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【超ショートショート】(242)~アパルトのミセスの噂話~☆CHAGE&ASKA『恋人はワイン色』☆

この世の中、長い冬の夜、
ふと人肌が恋しくなるときは
誰にでもあるだろう。

特に忘れられない人肌のぬくもりを
憶えている者にとっては・・・。

今日ここにも、
そんなことを想い出している
1人の女がいる。

彼女の手にはワイングラス。
ワイングラスの中は・・・
ワイン???
に似せたグレープジュース。

二十歳の歳を2回は
少なくとも経験しているだろう
大人な女になっているはずの彼女。

見た目は、
責任感がにじみ出ているらしく
いつも誰からも頼りにされる存在。

そんな見た目が功を奏すことは
彼女の場合はないようだ。

「お酒飲めますよね?(笑)」
「結構いける口でしょう?(笑)」
「お酒強いんですよね?(笑)(笑)」

なんて言われる度に、
彼女は、

「飲めません!(笑)」

という一言を言えば、
この世の終わりくらいの
ドン引きに出会ってきた。

そんな彼女。
一人暮らしのこの部屋は、
もともと人肌のぬくもりを教えてくれた
彼が住んでいた部屋。

二人は、
この部屋でしばらく一緒に暮らしていた。

だがある日彼女がこの部屋から
出ていってしまう、

それから、
すぐのことだった。

彼は仕事で引っ越すことになった。

二人の想い出が残るこの部屋は、
その後幾人かの入居があったが、
ここ半年は誰も住んでいなかった。

そんな時、
新しい入居が決まる。

この部屋のマンションは、
フランスが大好きな
フランス仕立ての語り口の
女オーナーがいる。

オーナーは自らを
「アパルトのミセス」と呼んでいた。

そのアパルトのミセスが、
新しい入居者にこの部屋で会うと、

「あらっ?あなた!お元気?(笑)」
「はっい!一応お元気みたいです(笑)」

そんな懐かしい再会をした
アパルトのミセスと彼女。

すっかり彼女の母親のように、
毎日のように彼女との会話を求めた。

「あなたがここを居なくなって
私寂しかったわ!」
「すみません。あの時は何もご挨拶もしませんで」
「本当!本当そうよ!
でもね戻ってきてくれて良かったわ!(笑)」

ある日、
冬の終わりが見えるような
春の陽気が迫る時季、
彼女の誕生日がある。

当の本人の彼女は、
自分の誕生日も忘れて、
ただぼんやりと、
ワイングラスのグレープジュースを
片手に夜空を眺めていた。

突然、部屋のドアベルが鳴る。

彼女がドアを開けると、
勢いよく、
アパルトのミセスがたくさんの荷物を持って、
雪崩のように部屋の中へと流れ込んだ。

「あの~」
「今日あなたのお誕生日でしょう!」
「はい、えっ?誕生日?」
「あらイヤね~!自分の誕生日忘れるなんて!」
「はい・・・」

アパルトのミセスは、
たくさんの手料理をテーブルに並べ、
彼女をイスに座らせると、
その向かいの席に
アパルトのミセスも座った。

「これね。特別なワインなのよ!
今日はあなたのお誕生日だから
特別に開けるわね!(笑)」
「あっ!でも・・・私・・・飲・・・め・・・」

アパルトのミセスは、
彼女の焦る様子を見てフッ~と一笑いすると、

「知ってるわよ!あなたが飲めないのは(笑)」
「はぁ~良かった(苦笑)」
「これはね!ノンアルコールよ!」
「へぇ~」
「ノンアルコールなのに、
いっちょまえにワインのように
コルクで栓されてるなんてね(笑)」

