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ありがとう、と伝えたい。(主にネカフェに)

三月に、名古屋駅前のビルが一つ閉店した。

名鉄レジャックという飯屋やカフェ、サウナといった食事処と遊ぶところが揃ったビルで、そうとう古いビルだったようだ。

頻繁に利用していたが、いつも清掃が行き届いていて古さを感じたことはなかった。
閉店前に一月ほど? ビルの歴史を展示していたが、どうやら半世紀近い歴史があったらしい。

……このビルを僕が使い始めたのは、二年くらい前からだ。
仕事帰りにあんかけスパゲッティを食べたり、マクドに行ったり。閉店間際にはサウナにも行った。

でも一番利用したのは、ネットカフェだろう。

仕事がつらい時、僕はネットカフェによく逃げ込んでいた。
ネットカフェはいい。あそこは、外界から隔絶されている。
ただ、漫画を読んでのんびりすればいい。
……うまくいかない仕事のことも、帰ってからやるべきことも。
今は、何も考えなくていい。
利用している間だけ、現実から逃げて自由になれるのだ。

そうやって、僕は現実を生き延びる気力を得てきた。
名古屋駅前には他にもネットカフェがあるが、小奇麗なところや、照明がネカフェの中では強めで明るい所、無人店舗で、サービスの殆どが無人化されていて、誰とも話す必要がない点を僕は気に入っていた。
平時は別にいいが、しんどい日は誰とも話したくなかったりするのだ、僕は。

閉店する最後の日も、僕はネットカフェに閉店時間(その日は、確か二十時だった)までいた。自分なりに、お別れを言いたかったのだ。
店員に閉店を告げられ、最後の瞬間に立ち会った客達が、店を出ていく。
「ありがとう」
 ……その日は流石にいた店員に、サラリーマン風の客が一人声をかけて去っていく。店員もそれに「ありがとうございました」と返し、二人は別れた。
俺も言おうかな? ……そう思っている間に、店員は遠ざかっていった。
結局タイミングを逃してしまい、一人そっと店を出た。

僕はレジャックビルに、随分と助けられてきた。
おそばせながら……ありがとうございましたと伝えたい。

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