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【超ショートショート】(249)~Valentine's Day Lover~☆CHAGE&ASKA『南十字星』☆

まさか私がひと夏の恋をするなんて・・・

昨年夏、仕事と夏休みを兼ねて、
沖縄へ出掛けた。
滞在予定は1週間。
仕事4日プラス予備日1日、
残りの2日が夏休み。

仕事も4日で終わり、
予備日が夏休みになったことで、
私は沖縄の島へと渡ることにした。

ホテル着くと、
ロビーにある島のガイドブックを見つける。

その中に「南十字星が見える島!」
とあった。
私は本当に見えるのかと、
ホテルの人に尋ねたが、
「夏はシーズン外で見れないかもしれません」

でも、
とりあえず、幻的に南十字星が見えるかもしれないと、
ホテルから歩いてすぐのビーチへ、
夜出掛けた。

深夜24時頃、
もう睡魔には勝てないと、
ホテルへ戻ろうとした時、
突然何かにぶつかり、
倒れてしまう。

そのまま明け方まで意識を失ったのか、
眠ってしまったのか・・・、
まだ夜のビーチで、
私が目を覚ました。

「だっ!大丈夫ですか?」

と、初めて聞く声が話しかけてきた。
私は声のするほうを見ると、
うっすら明るくなり始めた朝の光に、
一人の男性の顔があった。

「あ、あの~」
「はい!」
「ここは~?」

その男性は、
数時間前の出来事を私に丁寧に解説した。

「それで、そのまま倒れられて、
今、あなた様は目覚められたという状況です!
本当にごめんなさい!」

私は、
その男性の話を信じるも信じないもなく、
ただこの状況が不思議で仕方なかった。

「じゃあ私はホテルに戻ります!」
「あっ、はい、じゃあ僕送ります!」

そのまま男性は私をホテルの入口まで送り、
別れた。

私は部屋に戻り、
もう一眠りして、
遅めの朝食を9時に済ませた。

そして、
島の探索へと出掛けた。

夕方ホテルに戻ると、
フロントに預けた鍵を受け取りに向かう。

「おかえりなさいませ!
白鳥様、こちらがお部屋の鍵でございます」
「ありがっ?・・・あなた!?」
「あっはい!今朝方は大変失礼なことをしまして、
申し訳ありませんでした(笑)」
「ホテルの人だったんですね?」
「はい!(笑)」

夜、ルームサービスを頼む。
部屋のドアを開けると、
ホテルの人が部屋まで運んでくれた。

「あの~失礼ですが」
「はい」
「今日、うちの若社長とお話されて今したよね?」
「わっ?若社長?」
「えぇ、フロントで鍵を受け取られた際に対応した・・・」
「へぇ?あの人が若社長?」
「はい!」
「知らなかった」
「そうですか、てっきりお知り合いか、
恋人の方かと思いました。」
「こっ!恋人!」
「えぇ、若社長はモテますから」
「ちっ!違います、私は・・・」

そのホテルの人の話では、
若社長はもともと東京で働いていたが、
昨年母親が倒れたことがきっかけとなり、
沖縄へ戻った。
それから、若社長がホテルで働き始めると、
女性客から人気を集め、
若社長目当てにたくさんの女性客が、
今もあとを立たないという。
ただ、若社長には、
特定の女性もおらず、
一時は恋愛対象が女性ではないのではと
噂もあった。

「白鳥さんがホテルに泊まられた最初の夜、
お出掛けになられる姿を見た若社長は、
白鳥さんを心配されて、夜24時近くに、
ビーチまで探しに出掛けられました」
「へっ?」
「えぇ、朝ご一緒に戻られたと聞いていますので、
ひょっとして若社長の彼女さんかと思いました」
「いいえ、あの時、帰ろとしたら、
何かにぶつかって私倒れて、
そのまま気を失って朝に・・・」
「そうでしたか。じゃあ若社長はずっと
付き添っておられたのかもしれませんね。
若社長はとってもお優しい方ですから」

翌日の沖縄滞在最後の日も
のんびり島をぶらぶらして過ごした。

その夜、
もう一度、南十字星を見に
ビーチへ向かおうとしたら、
部屋のドアの前に若社長が立っていた。

「ぅわっ?!」
「あっすみません白鳥様」
「どうされたんですか?」
「いや、あの~ですね。
南十字星は沖縄でも夏には見えないというか、
出ないようなんです!」
「出ない?」
「はい!12月から6月に見られると言われています」
「へぇ?今日は8月ですよ、そんな~(涙)」
「あっ、でもですね!冬には見れるわけですから、
また当ホテルにお越し頂ければと・・・」
「冬まで待てって?」
「いやいやそうではございません」
「じゃあ、今すぐ南十字星を見せて!」
「え~とそれは僕でも出来かねますが・・・」
「・・・(涙)」
「でも、あの~、大切なお話があります」
「何ですか?」

