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発注側から見た実務経験1年フリーランスエンジニアとは

ひまパパです。
昨日、実務1年でフリーランスエンジニアになる事を勧めるような誰かのツイートを観測いたしました。
実際問題、実務1年でフリーランスになったようなエンジニアについて発注側はどう見るのかを書きたいと思います。

私の立場

プライムSIerとなります。
メーカー、事業会社、官公庁等から案件を受注しプロジェクトを発足させメンバーを集めて完遂する仕事をやっています。

まず直契約は与信審査に通らないが…

エンジニアを集める際、まずはソフトウェアハウスやSESをやってる企業様との取引が考えられます。
しかし良いエンジニアがいるかどうかの前にその企業が取引をするに値するかどうかの判断が会社としてなされます。

与信審査はその会社によって様々なやり方があると思いますが、おおよそは以下のツイートのようなやり方かと思います。(Henryさんのツイートを引用させていただきました)

信用調査機関というのは帝国データバンクなどの事ですね。
ここに問い合わせをするとその企業の財務状況とかが詳しくわかります。

財務状況が不健全な会社は色々とリスクが高いためしっかりと見るわけです。(途中で会社が潰れたりしないかとか、安く上げるために内緒で再委託しないかとか)

ここでも書かれていますが私の認識としてもプライムベンダーと個人事業主が直契約を行える可能性は限りなく薄いと思います。

なぜ口座が開けないのか?

発注する立場になって、仕事を外出しする時のリスクを考えてみましょう。取引においては常に最悪の事態も考えておかなければいけません。

①期待通りの仕事をしてくれないリスク

②機密情報を漏らされるリスク

分かりやすいのはこの2点でしょうか。他にも企業の体裁上の問題など色々ありますが・・。
ではそれぞれのリスクが発生した際に相手が(しっかりとした)企業か個人事業主かでどう違うかを考えていきましょう。

①期待通りの仕事をしてくれないリスク

SESの場合は業務委託契約や派遣契約となるのが主流です。これらの契約は成果物の納品が契約条件ではないので問題は起きにくいのですが、現実としてはトラブルが発生するケースが多々あります。

・スキルシートに「できる」と書いてあることができない
・あきらかに業務を遂行しようという態度がない
・遅刻、欠席が多く勤怠が良くない

契約したエンジニアがこのような人であった場合、発注した企業はどうすればよいでしょうか。

■取引先が企業の場合

当然、所属の企業に対してクレームを入れて改善を求めます。
所属の会社も信用問題に関わるので必死に対応します。(信用がなくなれば今後仕事をもらえなくなる)
 ・スキルが足りてなければ自社持ち出し費用で教育
 ・別メンバーによるフォロー
 ・勤怠や態度が悪ければ要員の交代
等の対応を行って信用を取り戻そうとしていきます。

■取引先が個人事業主(フリーランス)の場合

本人に言う以外に方法がありません。改善しない場合、契約終了して発注側企業は泣き寝入りとなります。

②機密情報を漏らされるリスク

仕事で扱っている情報は基本的に全て機密情報です。プレスリリース前のシステム開発であったり、顧客内部の情報が見える業務システムを作っていたり様々です。

契約しているエンジニアが(例えばツイッターなどのSNSで)情報漏洩した場合、我々プライムベンダーとしての信用がなくなってしまいます。

ではこのリスクにはどう対応したらよいでしょうか。
弊社でも契約後に当然セキュリティ教育はしますが、契約するエンジニアの所属会社がしっかり情報セキュリティに対する教育をしているかとか、これまでの実績で機密情報を扱う仕事をしてきているか等を確認します。プライバシーマークやISMSなどの取得も判断基準になったりします。

取引先が個人事業主の場合、教育の実態等わかりません。

最終的には「責任が取れるか」「周りに説明できるか」という事になる

上記のように対策をしていたとしても問題は発生する事はあります。
最終的には
・「責任が取れるかどうか」
・「求められた場合に経緯等を説明できるか」
が重要になってきます。

例えば契約していたエンジニアが情報漏洩をしてしまい、我々が損害賠償を請求され訴訟になったとしましょう。
裁判では我々プライムベンダーが「ちゃんとリスクの対策をしていたのか」という事が問われるでしょう。
株主やその他の顧客に対しても説明が必要です。

その際、
「プライバシーマークやISMSも取得していて情報セキュリティに対して教育されていると判断できる企業からエンジニアを契約していた」であればまだ言えますが、「教育の実態が無い個人事業主と直接契約していた」等とは口が裂けても言えません。

また、結果的に損害賠償が請求が認められてしまった場合、漏洩したエンジニアの所属である企業には我々から損害賠償請求をする可能性が高いです。
しっかりした企業であれば金銭的な対応も可能だと思いますが、個人事業主の場合は不可能でしょう。破産されて我々が泣き寝入りです。

やはり個人事業主には口座は開けない

ここまで説明した内容の通り、個人事業主には口座はまず開けないのです。
エージェント企業を挟んでフリーランスエンジニアを契約するケースはあります。これは何かあった場合の責任をエージェント企業に取らせるということでリスク回避をしている図式になります。