ミセスは、手慣れた手つきで
ノンアルコールのワインの栓を開ける。

彼女はそんな手つきを見ながら、
思い出していた。

「誰かに似ている?誰だっけ?」

その問の答えは、
まもなくミセスが披露する。

ノンアルコールのワインのコルク栓を上手に抜くと
ミセスは

「(本物の)ワインってこうして飲むのよね?(笑)」

と話すと、ワイングラスに
ノンアルコールのワインを注ぎ、
テイスティングの真似をした。

少しワインを・・・
この時少し音を立てて空気を絡ませながら、
口に含む。

「うん!とってもいい香り!
でもやっぱりノンアルは
グレープジュースね!(苦笑)」

と話すミセス。

彼女はその姿を見ながら何かを確信した。

「あの~、今のテイスティングは彼の・・・」
「彼の?」
「あっ!いいえ!何でもありません!(苦笑)」

ミセスは彼女が慌てる様子に、
また笑って話した。

「これはね、あなたの彼が教えてくれたのよ!
〈ワインはこうして飲むのが通なんです〉って。
あー良かったわ、あなたが気づいてくれて(笑)」

二人は、互いにほっと笑いをこぼして、
ノンアルのワインをワイングラスに注いだ。

しばらくすると、
食事中のミセスが立ち上がった。

「あっ!私、忘れ物しちゃったわ(焦)」
「忘れ物?」
「うん!今日不動産屋さん連絡するの
すっかり忘れてたわ!もう夜8時だけど、
まだ仕事してるかしら不動産屋さん。」

ボソボソ言いながら、
ミセスは彼女の部屋を出る。

ミセスが部屋を出る前、
彼女に告げた。

「すぐ戻るから、
私の食事はそのままにしておいてね!(笑)」
「あーはい!(苦笑)」

食事はテーブルにそのままにして、
ミセスが戻るのを待った彼女。

約15分後、
ミセスが戻ってきた。

突然、ドア開くと、

「振り返らないで!
私があなたのそばにいくまで
後ろを見ちゃダメよ!」

彼女は言われた通り、
後ろへ振り返らず待った。

そして、
部屋の電気が消されると、
ミセスがハッピーバースデーの歌を歌い出した。

「♪ハッピーバースデー、トゥ~ユ~♪」

歌いながら近づくミセスの声。

彼女の隣にケーキに立てられた
ろうそくの明かりが見えた。

歌を歌い終えたミセスは

「では、ろうそくの火を消して!(笑)」

と話した。

彼女は言われた通りに
ケーキのろうそくに向かって息を吹きかける直前
見憶えのある親指を見た。

「(彼女の心の声)
あの人も確かこんな親指してたな?
まさか・・・そんなことないよね?・・・」

彼女は心の声を確かめるために、
ケーキを持つ人の手から腕、
腕から肩、肩から首、
首から顔を見てしまう。

「ほら!ろうそく消して!(笑)」

と、彼女が彼の瞳を見つめたとき
彼がそう話したのである。

とりあえずろうそくを消した彼女。

しばらく事態が飲み込めないだろうと
自分に問う彼女は、
ミセスには居てほしいと思っていたが、
ミセスはそそくさと逃げるように、

「あとはお二人で!」

ケーキも食べずに帰ってしまった。


置いてきぼりされた彼女は、
瞳が合う彼から視線を外し、
背を向けてイスに座る。

「ケーキ食べないの?」
「・・・」
「オレ、お腹空いたから、
一緒に食べないか?」
「・・・」
「じゃあ切るよ!(笑)」
「・・・」

二人のあの頃、
彼は大人で、彼女は子供だった。
そのことを彼女は
この部屋を出たあとずっと考えていた。

少しでも、
彼に近づきたいと、
飲めないお酒を飲んだこともあった。
でも、
翌日の二日酔いで仕事を休むほどの
体調不良を経験した。

大人になるためなら、
何でもやって来た彼女だったが、
いざ彼を前にすると、
やっぱり子供に戻ってしまう。

「ほら!ケーキ切れたよ!(笑)」
「・・・」

彼女は無言でケーキを受けとる。

「何か聞きたいことは?あるだろう。」
「・・・」
「なっ?」
「・・・・・ぅん」
「ハッハッハ(笑)やっと口きいてくれた!(笑)」
「・・・うん(笑)」

二人は、
あの頃に戻ったみたいに、
穏やかな時を過ごした。

ふと彼女が、
違和感に気づく。

「私たち・・・」

すると、彼が誕生日プレゼントがあると、
彼女を座らせ、
ズボンのポケットから、
小さな箱に小さなリボンの付いたプレゼントを
出した。

「ほら?これやるよ!(笑)」
「ほらって、乱暴ね!プレゼントなら・・・」
「プレゼントなら、何だよ?」
「プレゼントなら・・・」

彼女はプレゼントの大きさに、
ある予想をした。

指輪?

