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【超ショートショート】(224)~孔雀の背中に恋をして〈1〉~☆CHAGE&ASKA『BIG TREE』☆

「道標は、はじめからあった気がします。
いつも不安な僕等は、水平線の向こうに広がった
孔雀のような未来に憧れを感じながら、
黄昏の雨に、打たれていたのです」

今日の国語の授業で読まれた詩。
先生が好きだという詩人の詩を、
ただ先生は自慢げに紹介したかったようだ。

「先生が尊敬してやまないこの詩人を、
いつか自分の授業できる取り上げることを
楽しみにしていた。今日その夢が、
教師になり苦節5年。
やっと、やっと、君たちにこの詩の意味を
実感を持って語れるようになった。
さぁー!先生をー誉めるがいい~」

私の担任は、こうした変わり者の国語の先生。
話し始めはふつうだが、長くなると、
自分の話に自分で感情移入させていく。
結果、話の終わり頃は、
まるでミュージカル調にセリフを歌い出す。
生徒たちも見慣れた展開に、
先生の気が落ち着くまで待つという
毎日の日課となっている。

「道標」と聞いて思い出される1つの絵がある。

高校は電車通学。家から15分歩いて
商店街を抜けた先にある最寄り駅。
ラッシュの速い電車を見送った次の各停に乗り、
速い電車なら1駅5分、各停は5駅15分。
各停は途中で最速電車に
追い越し待ちの5分があるため、
10分の時と15分の時があった。

高校の最寄り駅から歩いていくと、
途中に小さな美術館がある。
朝の通学時間はもちろん閉館中。
夕方の帰る頃、美術館の立て看板に、
「開館中」と札が掛けられている。

入場料は大人500円。小人100円。
小中高大300円。
私は、毎週1回だけと決めて、
この美術館に入場していた。

どうしても見たいお気に入りの絵があった。

出会いは、高校に入学して1週間が過ぎた頃、
家の事情で帰宅部だった私は、その日、
家にまっすぐ帰ることが嫌だった。
特別、何をする日でもない、
暇な夕方が嫌だった。
イチャイチャする先輩カップルの
2人の背中を見ながら、
「同じ電子には乗りたくない」と思った。
何かここに止まる用事は無いかと探すため、
辺りを先輩カップルに気づかれないように、
キョロキョロしながら見渡した。

その時「パッ!」と目に飛び込んできたのが、
一見すると一般のお宅のような
小さな美術館だった。

イチャイチャする先輩たちの後ろで、
音を立てないようにすり足で、
急いで美術館の入口へ向かった。

入口の自動ドアが開くと、
「ふわっ!」と外界とは違う
美術館の「からっ!」とでも
「じめっ!」とでもない
心地よい肌触りの空気が
自動ドアを通り抜けた。

入場料を払うと、
小さなパンフレットを館長さんからもらう。
そのパンフレットの順路の通りに進み、
最後の美術館の一番奥の部屋に、
その絵はあった。

出会ったばかりの第一印象は、
ただ海辺の砂浜に座る
男(ひと)の背中と青空の絵としか思わなかった。

その絵の下に貼られた注意書きには、
「この絵はどうぞゆっくり座ってごらんください」
と、絵の前に置かれたソファへと向かう矢印が、
床に貼られていた。

私はその注意書きの通り、
ソファに座り絵を眺めた。
美術館の外を歩く人の足音も話し声も、
車の音も何も聞こえない
静寂が耳の中を流れはじめた時だった。
突然雷に打たれたような
衝撃を全身に受けたのである。

この衝撃の理由もわからないまま、
再び耳の中を流れる静寂の中で、
冷静さを取り戻していった。

そして、気づいた。

衝撃を受けてから、
ずっと絵の中の男(ひと)の背中しか
見ていないことに。
「何が自分に起こっているんだろう?」
と、自分でもわからないまま美術館を後にした。

それから1週間、美術館の前を通る度に、
あの絵のあの背中が気になって、気になって、
とうとうその理由を突き止めるために、
お昼ごはんのおにぎり2コ分の節約をして、
再び美術館へ入った。

ほかの絵には目もくれず、
まっすぐあの絵の部屋へ向かった。
部屋に到着すると、誰も見学者は居なかった。

ついにその絵と1週間ぶりの再会をした。
たった1週間、会わなかっただけなのに、
思わず初めてこうつぶやいた。

「好き!」

私は、
どうやらその絵の背中に初恋をしたと、
自己分析の調査中につぶやかれた
「好き!」で結論が出たようだった。

この時、初めて胸の鼓動を聴いて、
もっとドキドキしていた。
そんな鼓動の音に耐えかねて、
顔が頬を緩ませ、頬に一気血液を通すと、
「カッ!」と顔が熱くなった。

~つづく~

(制作日 2022.1.14(金))
※この物語はフィクションです。

冒頭の詩はASKAさんの散文詩「道標」

この詩は、1991~92年『SAY YES』ツアー
1992年『BIG TREE』ツアーで、
ASKAさんがラストソング『BIG TREE』の前に
朗読したチャゲアスファンには有名な散文詩の1つ。

物語は、
ただいまツアー開催中の
『ASKA premium concert tour
-higher ground-アンコール公演』
で見たとっておきのシーンから、
考えたお話。

2~3話ほどで完結予定でいますが、
今日はここまでしか書けませんでした。

つづきはあすの予定です。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『BIG TREE』
作詞作曲 ASKA
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『BIG TREE』
(1991.10.19発売)
YouTube
【CHAGE and ASKA Official Channel】
『BIG TREE』ライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=HQa0FEj08sw


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