若社長は、
少し辺りを見回して、
私に向けた身体の体制を整える。
そして、
まるで芸能ネタになりそうな話をする。

「白鳥様!」
「はい」
「僕、あなたに惚れました!
結婚してください!」
「へぇ?結婚??」
「はい!」

私は、突然のプロポーズは、
何かの悪戯と思い、つい笑ってしまう。
その姿を見た若社長は、
少し恥ずかしそうな肌色をしていた。

「突然、そんなことを言われても、
今日お会いしたばかり。
私、あなたのお名前も何も知らないんですよ!
それで結婚と言われても」
「そうですよね!でも僕は真剣です!」
「でも・・・」

私の困った様子から、
若社長はこんな提案をした。

「南十字星は冬に見れますから、
来年のバレンタインの日に、
もう一度ここに来てください!」
「でも・・・」
「飛行機代もホテルのこのお部屋も
僕が手配しますから、だから・・・」
「・・・バレンタインに来てどうするんですか?」
「今日のプロポーズの答えを・・・」
「答え?」
「はい・・・」

私は翌日、
チェックアウトのために部屋を出ると、
エレベーターの前に若社長が立っていた。

「おはようございます白鳥様」
「おはようございます。どうしたんですか?」
「お帰りの空港までお送りしようと思いまして」
「・・・」

そのまま若社長は空港まで私を送った。
空港での別れ間際、
連絡先を交換し、とりあえず友だちとして、
付き合うことに私は了承した。

その返事に嬉しそうな顔をした若社長は、
お互いが見えなくなるまで、
私に手を振り続けた。

それから、
毎日1日1回はメールの連絡。
お互いが干渉しないために、
即返信はせず、求めず、というルールを決めた。

8月9月10月と、
メールでの友だち期間が長くなると、
メールすることがお互い楽しくなり、
時々電話もするようになっていた。

11月に入ると、
この友だち関係に亀裂が入り始める。

私がメールをしても、
ずっと返信もなければ、
若社長からのメールも来なくなってた。

もともとモテる人だから、
やっぱり私は遊ばれただけね!

と内心ショックだった私。

そのまま連絡がないまま、
バレンタインの約束の飛行機のチケットが
1月下旬に届く。
添えられた手紙には一筆、

「お会いできることを楽しみにしています」

と書いてある。

バレンタイン当日。
荷造りはしたものの、
やっぱり不安が先に立つ。

でもただで沖縄に行けるのだし、
南十字星も見れるならと、
私は沖縄へ向かうことにした。

羽田空港の搭乗口で、
「これから沖縄に向かいます!」
と若社長にメールをした。

ほんの少しの期待をしながら、
沖縄の那覇空港、到着ロビーを出た。

「やっぱり誰も居ないわね」

私は、
そのまま島へ向かうフェリー乗り場へ。
フェリーに乗り、島に着いても、
やっぱり誰も待っていなかった。

夏に泊まった若社長のホテルに向かい、
フロントでチェックイン。

「白鳥様、ようこそお越しくださいました
若社長は白鳥様のお部屋でお待ちでございます。」

私は、前と同じ部屋の鍵を受け取ると、
フロントの案内を断り、
一人で部屋へ向かった。

部屋の前、居ると言われた若社長との
久しぶりの対面に、息づかいが乱れていた。

一つ二つ三つと深呼吸をして、
四つ目の深呼吸、息を吸って、
止めて、ドアを開いた。

部屋には、やっぱり誰もいなかった。

部屋に荷物を置き、
若社長が居たかもしれない痕跡を探した。
テーブルにウェルカムシャンパンがメッセージ付きで
置いてあった。

メッセージには、
「このシャンパンを一杯飲んだら、
あの出会ったビーチに夕方5時には来てくれ!
待ってる」

送り主は若社長だった。

メッセージ通り、
シャンパンの一杯飲み、
夕方5時あのビーチへ向かった。

ビーチの入り口の草を避けながら、
ビーチにたどり着くと、
テーブルとイスがあった。

夕方の薄暗い中、
人影が私のほうへ歩いてくる。

「こんばんは!ようこそ!」

若社長だった。

「何で・・・」
「メール?その話はディナーの後にしよう」
「ディナーって」

若社長は私をイスに座らせると、
テーブルに並べられたディナーを、
食べてと目配りして見せた。

微笑みながらディナーを食べる若社長を見ながら、
私は連絡が取れず、不安だった毎日の怒りを
今はしまっておこうと姿を潜めてくれた。

ディナーが終わり夜9時頃、
ビーチにある流れ着いた大きな流木に
ふたりで座った。

そこで若社長が、
メールも連絡もできなかった事情を話した。

「突然11月に入院加療が必要といわれて、
そのまま入院し、意識はあったけど、
君にメールできるほどの体力がなかった。
一時余命宣告されるほど体力が落ちて!
でも、君とのバレンタインの約束を
果たしたかったから、
何とか今日は元気になったよ」

