見出し画像

【超ショートショート】(131)~そよ風が運ぶシャンプーの香り~☆ASKA『Love Is A Many-Splendored Thing』☆

亘は、春の陽気とは裏腹に、
今日の入社式のことで緊張していた。

最寄りの駅は、
ホームからすでに満員電車状態。
落ちないように、
白線の内側を人をかき分けながら、
一番後ろの車両に列に並ぶ。

比較的、
前方の乗り換えしやすい車両よりも空いていた。

発車ベルがなり終わり、
車掌の笛がけたたましく叫ぶ中、
一人の女性がドアが閉まる直前、
飛び乗ってきた。

亘は、驚きよろけると、
満員電車のイタズラか、
その女性と向かい合わせと、
とても気まずい状態になる。

駅が2つ3つと過ぎていくと、
特急電車の落とし穴に気づく亘。

少なくともあと5駅はそのまま、
その女性と向かい合わせ。
気まずさが増してきた時、
ふいに女性と目が合ってしまった。

お互い、一瞬困り、
でもその次の瞬時には、
「ポッ!」と、
お互いの頬が赤くなるのを感じた。

すると急に恥ずかしくなった亘は、
恥ずかしさを隠すように、
愛想笑いをしながら、
「あっ!どうも(苦笑)」という言葉を
会釈に込めながら、
電車の停車を待ち望んだ。

翌週、
あれから一週間経つが、
あの女性に会ったのは、
あの日だけ。

亘はつい、あの女性から香ってきた
シャンプーの香りを、
あれから時々鼻の奥が思い出していた。

入社して、
初めての雨の月曜日。
雨で遅れる電車に、
ホームはいつもよりも溢れかえり、
いつもの車両までなかなか歩けなかった。

やっとの思いでたどり着くと、
すぐに電車が来た。
係員に押されながら、
いつもよりも2本遅い特急に乗る。

駅を2つ3つと過ぎていくと、
目的の駅ではない駅近くに停車。

「前の電車が詰まっていますので・・・」
とアナウンスが車内に流れ、
停車すること5分が過ぎた。

乗客の熱気で車窓も白く曇り、
外の様子を見ることも出来ない、
閉鎖された空間になった頃、
一人の乗客が「気分が悪い」と、
しゃがみこんだ。

亘は、その乗客を遠目に見ていると、
「おや!?」
と、見覚えがあることに気づく。

あの入社式の朝に電車で会った女性だった。

亘は、何も考えず、
ただ誰にも介抱されない女性を心配して、
満員電車の車内を泳ぐように、
その女性のもとへと駆けつけた。

「大丈夫ですか?」

「あっ、はい。」

女性は声を掛けてくれた亘の顔を見るようと、
うつ向く顔を上げた。

「あっ!前に電車で・・・」

「あ、はい。憶えていますか?」

「はい。(笑)」

亘は電車が駅に停車すると、
その女性を抱えるように、
電車から下ろした。

車掌が、
「救急車を呼んであります」

すぐに、
救急隊に介抱され女性は病院に搬送された。

「あの、あなたも一緒に来てください。」
そう救急隊に言われた亘は、
とりあえず女性の荷物を持ち、
車内で女性が倒れた経緯を話した。

病院に到着すると、
医者から説明があり、
しばらく点滴して休めば大丈夫と言われた。

そして、医者からこう質問を受けた。
「あなたは、女性の旦那さん?」

「いいえ、違います。」

「じゃああなたは?」

「ただ電車内で介抱してあげただけです。」

「そうですか。(困)」

「どうかしましたか?」

「いやね、女性は・・・妊娠2ヶ月でね、
女性自身もまだ知らなかったみたいなんだよね。」

「・・・」

「電車で気分が悪くなったのは、
つわりみたいだからね。」

「そうですか。」

そんな話の最中に、
一人の男性が駆けてくる。

「あの、すみません!(汗)」

亘は気づいた。
「(亘の心の声)この人が女性の旦那か。」

すると、男性が女性の病室から出て来て、
亘に声を掛けた。

「この度はありがとうございました。」

「いいえ。女性が無事で良かったです。」

「はい!妻は今朝、
自分は妊娠してるんじゃないかと、
だから今日、仕事の帰りに
病院に行くって話していたんです。
本当は今日、休ませて、
一緒に僕が病院に付き添えば
良かったのですが(悔)」

亘は、
重たい気持ちで病院をあとにした。
そして、
まだ会社に遅刻する連絡をしないまま
約半日遅れて出社。
もちろん上司からは怒られたが、
事情が事情だったこともあり許された。

翌朝は、
昨日の雨が信じられない程の快晴の青い空。
亘は、いつもの時間のいつも車両に乗り込む。

ふと車窓の景色に見とれていると、
車内を流れるそよ風が、
あの女性から香ったシャンプーの香りを
亘に運んできた。

「おはようございます!(笑)」

「おはようございます!
もう大丈夫なんですか?」

「はい!(笑)」

翌日から亘は、
いつもの時間から
1時間早い電車に乗ることに決めた。

亘は、
会社までの桜並木の桜吹雪のなかを歩きながら、
ひとつの社会人として初めての恋が終わったと、
泣くには思い出もないし、
ただときめきを経験できた、
その悔しさを恥じていた。

だが、会社には、
あの女性と同じシャンプーの香りの女性社員が、
たくさんいる。

亘は、あの女性の幻を探さないように、
惚れ性の自分に自制を掛けようとする。

でも、あの夢見心地のときめきが、
自分を強くしたことは、
男として初めての体験だった喜びも知った。

「(亘の心の声)
あんなに誰かを守りたいと思ったことはない」

亘は愛とは、
誰かを守りたいと思うものかと、
自分が強くなれる、
そんな自信の余韻に少しだけ、
朝の満員電車で酔うことに決めた。

守りたい、誰かと出会うために。

(制作日 2021.10.12(火))
※この物語はフィクションです。

今日は、
『Love Is A Many-Splendored Thing』
という映画『慕情』のテーマソング。
この曲と映画を参考に、
恋の余韻にひたる男性を書いてみました。

この曲は、実は
2012年1月のコンサートで、
ASKAさんが披露しています。
そのコンサート映像が、
2012年10月17日に、
Blu-rayが発売されました。
その発売記念日まで、あと5日。

ということで、 
今日の選曲となりました。
ASKAさんが歌う
『Love Is A Many-Splendored Thing』
は、とても力強くカッコいい。
ぜひ、どこかで聴いてみてください。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
ASKA
『Love Is A Many-Splendored Thing』
*映画『慕情』のテーマ曲
☆収録アルバム
ASKA
『Bookend』
(2011.12.7発売)
★収録コンサートBlu-ray&DVD
『ASKA CONCERT 2012
昭和が見ていたクリスマス!?
Prelude to The Bookend』
(2012.10.17発売※Blu-ray)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?