんなゆっくり歩いていたら、
日が暮れちゃうぞ!(笑)」
「ハーハーハ~(汗)」

チャラ男は、
時々後ろを振り返りながら、
私との距離がひらかないように、
止まっては待ち、
待っては歩きを繰り返した。

そんなチャラ男の姿に、
また不覚にもキュンとしてしまった。

坂道が終わる頃、
一番高い所にある家に、
チャラ男が入って行く。

「ここだよ!今日居るかな?
家に、おっちゃん」
「ハーハーハ~(汗)」

チャラ男は玄関を2回忙しくノックした。

「ドンっ!ドンっ!」
「おっちゃ~ん、入るよ」

その家の住民のおっちゃんの返事もなく、
チャラ男は玄関のドアを勝手に開け、
ずかずかと家の奥まで歩いていく。

私は、そんな不法侵入みたいなことは
出来ないと、玄関の前で立ち尽くしていた。

「な~にしてんの?いいから入りなよ!」
「でも~」
「でもも鼻くそもないから入りなよ!
おっちゃん居るからさ」

チャラ男は、
私の肩を持ち上げるように抱き上げ、
玄関を上がらせた。
そして、そのまま、
奥の部屋まで両肩を押すように、
私を運んだ。

「おっちゃん!おっちゃん?」
「はぁ?」
「おっちゃん!」
「だから何だ?」
「お客さん!
俺のオススメの今日の美人さん(笑)」
「何が今日の美人さんだ!
そもそもお前は女を見る目がないんだ!
女なら誰でもばばあでも
美人さんっていうくせに!」
「(小声で)おっちゃん!おっちゃん?
彼女は本物だよ!
俺の彼女候補なんだから(笑)」
「ほぉーお前の彼女か~どれとれ」

家の奥の部屋につながったテラスから、
絵を描く手を止めて、
チャラ男の誘いに乗って、
おっちゃんさんは、
窓枠に掛けられた洗濯物をかき分け、
私を見るために部屋へと入ってきた。

「ほぉー!まずまずのべっぴんさんだな!」
「おっちゃんにはやらないからな!」
「誰がほしいって言った?彼女とワシでは、
どう見たって親子だろう?」
「まぁっ!そうだな!じゃあおっちゃんの負けな」
「ハッハッハ!お前には不釣り合いだぞ!」
「おっ!負け惜しみか?おっちゃん!
そういうの大人げないっつーの!(笑)」
「ワシは本当のことを言ったまでだ!
ほら見てみろ!彼女を。」
「はぁ?」
「お前と居て彼女はしあわせか?」
「あ~、し、しあわせだよ!」
「お前のことじゃない!彼女がしあわせか?」
「・・・」

