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【超ショートショート】(190)~ねねの道の監視者は誰?~☆ASKAコンサート『higher ground』in京都より☆

写真を整理していた。
「そういえば、ここに、
美味しい食べ物屋さんってなかったかな?」
そんな独り言を写真一枚一枚に語りかけては、
遠い昔を思い出していた。

あの頃、夢と現実の区別がつかない程、
何かに夢中だった。

「どうして?こんなに?」
そう自分に尋ねて、
いつも同じ答えが心の底から帰って来た。
「好きだから!」

これは夢の世界のはなし。

あの頃、
〈京都に遊びに来ないか?〉
と誘われた・・・夏のそよ風に。

秋の色とりどりの紅葉が
高揚とする人々を喜ばせようと、
さまざまなご利益の効用を用意して、
京都の街でお出迎えをしている。

新幹線の改札を出ると、
駅前のバス乗場に急いだ。
待ち合わせのバス停を通る
100番のバスに乗車。

三十三間堂、五条坂、清水道と通過し、
少しずつ車内が空いた頃、
祇園に着いた。

バス停から横断歩道を渡ると、
八坂神社の西樓門がある。

とりあえず京都で
一番有名な神社でお参りを済ませ、
待ち合わせ場所に急いだ。

八坂神社の奥にしだれ桜の木があった。
〈ここに着いたら連絡して!〉
と言われていたから、
着いたことをメールで知らせた。

すぐに返信が届く。
〈後ろにある洋館の前を通って、
その道に沿って歩いてくれ!〉
言われた通りに、
洋館の前を通り、横切る道を渡り、
突き当たりにめげずに右に折れ、
また突き当たりを左に折れると、
ザッ!京都という景色に出会う。

通りに過ぎる旅人たちが、
その通りの名を話していた。
「ここがねねの道っていうのよ!」
「あの有名な!」
「京都らしい道だね!」

そんな旅人の声と、
ねねの道のいにしえの頃に
思いを馳せていると、
〈早く歩け!〉
とメールが届いた。

「わたしはどこからか
監視されているのだろうか?」
と不安に初めてなりながら、
言われた通りに、
ねねの道を端から端まで歩いた。

ねねの道の端に、
また横切る道に出ると、
左手に大きな鳥居が道の途中にあった。

〈その鳥居をくぐれ!〉
とまたメールが届いたが、
鳥居の手前に、
右にねねの道のような
京都らしい道があった。

少しだけなら歩いても、
見つからないと思い、
その鳥居の手前で、
右の道に入ってしまった。

〈その道は危険だ!〉
とすぐにメールが来た。
〈でも、一度入ってしまった道を
後戻りはしてはならぬ!〉
と警告するメールが届く。

「じゃあ、どうしたらいい?」
と質問をメールすると、
〈次に現れる左手の細い道に入れ!〉
と返信が来た。

数歩歩くと、
言われた通りに細い道が現れた。

〈その道の遠くを見るな!〉
とメールが来たが、遅かった。

途方もなく長いなだらかな坂道の先に、
突然スキーのジャンプ台のような
勾配の上り坂が現れたのである。

〈その男坂を歩いて来ないと
もう俺に会うことはできなくなるぞ!〉

「さっきの鳥居の道からではダメですか?」

〈それをしたならば、
俺とお前は同じ世界で暮らすことができなくなる〉

「どういう意味ですか?」

〈いいから、俺に会いたいならば、
早よう男坂を上がって来い!
ちゃんとお前を受け止めてやるから〉

仕方なく、その男坂を歩いた。
歩いても歩いても、坂の頂上が遠くに逃げていく。
でも歩いて歩いて、会いたい会いたいと、
一歩一歩に祈りを込めて坂を上る。

男坂の入口から歩きはじめて約1時間。
ようやく坂の頂上が見えた。

頂上だと喜び駆け出すだけの体力がないまま、
歩く速度を変えずに、
坂を上りきった。

〈いやいやご苦労!〉
とメールが届く。

〈では次は、左手にある神社に来い!〉

言われた通りに、左手に神社の入口があった。
その入口を越えた先に、
本堂があった。

〈その本堂でお参りしろ!〉
とメールが届くので、
言われた通りに、お参りを済ませ、
近くにあったベンチに座ろうとした瞬間、
メールの着信音が、
けたたましく鳴り出した。