エージェント企業を介してのフリーランスとの契約はどう見ているか

私のTwitterのFFにもフリーランスの方は多くて少々恐縮なのですが、率直な意見を言うと「割と警戒する」「避けれるなら避けたい」という意見となります。

これは今までの経験からそう判断している部分が多いですが、論理的に分析しても警戒せざるを得ない事情があると判断しています。

■エージェントとフリーランスエンジニアの関係が薄い事による弊害

エージェント企業とフリーランスエンジニアの間にも契約が結ばれていますが、これはいつでも切れる契約です。
企業における雇用契約ほどの強い繋がりはない契約です。

前述したトラブルが発生した場合、我々はエージェント企業に改善を要望します。ところがエージェント企業はフリーランスエンジニアとの関係が薄い為、うまく指導したり改善したりできないケースが多いです。

エージェント企業側からも「いつでも切られる関係だしフリーランスエンジニア側の問題なので弊社は悪くないですよ」というスタンスを感じ、すぐ諦められてしまう経験が多かったです。

■最終的な責任が個人に依存するという性質の問題

こういう人ばかりではないとは初めに断っておきますが、
「契約切ればそれまでの関係よ」
「最悪自己破産してオシマイよ」
というスタンスのフリーランスエンジニアに当たった経験が多いです。

個人事業主というのは、自分の行動で所属会社に迷惑がかかる事はありません。(所属会社という存在がない)
最悪自分が我慢すればよい世界であることは事実。
間のエージェント企業との契約も、仕事をもらう顧客も、割と簡単に変える事が可能です。
この「責任の大きさ」や「関係リセットのしやすさ」が仕事の質や態度に少なからず影響が出ていると考えています。

フリーランスになる → ある程度の自由・柔軟さを求めているという図式なのでこのようなスタンスになりやすい傾向があるのかもしれません。

※重ねて断っておきますが、しっかり責任感を持って仕事をして下さるフリーランスエンジニアの方もたくさんいらっしゃいます。

■付加価値がほぼない

契約して一緒に仕事をやる事はアウトプットを出してもらう事だけではありません。企業と企業との付き合いであれば今回の実績から新しい仕事の話に繋げたり、育てたエンジニアをリーダーとして立ててもらって持ち帰り開発に繋げていただくなど、付加価値を考えていく事ができます。
弊社の開発手法もそのリーダーによって社内展開してもらえれば我々の教育コストも節約できます。
企業対企業の付き合いは付加価値が生まれやすいのです。

フリーランスエンジニアの場合、数年後に声をかけてもう一度参画してもらう事はできるかもしれませんが、そもそも個人なのでより大きな仕事を任せたりすることは不可能です。
また、タイミング的にその人が空いていなければ再契約もできません。
企業ならば「その人は空いていないがサポートはできるので違うメンバでどうか」という話になることがしばしばあります。

実務一年のフリーランス?冗談じゃない

ここで本題に戻ります。
上記のリスクを取ってもフリーランスエンジニアに協力していただく事はあります。それは他では見つからない貴重な経験やスキルを持っている方で、リスクを取ってでもプロジェクトの遂行に必要な存在と判断するからです。

では実務一年しかないフリーランスを契約する可能性は?

私が管理するプロジェクトで契約する可能性はゼロです。
絶対に契約しません。どれだけ安くても。
与信審査が通らないという前提があるのでそこで無理ですが、そういうのを取っ払ったとしても契約する事はありません。エージェントを通したとしてもありません。

実務一年でフリーランスということは
・技術力
・コンプライアンス感覚
・チーム開発
全てにおいてリスクがあります。
そのリスクを低減させる根拠となる実績も無し。(1年しか経験がない)
そして、前述したとおりそのリスクが顕在化した際に我々が泣き寝入りする可能性が高い。

付加価値も非常に生まれにくい。その実務1年のエンジニアを契約して実務の中で育てたとしましょう。プロジェクトが終わり契約がいったん終了となった後、その人が別のプロジェクトで再度力を貸してくれる可能性は企業間取引に比べて低いのです。我々が育てるメリットがほとんど無い。

実務1年でフリーということで、ビジネスマンとしての素養も怪しい。
・責任を全て自分自身が負うという事を軽く考えているのでは?
・十分にスキルがないのに目先の利益を追っているのでは?
・変なインフルエンサーに感化されているのでは?

リスクだらけです。
実務1年のフリーランスと契約するくらいなら付き合いのある会社から新卒1年目の未経験状態の社員を契約します。

それでも実務1年でフリーランスになりたい方へ

なることは自由ですし、私の知らない世界では生き残る方法はあるのかもしれません。私と一緒に仕事をすることは無いとは思いますが、ぜひ頑張っていただいて成功実績や方法を発信していただきたいと思います。

ですがくれぐれも周りから聞こえてくる耳障りの良い言葉に惑わされてキャリアを汚すことのないよう、慎重に検討していただければと思います。


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