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仲の悪い足(創作童話)

けんちゃんは小さいころから、
よく転ぶ子でした。
けんちゃんが右の足を前にだすと、
左の足がからまってくるのです。

反対に、左足を前にだしても
右足がついてこなくて、転ぶこともありました。

 けんちゃんは、幼稚園に行くようになると、
人の前で転ぶことをはずかしく思うようになりました。

幼稚園では、もうすぐ運動会なので、
毎日ダンスやかけっこの練習があります。

けんちゃんは、かけっこの練習中に、また転んで、
右足に大きなけがをしてしまいました。

「右足がしっかりしないから、ぼくまで迷惑するんだ」
 けんちゃんの、左足が怒りました。

「なんだよ。左足がちゃんと力を入れていないから、
僕が痛い目をするんじゃないか」

右足も、負けずに言い返しました。

けんちゃんがよく転ぶのは、
右足と左足の仲が悪いのが原因だったのです。

「運動会までに、なおるのかな~」

 みんなの練習を見学していたけんちゃんが、
心配そうにつぶやきました。
それを聞いたけんちゃんの足は

「ぼくたちのせいで、けんちゃんが
運動会に出られなくなってしまったんだ」
右足と左足は、心がチクリと痛みました。

「神様、どうぞ運動会までに、
  この足がなおりませんように」

 けんちゃんのつぶやきを聞いた右と左の足は
耳をうたがいました。

「今、けんちゃん、運動会まで、
足が治りませんようにって言った?」

「うん、たしかにそう聞こえた」

「運動会を休んだら、
お友達のパパやママたちが見てる前で
転ぶこともないし。ああ、休みたいな」

 右足と左足は、涙がでそうになりました。

「子供たちにとって、運動会は一番楽しみなはずなのに、
休みたいなんて」
 右足が、声をつまらせました。

「みんなの前で転ばなければ、
けんちゃんも、運動会が好きだったはずだよね」
 左足も、申し訳なさそうに言いました。

「運動会を嫌いにさせたのは、僕たちのせいだ。
大好きなけんちゃんを困らせるのはやめようよ。
僕たち仲よくして、かけっこで一等になろうよ」

 右と左の足は、もう喧嘩はしないと約束をしました。
  

 運動会の当日です。
けんちゃんの足の傷は、すっかり治っていました。

足が仲直りしたことを知らないけんちゃんは、
残念そうに幼稚園に行きました。

いよいよ、かけっこの番になりました。
スタートラインに並んだけんちゃんは、
「ころびませんように!」
と何度も心の中で祈りました。

 先生の合図でみんな元気よく、はしりだしました。


「あれれ・・・」
 けんちゃんは、走りだしてすぐに、
今までと違うことに気がつきました。

いつもなら、走り出したとたんに、
足がもつれて転ぶのに
今日はすいすいと前に進むのです。

気がつくと、けんちゃんの前には誰も走っていません。
けんちゃんは、そのままゴールインしました。


「やったー。せんせい、ぼく一度も転ばなかったよ」

けんちゃんは、一等になったことよりも、
転ばずに走れたことの方を喜びました。

「よかった、よかった。ケンちゃんが一等になった」
 
右と左の足も喜びました。

あれから右足と左足は約束どおり、一度も喧嘩はしませんでした・
そして、ケンちゃんも、あれから一度も転ぶことはありませんでした。

        終わり
最後まで読んで下さって有難うございました。

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