そして、
一度、もう一度、
彼と手元にあるプレゼントを
往復して見た。

「これって?」
「(笑)」

彼はただ微笑むだけで、
早くプレゼントを開けろと、
視線を彼女と箱に往復して見た。

プレゼントを開けると、
彼女の予想通り指輪が2つ並んでいた。

「これは?」

彼女は、
とりあえず指輪をはめてみた、
右手の薬指に。

「あっ!ぴったり?」

後日、彼女は彼から知らされる
指輪の秘密。

誕生日の前に、
ミセスが自分の指が太くなり、
使えない指輪があると、
売る前にほしい物があったら、
彼女にあげると言いに来たときがあった。
その時、彼女がミセスからすすめられた
指輪をいくつかしてみて、
彼女も気にいって物があったが、
ミセスの急な心変わりで、
一つももらうことなく、
ミセスは嵐のように消えて行った。

あの出来事は、
彼からお願いされた彼女の指輪のサイズを
知るための作戦だった。

ミセスは、
この彼と彼女の別れは自分のせいかも
知れないと思っていた。

なぜそう思うのかは、
二人にもずっとわからないままだった。

彼女が誕生日プレゼントの指輪を
試したに右手に付けると、
彼を見つめて、
このプレゼントの意味を視線で尋ねた。

すると、彼が、
彼女の右手の薬指から指輪を取り、
彼女の左手の薬指へと付け直した。

「そういうことだ!(笑)」

そう話す彼は、
彼女を頬を赤に染めた笑顔で見つめた。

彼女は、
その笑顔ですべてを確認できたと思い、
込み上げてくる幸せで涙を瞳に貯めた。

笑顔の彼は、
今にも泣きそうな彼女に、
自分の手を差し出すと、
薬指に指を指して、
彼女に催促する。

彼女はそんな彼の仕草に
涙よりも笑顔になり、
言われた通りに
彼の左手の薬指に指輪をしてあげた。

そして、
二人はそのままこの部屋で新しい生活を始めた。

あの頃と変わらずに、
彼は大人で、彼女は子供のまま・・・
結局それが一番
二人にとって居心地のいい関係だったと、
離れていた時間が教えてくれた。

そんな二人をアパルトのミセスが、
不動産屋に噂する。

「私のマンションに入居すると、
結婚できるわよ!恋人ができるわよ!」

と。

(制作日 2022.2.4(金))
※この物語はフィクションです。

今日は、
明日2月5日が発売記念日の
CHAGE&ASKA『恋人はワイン色』
を参考にお話を書いてみました。

『恋人はワイン色』の恋人が、
何年ぶりに再会し、幸せになるという
ストーリーにしてみました。

この曲の歌詞にある、
「アパルトのミセス」は、
「アパルト」はフランス語で「アパート」
日本で言えばマンションにあたる。

私事で大変恐縮ですが、
ずっと「アパルトのミセス」を
「アパレルのミセス」だと思っていました。

そのように意味を勘違いしていたわけです。

つまり、
アパレル(洋服を売る人)に
勤める女性たちは
とっても噂好きと、
今日まで勘違いしていたみたいです。

そんなどうでもいい話しは
置いておきまして、
この印象的な「アパルトのミセス」が
恋のキューピッドになるように
してみました。


(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
CHAGE&ASKA
『恋人はワイン色』
作詞作曲 ASKA
(1988.2.5発売 シングル)

YouTube
【CHAGE and ASKA Official Channel】
『恋人はワイン色』ライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=CInS_n7cC8Q


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