ほかの参拝者を驚かせるように鳴った
着信音をあわてて切る。

〈絶対にベンチに座るな!〉
と、それを伝えるために、
あの着信音を鳴らしたのだと思って尋ねた。

「疲れたから座りたい!
座ってもいいですか?」

〈ダメだ!もし俺に会う前に一度でも
とこかに座ったならば、
また俺と会うことは、
向こう1年はできなくなる!〉

疲れた気持ちをだますように、
座ることをあきらめ、次のメールを待った。

〈奥に階段があるから、
それを登ってこい!
俺はそこで待ってるから〉

言われた通りに、
階段の入口を見つけ、
ゲートをくぐり、
少しゆっくりとさせた階段を上る。

少しずつ、
遠くが見渡せる高台に来ると、
一望できる京都の街に見惚れ、
歩きをお休みする。

〈おい!早く歩け!
俺がここにいるぞ!こらっ!〉

そんなふうにメールにおしりを叩かれ、
疲れきった脚にムチを打つように、
残りの階段を上る。

〈おい!俺はここだ!見えるだろう?〉
と辺りを見渡したが、
誰の姿もなかった。

「どこにいるのですか?」
とメールをしたが、
先ほどのように返信は届かなかった。

高台の奥から、
登山者のような姿をした男性が歩いてきた。

「ひょっとして、あなた、
龍馬さんの彼女ですか?」

「へぇ?龍馬さんってどなたですか?」

「いえね、
あなたの後ろにずっと龍馬さんが、
一緒にいらっしゃいますよ!
だから、てっきり
新しい彼女かと思ったのですが(笑)」

「あの~、だから、龍馬さんって誰?」

「あなた、知らないんですか?
あの坂本龍馬ですよ!ほらっ!
あそこにお墓があるでしょう!」

「でも、
私の好きな人は龍馬さんではありません。」

「じゃあ、あなたの好きな人が
坂本龍馬さんとご縁のある人なのでしょう。」

「なぜそう思うのですか?」

「それはね・・・」
と言い残し、
その男性は階段を下りて行った。

男性が指差した坂本龍馬さんのお墓だという
場所に来ると、
ほのかに線香の香りがした。

とりあえず、お墓に手を合わせた。

〈今日は会いに来てくれてありがとう!〉

そう話す初めて聞く男の人の声がした。
目を開けるのが怖くなり、
その声が聞こえなくなるまで、
手を合わせ続けた。

〈そんなに怖がらなくていいよ!
後ろを向いてごらん!
ここからの京都の眺めは最高だよ!
ほら!怖がってないで、
僕に君の顔を見せてくれ!〉

「僕?」

恐る恐る、合掌する手を離し、
目を開けた。
そして、
言われた通りに、
後ろを振り返り、
京都の眺めを見つめた。

「どこにも、誰も居ないじゃないか!
声のするあなたはどこにも居るの?」

とつい声に出して独り言。

〈ポンポンポン!〉
と肩を叩かれた気がして、
その方へ振り返ると、
坂本龍馬さんではない、
龍馬さんが立っていた。

〈ごめん。ちょっといじわるだったかな?
今日のやり方は?〉

その質問に、返す言葉もなく、
ただ溢れてくる会えた嬉しさで泣いた。

〈そんなに泣くなよ!〉

慰めようと頭を撫でてくれるあなたに、

「会いたかったのに!
何年ぶりに会えるって嬉しかったのに!
こんな意地悪して!もう~!(涙)」

そんな二人の姿を、
坂本龍馬さんはお墓の窓から
笑ってお良さんと覗いていた。

(制作日 2021.12.10(金))
※この物語はフィクションです。

今日は、
2019年12月10日開催された
ASKAさんのコンサート
『ASKA premium ensemble concert
-higher ground-』が
京都で初日を迎えました。

そこから、
今日のお話になりました。
京都旅をしたら、
誰もが一度は歩くねねの道や八坂神社。
またいつか行ってみたいと思って、
お話に登場させました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/



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