チャラ男はおっちゃんさんの質問に困り、
私を見つめた。

「うん!俺が彼女をしあわせにする!」
「あなたはどうですか?こいつと」
「へぇ?いえ~、あの~(汗)」

返事に困っている私に
近付いてきたおっちゃんさん。

「それで、あなたの本当の目的は何ですか?」
「へぇ?目的?」
「こんな都会的なオシャレなべっぴんさんが
こんな海辺の町に来るのは、異様だから」
「はぁ」

その話を聞いていたチャラ男は、
ここに来た目的を思い出したと、
2人の間に身体挟んで話しはじめた。

「おっちゃん?」
「何だ?」
「これさ、見たことある?」

おっちゃんさんは
チャラ男が見せたあの絵の写真を
一目見て、先ほどの明るい人柄から、
突然豹変する。
表情からほほえみを消し、
何かを覚悟したようにも見えた。

「この写真はどこで?」

と先ほどとは違う強い口調で質問を
私にぶつけてきた。

「あっ、これは・・・」
「あなた、どこから来たの?」
「とっ、東京です!」
「で、東京の人が何でこの絵の写真を持ってるの?」
「そっ、それは」
「それは?」

おっちゃんさんの
急な態度の変化についていけない私。
それを見兼ねたチャラ男が、
助け船のつもりの質問をする。

「おっちゃん?おっちゃん、
腹減ってないか?(笑)」
「腹か、空いてるな!」
「そうか!(笑)」
「朝からコーヒーしか飲んでないからな」
「じゃあさ、俺今からランチ持ってくるから、
ここで彼女の相手してくれるか?」
「あぁ~」
「あなたもおっちゃんとここに居てくれる?」
「あっ、えっ、と、はい!」
「じゃあいつものランチ持ってくるから、
おっちゃん頼むな!」
「あぁ~わかったよ!」
「彼女泣かせたら俺が許さないから!(笑)」
「あぁ~(笑)」

そうして
チャラ男はおっちゃんさんの家を出ていった。

私は、おっちゃんさんと2人にされた緊張から、
今にも泣き出しそうな恐怖心を、
おっちゃんさんに気づかれないように、
息を潜めさせるのに精一杯だった。

そんな私に気づいたのかどうかはわからないが、
おっちゃんが初対面の私に、
初めて優しい言葉をかけてくれた。

「まぁそんな所に突っ立ってないで、
どこかに座りなさい」
「・・・はい」
「で、この絵がどうしたのかな?」

私は、おっちゃんさんのあの絵の質問に
美術家で出会った日から、
ほぼ全てを話した。

「そんなに探していたんだ!」
「はい!」
「でもどうしてそこまでして探すの?
絵なんかどれも一緒だと思うし」
「会いたいからです!私」
「会いたい?誰に?」
「その背中の男(ひと)」

私のその話から、おっちゃんさんは、
メガネをかけ直し、写真を手に取り、
何度も目を細めたりが近付けたり離したり
を繰り返し、こう話した。

「絵のモデルは、
実在する人とは限らないんだ!」
「じゃあ?この絵の男(ひと)も?」
「画家の妄想」
「妄想って!じゃあ私、
妄想の中の人に恋してたんですか?」
「さぁ~、それはどうかな?」

玄関の扉が開く音がすると、
テラスから玄関へと風が一気に流れ込んだ。

誰かが部屋に入って来る。
部屋の前ののれんをくぐる男性が現れた。

「あっ!お客さん?」
「あぁ~、そうだ!
「こんな若い子連れ込んで?(笑)」
「バカ言うな!」
「バカって親父、今のはちょっと
ひどいんじゃないか?」
「ほぉーそうか!」
「ってあやまれよ!」
「それはできん!」

私はその会話を聞いて、
なぜかキュンとしていた。

「あの~、親父の?」
「へっ?」
「変なことを聞くな!
彼女はこの絵のことを尋ねにきた人だ」
「この絵?」

おっちゃんさんは、おっちゃんさんの息子に、
あの絵の写真を見せた。

「どれどれ?」

息子も写真を一目見て、
表情を一変させた。

「親父!これっ!」
「あぁ~、母さんが書いた絵だ!」
「今、家にあるよな?この絵」

息子の言葉に従いように、
おっちゃんさんはリビングから別の部屋へ。
その部屋から出て来ておっちゃんさんは、
絵を抱えて出てきた。

「すまんかったな!」
「えっ?」
「この絵のことだ」

そう話すとおっちゃんさんは、
あの絵だという絵を私に気づいたのか渡した。

ゆっくりと裏返すと、
美術館で出会ったときのままのあの絵が、
今目の前に、現れた。

「こっ!こっ!これです!(涙)」

絵と再開して興奮する私に、
息子がゆっくりと、
この絵の真実を話してくれた。
おおっちゃんさんは、
その話を遠くから聞こうと、
テラスへ出て行った。

「この絵は、母さんが親父と
結婚する前に描いたもの。
この絵を描いたとき母さんは、
病気で、長期入院するからと、
美大を中退。でも当時の画家でもあり、
母さんの絵の才能を高く評価してくれていた
教授が、コンテスト用に最後の絵のつもりで、
描いてみなさいと、母さんに描かせたんだ!
親父をモデルにして」

