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⑥弱い者の強さ『服従』

小学生。

兄は毎朝、肉まんを食べて行く。
姉と私は、玉子焼きとウインナーとか。

母が作ってくれて、
祖父や祖母のいる
1階のお茶の間で食べていた。
ズームイン朝を見ながら。

学校へは、
集団登校。
吹雪の朝、
橋を渡るのは地獄だった。

大きな桜の木の枝に
きちんと
雪が積もって、
満開の桜の様だった。

堤防を通れば近道なのに、
わざわざ遠回りする通学路。

集合場所まで一人で行くなら
別に無くてもよくない?
と、6年間思っていた。


姉が学校を休んだ日、

父も休んだ。

学校から帰ると、

家に犬がいた。

シーズー犬の男の子。名前はチャマ。

ペットショップのゲージの隅で

震えていたらしい。


父は、しつけをした。

そして服従した。


姉と二段ベッド。

寝る時は、

毎晩しりとりをした。

糸電話や

絵しりとり。

その時

チャマがどこで夜を過ごしていたのかは

覚えてない。

おそらく、隣の
父と母の部屋かな。

チャマは、毎晩一人で怯えてたのかな。


ある日、チャマは

父に

果物ナイフで刺された。

カバーをしていたが、先は尖っていた。

かばってあげる事が出来なかった。

部屋を出ると、チャマもついてきた。

脇腹に穴が空いていて

血が出ていた。

ランドセルに入っていた

バンドエイドを貼った。

ごめんね。チャマ。痛かったね。怖かったね。ごめんね。

姉と一緒に

子供部屋の前で

撫でながら

心の中で言った。


ある日、

障子の下の磨りガラスが割れた。

父が

チャマを蹴飛ばした。

ある日、

チャマの毛が

全部刈られた。

今思うと、

動物病院でやって貰ったのが

唯一の救い。

チャマは、

父に服従した。


泣いたら負け。

母がよく言い聞かせた。

父の前で

泣いてはいけない。

グズってはいけない。

何泣いてんだ?

泣くことは、

父の行為が無情な事だと

父に訴えかねない

行為だから。

父は、いつも正しい。
父親が、親。


家の脇の

コンクリートに囲まれた

小川の水で、

父が洗車をしていた。

姉と私が

その水で遊んでいたら、

汚いだろ!と怒鳴られた。

母に、

何で遊ばせた!と怒鳴った。

ごめん、お母さん。

母は、

シャワーしなさい。

と優しく言った。

母は

いつも優しかった。

泣かなかった。


美容院の休みは

月曜日。

月曜日は

カレーの日。

学校に迎えに来て

買い物をして

カレーを煮込む。

お酒を飲む父と、寝室が茶の間の祖母。

兄と姉は食事が終わったら二階に行く。

私は、母の隣で茶の間で過ごす。

チラシの裏に絵を描いたり

母に絵を描いてもらったり。

テレビを見たり。


そうしていれば、

母の悪口は言わないから。

祖母は、母を虐めていた。

息子と二人で

嫁を虐めていた。

母は、借金をしていた。


私が産まれる前から、

父は

よく会社を休んでいたのだ。

技術者だった。

外国に出張にも行っていた。

自分にしか出来ない技術だから、

と、

会社は自分を手放せない

と、

家にいる事が多かったらしい。


借金取りに追われて

引っ越したのだ。

子供3人を

美容師のお給料だけで

育てるのは

限界があった。

父のせいで

母は借金を作った。

全ては、祖母が作った息子の責任。

全ては、父親の責任。

それに気付かず

母の借金を責める

祖母と父。


母の前で

私はいつも笑っていた。

兄と姉がしてくれた様に

母の一番近くで

母の為に

笑った。


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