見出し画像

【超ショートショート】(230)~孔雀の背中に恋をして〈6〉~☆ASKA『I'm busy』☆

私は、
あの絵と美術館で会えなくなってから、
写真が趣味となった。

あの絵と同じ風景になる砂浜を、
旅先にして、
週末の休みでは、近場の砂浜。
大きな休みでは、遠方の砂浜。
そんなふうに、
一年の旅のスケジュールを決めていた。

ほぼ2年で、
有名な砂浜や地図にある砂浜は
行き着くした。
だが、どれも違うと思った。

3年目からは、
地図を片っ端から買い漁り、
名前が付けられていない、
地元の人しかこない
小さな砂浜を見つける旅へと変わった。

1~2年の旅のように、
交通手段も、砂浜までの道も、
わからないまま、
その日の旅に挑んでいた気がする。

初夏の陽気に、爽やかな海風、
砂浜までの道端の緑が新緑色をまとい始めた頃、
その砂浜にたどり着いた。

そう後に知ることになる。

いつものように、
砂浜を端から端へと歩き、
美術館の館長さんがくれた写真のコピーと、
同じ風景になる位置を探した。

「ついに?」

と叫びたい気分になる、
あの絵と同じ風景がこの砂浜で出会う。

そして、
あの絵と同じような構図で
写真を何枚も撮った。

どうしても撮影するなかで、
あの絵の背中と同じポーズをしたくなり、
この日人生初めての自撮りに挑戦。

「あっ!」
「カシャ!」

と、自撮りのやり方がわからないで
砂浜の畳一畳分の距離を
一人ハーハーと自撮り初の挑戦者の声が、
波打ち際の波の音を欠き消すように、
砂浜に響いた。

「お困りですか?僕撮影しましょうか?」

一人の地元の男性が話しかけてきた。
それだけ、
私の様子を見兼ねていたのだろう。

「ふぁっ!すみません!お願いします」

そう話して、
スマホと一眼レフカメラを託し、

「このように撮ってもらえますか?」

とあの絵の写真を手渡した。

一度撮影すると、
私がチェックに男性のもとへ、
それを少なくとも10回ほど
繰り返したと記憶に残っている。

「ありがとうございました!」
「いいえ。でも、同じ写真で、
顔は写さなくてもいいの?」
「あっ!はい!」
「あっ!そうなんだ!かわいい顔してるのに、
なんだかもったいない気がするね」
「(ナンパに警戒)そんなことはないです(笑)」
「で!これからどうするの?」
「へぇ?これから?」
「いや~、地元の人じゃないし、
観光客がここに来るのも珍しいからさ」
「あっ!そうですね」
「で?(笑)」

男性は、まだ20~30代くらいの、
日に焼けたチャラ男にも見えるが、
まぁまぁのイケメン。

「僕さ、近くてカフェしてるから、
お腹空いてる?」
「はい・・・」
「じゃあうちに食べに来なよ!
美人さんだから、特別に案内してあげるからさ」
「いや、大丈夫です(苦笑)」
「何、遠慮しないでさ(笑)」

私は仕方なく、
チャラ男について行った。

カフェは、古民家を自ら改装した、
1980年代の湘南を舞台にしたドラマの
カフェのような雰囲気の内装。
窓からは、あの砂浜と海が見えた。

「さぁ、好きな所に座って!
今飲み物出すから。」

言われた通り好きな場所に座り、
窓から海を眺めた。

チャラ男が何故かメロンソーダを運んできた。

「あれ?苦手?
君に似合うと思ったんだけどな(笑)」
「あっ、はい・・・ではいただきます(苦笑)」

チャラ男は、
キッチンに戻らず、
私の前に座り、
今まさにメロンソーダを飲もうとする
瞬間をチャラい笑顔で見つめている。

「へぇっ、ゴホン!ゴホン!」

私がチャラ男が見ている恥ずかしさで、
メロンソーダを喉に詰まらせてしまった。

「あらあら大丈夫?(笑)」
「ゴホン!だっ、大丈夫です(苦笑)」
「それにしても、こんな所に
何しに来たの?」
「ゴホン!えーと、ゴホン!」

私はここで本当の旅の目的を
このチャラ男に話していいのか考えた。

「あの~ゴホン!」
「うん!大丈夫?」
「はい。あの~この絵をご存知ですか?」
「どれ?」

私はチャラ男に再び、
砂浜で見せたあの絵の写真を見せた。

「あれ?さっきの?」
「はい」
「この絵がどうしたの?」
「この絵の
この背中の男(ひと)を探しているんです」
「背中?」
「これ、ここ、この人」
「う~ん、僕かな?(笑)」

チャラ男がふざけた様子で「僕かな?」と
答えたことに、私はキュンとなってしまった。

「ほっ、本当?」
「ハッハッハ(笑)」
「えっ?」
「悪いけど、それは僕じゃない」
「そうですか」
「でも何で、その~背中の人を探してるの?」
「・・・」
「何で?」
「・・・好きなんです」
「この背中の男(ひと)?もしかして初恋?」
「ゴホン!違います!この絵が好きなんです!」
「じゃあなんでそんなに顔、赤いの?」
「・・・」

チャラ男は、私をからかったあと、
再びあの絵の写真を手にして、
何度も目から
近づけてみだり離してみたりして、
何かを思い出したように話し始めた。

「そう言えば、あのおっちゃん、
絵描きって言ってたな」
「おっちゃん?」
「あ~、この街にいる絵描きのおっちゃん。
もともとプロの画家さんで
都会でも生活してたけど、
急にこの街にやって来て、それからずっと、
海を眺めながら絵を描いてるってさ」
「そうですか」
「この絵さ、おっちゃんの描く絵に
似てる気がするんだよな」
「へぇ」
「とりあえず、行ってみるか?な!(笑)」
「へぇ?」

チャラ男はカフェの入口の前まで歩くと、
私について来るようにと手招きした。
私も仕方なく言われるがまま、
チャラ男に従った。

~つづく~

(制作日 2022.1.22(土))
※この物語はフィクションです。  

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~

参考にした曲
ASKA
『I'm busy』
作詞作曲 ASKA
☆収録アルバム☆
ASKA
『NEVER END』
(1995.2.27発売)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?