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【超ショートショート】(158)~エジプト人の恋の鍵~☆MULTI MAX『どうだい』☆

三日月がきれいな夜、
屋根裏部屋の小窓から、
屋根に降りた。

もうすっかり秋の気配から、
冬の気配になろうとする、
肌寒い風が吹いていた。

1つの風に誘われくしゃみをしたら、
突然見知らぬ男が現れた。

その人物はまるで、
エジプト人のような格好をしていた。

何でここにいるのかと尋ねると、
そのエジプト人が、

「あなたに恋の鍵を届けに来ました」

と話した。

「恋の鍵」とは何かと再び尋ねると、

「それはあなたがいちばんご存知なはずです」

となぞなぞを出された気持ちになった。

なぞなぞの答えに困っていると、
エジプト人がこう尋ねてきた。

「あなたは今、恋に悩んでいませんか?」

返答に困るのだが図星だった。

今日、勇気を出して告白したが、
見事にふられた。
これで10回目。
それも同じ人に。
私も懲りないものだと、
自分でも今日はあきれて途方にくれて、
眠れないからと、屋根に座った。
夜空さえ見上げていれば、
涙も出ないだろうと思っていたから。

でも、肌寒い風に誘われた結果、
くしゃみと一緒に泣いていた。

エジプト人は、
どうして告白がダメだったのかを、
まるで10回の告白全部を知ってるみたいに、
力説した。

彼女の耳には全く届いていなかったが、
エジプト人は一通り、
話したいことを言うとホッとして、
満面の笑顔になった。
そしてこう話した。

「次こそは大丈夫ですよ!」

何が?と尋ねると、

「告白です!」

今日の今日ふられたばかりなのに、
すぐにでも11回目の告白をしろと言うのだ。

もうそんな気力はないというのに、
全くエジプト人の考えることはよくわからない。

また肌寒い風に誘われくしゃみをしたら、
エジプト人が一瞬にして消えた。

「チャリン!」

と、エジプト人がいた場所から音がした。
見てみると、どこかの鍵が転がっていた。

「エジプト人は自宅の鍵を忘れたら、
どうやって家に入るというのだ」

そんなことを思いながら、
風の寒さに耐えかねて、
部屋に入った。

翌日、
エジプト人の力説を信じて、
昨日の告白の失敗をまるで忘れた人になり、
あらためて意中の人に告白した。

エジプト人が告白するときには、
「恋の鍵を持参すること」という教えを守って、
昨日屋根に忘れて行ったエジプト人の自宅の鍵を、
ジャケットの左ポケットに入れて告白してみた。

「昨日はごめんね!
友だちがいたから
正直に自分の気持ちが言えなくて、
君を傷つけてしまった。」

意中の人の気持ちは、
どうやら告白はOKだったようだ。
それも1回目の告白から。
彼はただ恥ずかしさで、
本当のことが言えなかったと、
ずっと、毎回後悔していたと話した。

でもなぜ今回告白をOKしたのか?

それは、
彼が父親の仕事の関係で、
エジプトに転校することが決まったからだ。
だから、
最後に正直な気持ちを伝えておこうと、
やっと決心できたと話した。

「エジプトに行ったら、手紙書くね」

「うん!私も返事書くね!」

それから二人は、
文通でデートを重ねた。

そしてこんな約束をする。

「いつかエジプトに遊びにおいで!
僕が案内するから」

「うん!絶対行くね!」

また、三日月の夜がやってきた。
屋根には、肌寒い風が吹いていた。
屋根裏部屋の小窓が風を招き入れ、
くしゃみの代わりに、
風が小窓をたたく音をさせると、
あのエジプト人が現れた。
そして、
屋根裏にある小さな机に飾られている
たくさんの写真立てを見て笑った。

エジプトのピラミッドの前で、
エジプトのウェディングドレスを着た
彼女と彼が仲むつまじく写っていた。

そして、
その写真と一緒に
エジプト人が忘れて行った
エジプト人の自宅の鍵、
または「恋の鍵」が飾られていた。

屋根裏部屋の下の部屋から、
赤ん坊の泣き声がすると、
エジプト人は嬉しそうに、
スフィンクスの大きなぬいぐるみを
屋根裏部屋に残して、
小窓から入ってきた風と一緒に、
またどこかへ行ってしまった。

「チャリン!」という音は今回はなかったが、
スフィンクスのぬいぐるみの首に、
小さな鍵のネックレスを残して行った。

その鍵にはこんな言葉が書いてあった。

「Knock on door」

人生のいくつものドアを、
ドンドン叩くべし!
君のママのように、
あきらめないで何でもチャレンジしろよ!

そんなメッセージが、
スフィンクスのぬいぐるみのタグに
エジプト人は書き残した。

翌日、
ママがすきま風の音が気になり、
屋根裏部屋に上がると、
ニヤッと笑って、
エジプト人の再訪に喜んだ。

「いつかまた会いましょう!」
と言って、エジプト人からのプレゼントを、
二人の愛しの赤ん坊に届けた。

赤ん坊は、
ただニヤッ!とほほえんだ。


(制作日 2021.11.8(月))
※この物語はフィクションです。

今日は、
1996年11月7日発売 シングル
MULTI MAX『どうだい』
発売からきのうで「25周年」。

MULTI MAXはChageさんの3人組のバンド。

今回はシングル『どうだい』を参考に、
お話を書いてみました。
歌詞にエジプトとありますので、
アラジンのランプも参考にしました。

恋は、
特に失意の時というのは、
孤独になりやすいもの。
誰かに相談してみても、
結局のところ他人事ですから、
失意の人が納得できる寄り添いをしてくれる人は、
おそらくいない。

でも、
今日のお話のエジプト人みたいに、
実は陰ながら応援していてくれた人が、
例え魔法使いでも、お化けでも、天使でも、
存在してくれたら、
どんなにいいかと、
自身の願望を書いたかもしれません。

いつもいつも誰かに相談したくても、
その相手がいないのは、
本当に寂しいものですね。

今日は、
三日月で、三日月のそばには金星があります。
こんなふうな関係って素敵だなって。
1日限定の夜空ではありますが、
なんだかホッといたしました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
MULTI MAX
『どうだい』
(1992.11.7シングル発売)
☆収録アルバム
MULTI MAX
『Oki doki!』
(1996.12.4発売)

YouTube
【Chage Official Channel】
『どうだい』ライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=56QM1BHGqfU

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