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【超ショートショート】(285)~孤独な旅路、あの子を求めて~☆ASKA『今でも』☆

それでも信じていた。

ふわっとした同じ空間にいるだけの
それほど交流のない人から
旅行の誘いが突然あった。

僕はメンバーを聞いたのか聞かなかったのか
憶えていない。
だが「あの子がいるよ!」という
テレビの通販番組のような
営業トークにすっかりと乗せられ、
「行く!」と迷いもなく、
即答していた。

旅行の日、
旅先は知らされていたが、
どんな交通手段で行くのかは、
当日連絡すると言われていた。

荷物を揃え、
連絡を待っていたが、
全く連絡が、誰からもなかった。

ならばと僕から連絡しようと、
アドレス帳をチェック。

旅行に一緒に行くメンバーの連絡先を
僕は誰一人知らなかったようだ。

それは、
彼らは僕の友だちではなく、
知人という関係だったからだろう。

僕は連絡を取れないとわかってから、
「何で僕を旅行に誘ったのか?」と、
つまらなくて悲しい想像なんてしている余裕もなく、
「どうしたら旅先に行けるのか?」と、
地図と格闘を始めた。


目が覚めた。
朝だった。
僕はまだ家に居た。

スマホを何気なく確認。
「2:12am これから迎えに行く!」

僕はそのメールに返信した。
「今どこ?」

「旅先だよ!」

「あの子は?」

「一緒だよ!」

「これから電車で交流する!」

「頑張って!」


僕は電車に乗った。

車窓を眺めながら、
ただあの子に会えるのを楽しみにしていた。

電車は、
たくさん人の住む家々を追い越した。

「どんな人が住んでいるんだろう?
どんな日常なんだろう?
どんな仕事をしているんだろう?
どんな人と暮らしているんだろう?
ここに住めば幸せな別の人生が歩めたのだろうか?」

彼らがいる街の駅を降り、
温泉街へと歩いて向かった。

その途中、
旅行を満喫した様子の彼らを見つけ、
最初から一緒にいた顔をして、
彼らの後ろ側にこっそりと合流してみた。

彼らは、
僕に優しい言葉をかけるでもなく、
最初から居ても居なくても同じように、
僕以外の仲間と楽しく旅行をした。


僕は、夜、
眠れずにいた。

旅館の僕だけの部屋から抜け出し、
温泉街の夜道を
目的地もなく歩いた。

二股に分かれ道の真ん中に、
和菓子屋さんがあった。

夜も遅く、
まだ明かりを灯したその店から、
1人のおばさんが出てきた。

「これからどこへ?」
「いやどこにも・・・
ちょっと眠れなくて散歩に出ただけです。
もう旅館に帰ります。」

僕は慌てて来た道を引き返そうとした時、

「何だ!根性試しもしないのかい?」
「根性試しって?」

二股に分かれ道の先にあることを、
そのおばさんが語り始めた。

「この道の先には、
星空が見えると有名な山がある。
左の道は近道で、右の道は遠回りの道」
「近道ってどれぐらいの近道?」
「な~に、ちょっと川を渡ればいいだけだよ!」
「川を渡るだけ?」
「ふふふ(笑)渡ると言っても、
橋は昨年の豪雨で流されて無いんだよ」
「じゃあ渡れないじゃないですか?」
「いや、それが渡れるんだよ!」
「どうやって?」
「それが根性試しってことだ!」

僕はおばさんの視線に操られ、
近道の左の道へと歩いた。
しばらく歩くと、
暗闇から川の流れる音が近づいてくる。

川に架かる橋の前、
流されたという橋の全貌を確認。
両サイドの橋は残っているものの、
橋の真ん中だけ
大きな穴が開いていた。

川の橋の横には
小さなライトに照られた
橋の渡り方という説明書がある。

~~~~~
この壊れた橋の渡り方

橋の手前にあるロープを使い、
向こう岸に渡れ

ただし、ロープは手で持ってはいけない。
~~~~~

僕は恐る恐るロープを見つけ、
ロープの頑丈さに安心したものの、
手以外の使い方がわからなかった。

「おやおや、どうした?」

突然僕の背後から大きなおばさんの声がした。

「そのロープの使い方はわかったか?」
「いいえ」
「じゃあロープに近づいてごらん。
あとは勝手にロープが準備してくれる」


僕はロープへ近づいた。
1歩1歩、慎重に。


僕は暗闇に隠れたロープを
一瞬見失った。
そして、
僕の首にロープが巻き付いた。

僕はそのまま
首から宙ぶらりんになった。

向こう岸に渡る途中、
向こう岸に黒い人影が現れ、
大きな鎌で、
向こう岸に渡されているロープを根本から切った。
僕はそのまま暗闇の中の川へ落ちていった。


遠くでかすかに人の声が聞こえてきた。
僕はどれくらい意識を失っていたのかと考えていると、
僕の体に上に重たいものが乗ってきた。

ただ僕は目も開けられず、
その重さに耐えた。

「何してるの?もう朝よ!
早く起きなくていいの?
あの子帰っちゃうわよ」

母に似た聞き覚えのあるおばさんの言葉に、
僕は疑問に思った。

「あの子?」

僕は結局、旅はみんなと合流できたが、
僕が居ても居なくても、
あの子が僕と話してくれることはなかった。

「ほらっ!起きて!」

またおばさんの声がした。
仕方なく僕は目を覚ます。

僕の体に上に乗る茶色い体が見えた。

「はっ!あの子?」

僕はしばらくあの子がしたいように、
僕の体をあの娘に預けた。

僕は母に
「あの子が帰って来た」
と話した。
母は
「そうね」
とただ笑って僕とあの子を見ていた。


あの子は僕というおもちゃに遊び疲れ
眠りについた。
僕もそのまま一緒に眠りについていった。


「今日はありがとうございます」
「いえいえ」
「あの子に会えて息子も少し元気になったようです」
「あの子が旅立ってまだ半年ですか?
寂しさが募って当然ですね」
「えーそうですね。でもあんなに落ち込むとは。
それに今日、こんなに喜んでくれるとは」
「あの子の貸出期間は明日までのご予約ですので、
どうぞごゆっくりご家族でお過ごしください」
「はい、ありがとうございます」


(制作日 2022.7.28(木))
※この物語はフィクションです。

このお話は、
5月に見た夢を入り口に
物語を書いてみました。

夢の印象は悪夢でしたから、
少し悲しいお話に。

あの子とは亡き愛犬。
主人公の僕は、その哀しみで、
愛犬の後を追うなど、
悪いことばかり考えていた。
それを母が心配になり、
知り合いから、
または、
レンタルとして、
愛犬と同じ犬を僕の元へと
サプライズで連れてきた朝。
僕が見ていた悪夢から、
再会の喜びへという物語にしたつもりです。

書き終えるまでに
2ヶ月ほどかかってしまいました。

選曲したASKA『今でも』は、
お話を書き終えて選びました。
物語の僕が、亡き愛犬を思い出すとき、
「あーしてあげれば良かった。
こうしてあげれば良かった」
という離れてみて気づく気づきが
この曲『今でも』の中にあると思いました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~


選曲した曲
ASKA
『今でも』
作詞作曲 飛鳥涼 
編曲 近藤敬三
☆収録アルバム
ASKA
『SCENE』
(1988.8.21発売)

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