見出し画像

目的地を教えない旅行記

単なる旅行記なんて、noteに腐るほどある。となれば、利用者が読みたくなるのは物珍しい外国への旅日記や、極端に旅費を削って旅行してみた、といった面白い旅行記だろう。
……が、そんなネタは俺にはさほどない。ということで、今回は旅行の内容ではなく、テキストの方をひと工夫することにした。

この旅行記では、旅先を最後の最後まで明かさない。ミステリーで犯人を当てるように、脱出ゲームで脱出のヒントを探すかのように。旅先を当ててみて欲しい。
ミステリーは犯人を知ってから読むという変わり者の方は、一番下までスクロールしてください。一番下に、答えが書いてあります。

・前提情報

完全なノーヒントというのもアレなので、まず最初に俺がどういう人か? ということをはじめとした、前提情報を書いておきます。

名前 暇和梨(アラサー手前の貧乏男性)
現住居 名古屋
旅をした時期 今年のGW
持ち物 リュックサック、財布、スマホ、充電器、モバイルWi-Fi、文庫本、××××。

××××については秘密です。これを明かすと、ゲームが崩壊してしまうので。今回の旅の目的地をはじめとした、「特定の場所」に行くとき、持ち込む人「も」いる、漢字で四文字のアイテムです。

・旅立ち

流石にこの長期休暇、ずっと家でゴロゴロしてるだけなのもなぁ……ということで、俺は日帰りの旅行を考えた。
ゴールデンウイーク中に済ませておきたかった大掃除を終わらせ、翌朝、俺は日帰りの旅に出た。

ずっと忘れていたが、いつも乗っている地下鉄と、地上を走る電車の音は少し違う。
ガタンゴトン、ガタンゴトン……という、懐かしい音に揺られながら、俺の乗る鈍行電車は名古屋を離れ始めた。
電車が、田畑ばかりのただっぴろい田舎を走っていく。その光景が、俺には懐かしかった。
奈良の片田舎から名古屋に移り住んだ時は、どこか人工的な都会の自然や、四方をビルや建物に囲まれた視界に違和感を感じていたが、既にすっかり名古屋に慣れていたようだ。
畑の写真をパシャパシャ撮りつつ。俺は次第に飽きてスマホゲームに没頭するようになった。
畑が田んぼになったり、町になったり、また田畑になったり。山が、川が見えたり。風景はどんどん変わっていて見ごたえはあったが、それでもずっと見続けるのは飽きてきたのだ。ゲームをしながら、ちょくちょく窓の外を見つめるくらいがちょうどよかった。

電車で撮った田園風景。

途中で乗り換えのために電車を降りて、少しだけ路線図を確認する。
大阪や東京なら何度か行ったことがあったが、今日行くところは一度も行ったことがない県だ。なので、確認しないと分からなかったのだ。

乗り換えた電車の窓から、町と田畑の風景が交互に入れ替わっていく。ただ、摩天楼のようなものは勿論、大きなビルは一つも、あるいは殆どなかったと思う。
やがて目的地にたどり着き、俺は駅を降りた。
片道二時間くらいの、短い旅路だった。

・最初の目的地

下車、そして到着。

今回の目的地は複数ある……ともいえる。どういうことかというと、イメージとしては、東京ディズニーランドが近いだろうか。
ディズニーランドもディズニーシーも、別のものだが旅行に行くときはひとまとめに「東京ディズニーランド」と言う。旅行先を答える時に、律儀に、
「東京ディズニーランドと東京ディズニーシーに行くよ」
 と言うだろうか? いや言う人もいるだろうが、言ったとしても、
「東京ディズニーランド。あ、シーの方も行くよ」
 といった感じで言う人の方が多いのではないだろうか?
 今回の旅先も、そんな感じの場所なのだ。まとめてAと呼ぶが、実際にはAとBがあり、二つの場所に行くことになる。

A、B両方を回ってもそれほど時間はかからないということだったので、大掃除の残りを済ませてから家を出た。そのため、出発時間が遅くなってしまった。到着したときには、既に昼が近かった。

GWなだけあって人で混んでいたので、混む前に早めに食事をとることにした。
目的地に向かう途中で、何件かうどん屋が目に入る。
突然だが、俺は麺類が大好きだ。仕事帰りに頻繁に麺類を食べていて、休日は三食全てが麺の日もある。俺の主食は米ではなく、菓子パンか麺だと思う。新鮮な海の幸や、地元のブランド牛を使った肉料理を売っている店も発見したが、うどんには、麺には勝てない。
うどん屋が目に入った時点で、他の選択肢は消失していた。

歩きながら観光地値段になっていない、旨そうな店を探す。個人的に、観光地の、駅近くの店はハズレ率が高いと思う。
店構えや内装はキレイかつ清潔だが、どこか安っぽいプラスチック感があって、食べ物は値段が高く、味もイマイチ。そんな店が多い気がする。
本当においしい店はもう少し奥にあって、地元民も食べにくるから値段もリーズナブルな所が多いと思う。

