【超ショートショート】(199)~優しさは濃く?☆CHAGE&ASKA『ロンリー・ガール』☆
手を振るって意外に難しいものですね。
ある日のこと、
とても小さな町の片隅にある
10人の子供が通う保育園に、
子供たちの憧れの
テレビの歌のお兄ちゃんがやって来た。
お兄ちゃんの得意な歌を
10人の子供たちと一緒に歌っていた。
だけど、
一人の女の子が、
みんなのように、
楽しそうな表情をしてくれない。
園長先生が、
その女の子のことをお兄ちゃんに話す。
「あの子はね、とても恥ずかしがり屋で、
私たちもずいぶん慣れてもらうまでに、
手をかけたのよ!(笑)」
歌のお兄ちゃんは、
楽しくしてくれている9人の子供に安心しながら、
気づけば常に、
恥ずかしがり屋の女の子に視線が全集中。
とにかく笑顔でを心がけ、
女の子と目が合えば笑顔を面白くして、
女の子が笑ってくれるのを待った。
女の子はお昼寝の時間になると、
一人だけ寝付けずにいた。
布団と窓、布団と本棚、布団とお絵かき、
そんなふうに部屋を行き来し、
お昼寝の時間を過ごしていた。
この日は、
歌のお兄ちゃんがお昼寝の様子を
見てくれることになった。
みんなは、
お兄ちゃんに子守唄をリクエストして、
いつも通りにお昼寝をした。
女の子は子守唄の効果なく、
この日はお兄ちゃんが部屋にいるため、
じっとして布団から出ないでいた。
お兄ちゃんは布団の上げ下げを
繰り返す女の子を見て話かけた。
「どうしたの?眠れないの?」
「・・・うん」
お兄ちゃんは女の子の布団の横に来ると、
「一緒に寝よう」と、
お兄ちゃんも横になった。
そんなお兄ちゃんの行動に女の子は、
戸惑った表情をしたが、
時間が過ぎてくると、
ほんの少しのお兄ちゃんの笑顔に、
「うふふ」と小さく笑うようになった。
「どうしたの?」とお兄ちゃんが尋ねると、
また「うふふ」と笑うだけだった。
それから女の子は、
お兄ちゃんの腕を枕にして、
自分からお兄ちゃんの胸の中に入ると、
抱きついたまま、お昼寝をした。
お兄ちゃんは女の子が起きるまでのあと1時間、
女の子を起こしてはいけないと、
じっとして女の子の眠りを支えた。
夕方、
保護者のお迎えで、順番に子供たちが帰るなか、
女の子だけが最後に残っていた。
「もうすぐお迎えに来るよ!」
とお兄ちゃんが気を使って話すと、
園長先生が手招きした。
「あの子には、お迎えが無いんですよ!」
「どうしてですか?」
「あの子のご両親は、もうこの世に居なくてね。
この町の親戚の家に引き取られたんだけど、
経済的理由から、
やっぱり家では面倒は見れないと言われて、
帰る場所があの子にはないんだよ」
「じゃあ、いつもどこにあの子は帰るんですか?」
「帰らないのよ!」
「えっ!」
恥ずかしがり屋の女の子は、
いつも夜は保育園で過ごした。
保育園の隣が園長先生のお家でもあることから、
施設に預けるよりは、
保育園で預かりますとなった。
この日は、
歌のお兄ちゃんも
保育園の園長先生の家に泊まることになっていた。
「女の子は夜、どこに寝るんですか?」
とお兄ちゃんが園長先生に尋ねた。
「お昼寝した部屋よ」
「じゃあ夜もひとり?」
お兄ちゃんは、
もうお昼寝の部屋で寝ている女の子の横に
布団敷いて横になる。
「お兄ちゃん?!」
「ごめん、起こしちゃった?」
「うんうん、起きてたの、ずっと。」
「そう、どうして?」
「なんだか眠れないの?」
「こわい?」
「こわくはない。」
「じゃあ?」
「よく分からない」
お兄ちゃんは、
女の子の布団を自分の方へ近づけ、
お兄ちゃんの掛け布団の中に女を入れた。
女の子は、
今日のお昼寝の時のように、
お兄ちゃんを抱きしめてスヤスヤと、
寝息を出し始めた。
翌朝、
ふたりは、夜の姿のまま、
くっついて起きた。
お兄ちゃんは次の仕事に向かうため、
保育園児が来る前に、
保育園から帰った。
その時、
お兄ちゃんに園長先生が、
「お兄さん、女の子にあまり優しくすると、
逆に酷だわ。」
「何でですか?」
「だって、あなたが毎日、
あの子といる人ではないから、
あなたが帰れば
余計あの子に寂しい思いにさせるわ。」
「・・・」
お兄ちゃんは、
保育園から出ると、
女の子に手を振る。
でも女の子は手を振ってはくれない。
それどころか、
園長先生の言うとおり、
別れよ寂しさで泣いてしまった。
お兄ちゃんは、
女の子の元に戻り、
こう話した。
「また会いに来るから」
「・・・いつ?」
「今度」
「・・・うん」
再び保育園を出たお兄ちゃんは、
また振り返り女の子を見て手を振る。
すると
女の子も小さく泣きながら手を振っていた。
その後、
お兄ちゃんは時間がないスケジュールの中、
女の子に会いに行くために、
夜一緒に寝るために、
何度も何度も保育園に遊びに行った。
もう兄妹のような親子のような、
そんな心の距離感になった。
恥ずかしがり屋の女の子も、
お兄ちゃんだけには、
その恥ずかしがり屋な性格から解放され、
子供らしい一面も
二面も三面も見せられるようになった。
お兄ちゃんを保育園から見送る時、
以前は手も振れなかった女の子も、
今となれば慣れたもの。
「バイバイ!(涙)」
の手ではなく、
「また会いに来てね!約束だからね!(笑)」
という希望の手の振りになっていた。
お兄ちゃんのその手の振りの返事はこうだ、
「バイバイ!」
では手ではなく、
「また会いに来るよ!来週だったかな?(笑)」
その後のふたりは、
兄妹、親子の関係を越えた、
互いに互いの運命に出逢って行く。
さて、
それは一体どんなことなのだろうか?
(制作日 2021.12.19(日))
※この物語はフィクションです。
今日のお話は、
「手を振れない」という自分の気づきから、
書いてみました。
「手を振れない」とは、
例えばコンサート会場で、
ステージから手を振られますが、
その返事に客席も手を振るわけです。
それが、
恥ずかしくて恥ずかしくて。
お話は、~つづき~
のようにしました。
理由は、
女の子の大人に成長した姿で、
つづきのお話を考えてしまったから。
そのつづきはまた今度。
(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/
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お話を書いてから、
思い付いた曲
CHAGE&ASKA
『ロンリー・ガール』
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