その後、おっちゃんさんの奥さんは結婚。
結婚後1年で病気が一時的に回復した。
その頃に息子ができたが、
出産後の体調不良が長引き、
精密検査をしたところ、
また病気が再発。
入退院を繰り返しながら、
奥さんは息子が10歳になるまで生きたという。
おっちゃんさんは、その10年間、
奥さんの看病と子育てと画家の仕事と、
働きづめだった。
睡眠時間や2~3時間じゃないというくらい、
息子も親父が寝ていた姿を
あまり見なかったという。

「でも、何で、美術館に?」

私は、ふと思い付いたことを質問した。

「あぁ~、あれは、親父が預けたんだ!
親戚の人に!母さんの描いた絵があると、
それも自分がモデルの絵だと、
あの頃を思い出して辛いと」
「そうですか」
「だから、親戚のおばさんが知り合いに
美術館の奥さんがいるから、
そこに預かってもらえば、
絵も傷まないだろうと、
子供の頃の親戚の集まりで聞いた気がする」
「うん」
「なぁ~親父!
でも何で今この絵が家にあるんだ?」
「・・・」

おっちゃんさんが息子の質問に困っていたとき、
助け船のタイミングがプロ的なカフェのチャラ男が、
ランチをたくさん抱えてきた。

「お~い。おっちゃ~ん!助けてくれよ~!」
「おい!息子!アツイを手伝ってやれ!
どうせアツイのアレは、パフォーマンス。
いいか、そこのべっぴんさん?
あんなナンパ顔に引っ掛かるなよ!」
「・・・はい」

チャラ男のにぎやかさな話し声が、
近付いてきた。

「やぁ!俺の彼女!元気だった?
やっぱ俺いないとさびしいっしょ?(笑)」
「いいえ!大丈夫です(笑)」
チャラ男が持ってきたランチを
テーブルに広げると、
私は今日が初対面の男3人と
ランチを食べた。

その途中、チャラ男は、
自分がいなかった間の
おっちゃんさんと私の様子が気になり、
あれこれ質問をした。

「それで、どうだった?絵のはなし」
「あぁ、え~と」
「あの絵さ、親父が持ってたよ!」
「へぇ?やっぱおっちゃんが書いたのか?」
「違うよ!あれは母さんが
親父にモデルをさせて描いて絵なんだ!」
「あっ!そうか!良かったな!絵が見つかって!
・・・見つかって?・・・えっ!?・・・」
「おい!どうした?急に!」
「いいや、俺を慰めないで」
「はっ!慰めてないよ!」

チャラ男はおっちゃんさんの息子の話と、
チャラ男と出会って私がカフェで話したこと
全てがいっぺんに理解されたように驚いている。

また何かを思い出したようにチャラ男は
こんな質問をした。

「じゃあ?じゃあ!じゃあ??
この絵の背中の男(ひと)は・・・
絵を描いたのがおっちゃんの奥さんだから、
モデルは・・・おっちゃん!?」

驚きの表情で、チャラ男は私を見つけた。
次第にチャラ男の表情も失恋した雰囲気に
なっていく。

「じゃあ、君の初恋は・・・」
「初恋?なんのこと?」
「お前はいいんだよ!黙っていろ!
サーフィン野郎の息子!
おっちゃん?な!なぁ!」
「・・・うん」

おっちゃんとチャラ男は、
以心伝心の会話をするように、
しばらく沈黙が続いたランチの食卓。

ランチを食べ終えると、
チャラ男がみんなで海に行こうと誘った。

そして、
チャラ男、おっちゃん、おっちゃんの息子
と私たち4人で、海に向かった。

~つづく~

(制作日 2022.1.23(日))
※この物語はフィクションです。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『201号』
作詞作曲 ASKA
☆収録アルバム☆
CHAGE&ASKA
『Code Name.1 Brother Sun』
(1995.6.28発売)

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