何件か店をスルーして、俺は年季の入った木造の、一階建てのうどん屋を見つけた。
値段もリーズナブル。昼前の時点ですでに混んでいて、田舎っぽく、そして庶民的で手作り感のある、大衆食堂の雰囲気を感じる店だった。
俺はそこで、千円の肉入りうどんを注文した。
席が満席に近く、俺は四人用の机を、見知らぬ老齢の父とその娘と囲った。
十分ほど待って、ようやくうどんが俺の前に運ばれてくる。



(……西にも、こんな濃いスープを使ったうどんがあるんやなぁ)

 関東のものともまた違う、この地ならではスープ。思っていたよりもコシを感じるが、ぶちんぶちんと簡単に切れる麺。初めて食べる味のうどんを堪能し、俺は満足感に満ちながら店を出た。

青々とした、若葉のような力を感じるな……。
でもそれでいて、どこか深いものを感じるような……。
スピリチュアルな表現で恐縮だが、最初の目的地を探索する間、俺はそんなことを思った。
心霊体験? のようなもの? を経験したことはあるが、俺自身は霊感らしい霊感もない、ただの凡人なのでこの感覚が正しいのかは分からないけれど。少なくとも、いい気分転換にはなった。
博物館もあったのでそれも見た。両方を回り終え、俺は次の目的地へと向かった。そして、ここで今日初めて××××を使った。三百円を支払ったが……おかげで、旅の思い出がまた一つ増えた。

・最後の目的地

ネットで調べたところ、次の目的地には徒歩で一時間近くかかるらしい。
最初は歩こうと思ったが、バス停を見かけたのでバスに乗ることにした。ぶっちゃけ、アラサーが迫ってきている身に徒歩はしんどいし。

バスは楽だ。フリーターだった頃なら、アラサーだろうが何だろうが、徒歩一択だっただろう。こういう時、普段は憂鬱だが正社員として働いていてよかったと思う。
……が、降りる場所を間違えてしまった。

そこは、A、Bを回り終えた後に時間があれば行こうと思っていたポイント、Cに近かった。なので、俺は先にCに行くことにした。
A、Bほどの大きさはないが、とても雰囲気のいい場所だった。そして勿論、ここでも××××に記入していただいた。ありがたいことだ。

店の……というか、通りのシンボル? 

Cを立ち、Bに向かう。
普段GPSを使っておらず、ここでは俺以外にも観光客が大勢いたので、人波任せに歩いていたが、観光客向けの店が並んだ通りを通過したために、道が分からなくなってしまった。
GPSを起動し、一度逆走してしまったが、何とかBに到着した。
川に触れたり、何度も登ったり下りたりを繰り返したせいで疲れてしまったが、一通り回ることができた。無論、××××のことも忘れていない。

皆が触っていた不思議な川。

Aにも言えることだが、Bもまた、自分のイメージとは違った。
またまたスピリチュアルな表現になるが……Bは、Aよりは古風な雰囲気を感じた。だがそれでも、青々とした力強さを感じた。
三輪山、耳成山とか。自分にとってまだ馴染みのある奈良のものとは、全く違う気がした。

余裕があれば県内の別の所にも行こうとか、何なら大阪にまで行って一晩泊まり、大阪の友達と遊ぼうと考えていたが、夕方が迫っていたし、歩き疲れてしんどかったので帰ることにした。

帰りに買ったココナッツジュース。

帰りに名古屋の友達や隣人への土産を買い、もう一度あのうどん屋でうどんを食べようとわざわざバスで戻ったが、閉まっていて断念。諦めて、俺は帰った。

最後の最後に、近鉄とJRを間違えるというポカをおかしたせいで、ちょっと電車賃が嵩んだが、それ以外にもう、語ることはない。

……ああ、あともう一つ。この県の名物を、どうせ名古屋でも買えるだろうと買わずに帰ったのだが、買うことを忘れて家に帰ってしまった。マヌケ2連発を記すのは少し恥ずかしいが……今度こそ、これで旅行記は終わりだ。




・答え合わせ

皆さん、無事に答えを当てることができたのでしょうか?
個人的には、後半ヒントを出しすぎて、かなりバレバレになってしまった気がしますが……。
ある程度、前提となる知識が必要なものもありますし、ヒントの塩梅が難しいですね。

答え合わせをすると、今回の旅の目的地は「伊勢神宮」です。
A、Bというのは、伊勢神宮の外宮と内宮のこと、Cというのは、伊勢参りの際に伊勢神宮と一緒に参拝されることが多いという神社、猿田彦神社のことです。
うどんを食べていたのは、麺好きなのもそうですが、名物の伊勢うどんが食べたかったからです。
××××というのは、御朱印帳のことです。
奈良との比較はミスリードですね。ここで書いた二つのお山は、どちらも神社がある山です。登山と勘違いしてくれないかな、と思ってのものです。
名古屋に帰ってから買おうとしたものは、赤福ですね。
奈良には触れたのに京都には一切触れていないのも、ミスリードですね。スピリチュアル云々で神社仏閣と推測した人が、京都と勘違いすることを狙いました。ただ、名古屋~京都を鈍行で二時間はギリギリだし、流石に京都でビルを見ないのは違和感があるはずです。

初めての試みでしたが、楽しんでいただければ幸いです。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?