「元気になったって、病気だったの?」

「でも、もう大丈夫なんだ」

「どこが?少し痩せたでしょう?」

「これでも少しは体重戻したんだけどな」

しばらく言葉をなくした私。
若社長はその沈黙の中、
夏のプロポーズの答えを求めた。

「これプレゼント」

若社長から渡されたプレゼントには、
シンプルな指輪が大小2つ入っていた。

「あそこに南十字星、わかる?」

と若社長が夜空に指を指した。
私はその指先を頼りに夜空に線ひき、
南十字星を探した。

なかなか南十字星の星を見つけられない
私を嬉しそうに横で眺める若社長。

「プロポーズの返事はあすの朝でいいから、
今夜だけでも僕と一緒に居てもらえませんか?
1日だけの恋人になってくれませんか?」

私はその唐突な申し出に、
星を探す振りをして焦りを隠した。

お願いをした若社長は、
私の返事を待つ間ずっと頭を下げていた。

その姿を見た私は、
「いいよ」
というしかなかった。
若社長へのはっきりとした自分の気持ちが
この時、あるわけでもなかった。

ふたりは部屋へ戻り、
朝まで出会って2回目で、
本当の恋人のように過ごした。

朝焼けになる頃、
肌寒さで起きてしまった私は、
隣で寝ているはずの若社長がいないことに、
とても心配してしまう。

ベッドから出て部屋中を探したが、
若社長はどこにもいなかった。

「やっぱり騙されたのかな」
と落胆していると、部屋へドアが開いた。
私は急いでドアへ向かうと、
ドアを手で押さえながら、
ルームサービスの朝食を運ぶ若社長がいた。

「どこに・・・」
「あっ!おはよう、起きちゃったのか(笑)」
「どこに・・・(涙)どこにいたの?!」
「いや~君が寝ている間に、
朝食を用意して驚かせようと思ったんだけど、
作戦失敗だな!はっはっは(笑)」

私はもう言葉が出なかった。
出るものは込み上げてくる涙だけだった。
ほんの少しの時間離れていただけなのに、
きのうのビーチではなかった若社長への
特別な気持ちに、この時初めて気づいたのである。

「プロポーズの返事は、もう気にしないで。
君にはやっぱり無理は言えない。
僕の身体のこともあるしね」

1泊2日の沖縄旅行の予定だった。
沖縄2日めは、またフェリーに乗り、
空港へ向かう予定。

「僕、一度帰って、フェリーの時間になったら、
迎えに来ますから、それまで待っていて」
「でも・・・」
「僕の最後のお願いです。もう少しだけ
恋人らしいことさせてください」

約束の時間より早めに迎えに着た若社長。
一緒に島を歩いて、フェリー乗り場へ。

そのままお別れのつもりだった私は、
フェリーに乗り込む若社長に尋ねた。

「どうして?」
「僕、空港まであなたを送ります!」

そのまま空港に着いてきた若社長。
出発ロビーで本当のお別れを迎える。

「僕、あなたに会えて幸せです」
「うん、身体・・・」
「あっ身体はもう大丈夫なんです。
新発売いりません(笑)」
「でも・・・」
「泣かないで笑ってください!
僕あなた笑顔、好きですから(笑)」
「・・・(笑)」

私は芽生え始めた自分の気持ちを言えず、
そのまま搭乗口へと向かった。

若社長からメールが届く。

「また沖縄に来てください!
僕いつまでも待っていますから。
きのうの1日だけの恋人の思い出、
一生忘れません。大切にしますね!
では気をつけて東京へお帰りください(笑)」

私は身体の震えを押さえることができなかった。
込み上げる別れの不安と
若社長の出会ったあの瞬間からの優しさ、
バレンタインの夜の1日だけの恋人の温かさ、
このまま別れてしまうと、
そのすべてを失う気がした。
私は、その心の声に従って、
若社長と別れた出発ロビーに戻った。

ロビーを探すと、
人の多さで見つけることができなかった。
帰りの飛行機も、すでに飛び立ち、
私は途方にくれ、一件のお土産屋さんの
琉球ガラスコーナーへと歩いた。

色とりどりのきれいなガラスに見惚れていると、

「あれ、どうしたんですか?」

と声が聞こえた。

「このグラスきれいですよね!
あなたに贈ろうと思って選んでいたんですよ(笑)」

ふと声の主を見上げると若社長だった。
私はその場で泣き崩れた。

ふたりは、
夫婦の琉球ガラスのグラスを買い、
再びフェリーに乗って、
島へ渡った。

フェリーのふたりの左手の薬指には、
若社長がプレゼントした
大小のリングがあった。

夜のあのビーチ、
南十字星を探す大小の人影が、
時々一つになりながら、
夜空の星たちに混じって、
南行きの波に愛をのせて
サザンクロスにふたりの誓いを運ばせた。

(制作日 2022.2.15日(火))
※この物語はフィクションです。

今日は、
本当はバレンタインにあわせて、
公開する予定でしたが、
noteのメンテナンスなどあり、
1日遅れてしまいました。

今日、参考にした曲は、
1982年2月14日発売された
CHAGE&ASKAのアルバム『黄昏の騎士』収録曲の
『南十字星』。

バレンタイン発売なのに、
夏の歌のようなので、
夏の出会いからお話を始めました。

こんな出会い方やこんなハッピーエンドも
世の中にはあるのかなって。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
CHAGE&ASKA
『南十字星』
作詞 ASKA・松井五郎
作曲 ASKA 編曲 瀬尾一三
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『黄昏の騎士』
(1982.2.14発売)



 


 

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