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大家さんとゴミネットと私

初対面

『ファンキーなおばあちゃん』

それが、初めて大家さんと会ったときの第一印象だ。

ピンクのジャージに短パン、頭には巨大なサンバイザーという格好で、隣の市からママチャリでやってきた。年齢は70代くらいだろうか。見た目も、喋りも、行動も、とにかくすべてがパワフルだった。

入居にあたっての説明をひと通り受けたわけだが、中でもとりわけ『ゴミ出しのネットの設置当番』のことが気掛かりなようだった。

大家さんによると、元々はうちのアパートの住人も、町内のゴミ収集場を使用していたのだが、そちらが多すぎるということで、

「お宅は独自で設置してくださるかしら?」

となったらしい。まあ、よくある話だろう。

というわけで、住人が輪番制で前日深夜のうちにゴミネットを出すのが、このアパートの決まりとのことであった。

困ったことが

ところが、いざ住み始めると、ひとつ問題があった。

「あぁ、ネット出てねえ!」

みたいな朝が頻繁にあるのだ。特定の人の時に多かった気もするが、事情が何にせよ困る。そしてイライラする。

時間がない朝に、スーツ姿で物置に入って、ゴミネットを設置して、風で飛ばされないようくくりつけて…

やってられん!

解決策

そこで、自分の提案を告げるべく、大家さんに電話した。

「かくかくしかじか…、はい、なので、もうゴミネットの設置は私が全部やります!」

幸い玄関にも近く、他の人よりは負担も少ないし、何よりも、そのほうがよほどストレスを感じない。

かくして、ひとり当番制はスタートした。

そして、その数ヶ月後。大家さんから、

「いつもゴミ当番ありがとうございます」 

のメッセージと共に、お菓子の詰め合わせが送られてきた。ありがてぇ…

うち単身向け物件なのに、どう見てもファミリーサイズなんですけど…ということで、職場の皆でいただいた。ありがてぇありがてぇ…

困ったことが その2

順調に見えたかであったゴミライフに、ある日、アクシデントが起きた。会社から帰ったところ、ゴミネット周辺にゴミが散乱していたのだ。

聞くところによると、その日はどうも満杯だったらしく、フタが浮いていたようで、カラスにつつかれてしまっていた。

中には溜めて出す住人もいるし、そもそも入居者も増えた。限界だ…

ということで、またしても大家さんに連絡をとった。

「かくかくしかじか…はい、なので、もっとデカいやつを用意してください!」

解決策 その2 ゴミMTG

それから数日後、帰宅後に大家さんが訪ねてきた。

「どんなものを買えばいいか、相談しにきた」

とのこと。なにこの不思議な関係性…

ネットショッピングは使いこなせるとのことで(失礼ながら意外だった)、あーだこーだと商品を選び、その日は別れた。

そして、しばらくたったある日、届いたネットを手にチャリで大家さんはやってきた。そう、大雨の夜に。なぜ今日!絶対危なかったろその運転…

商品は概ね問題なかったが、設置にあたっていくつか工夫が必要だったので、ホームセンターで必要な部品を買って試行錯誤し、ようやく整ったのは数時間後だった(難航した原因の8割は大雨)。

後日、またお菓子の詰め合わせが送られてきた。もちろん、ファミリーサイズのやつね。

その後

それからも時々、連絡する機会はあった。

「お宅はお宅でネット置いてくれとか言っときながら、近いからって理由でうちのネットに捨てにくるんですよ…どう思います? あぁはい、注意書きの看板書いてくれたらそれネットに設置しときますよ!」

…えぇ、ゴミの話がほとんどで。

さらには、年賀状のやりとりや、お中元お歳暮も送られてくるようになった。

昨年暮れに頂いたのは、スゴロクと福笑いのおまけ付きのおかきの詰め合わせ。って、わざとそういうの選んでる?いやいや、ありがてぇ…

私は人と信頼関係を築くことが苦手なんだと思っていたけど、大家さんとのご縁はずっと続くと良いなと願っています。

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