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亡き妻に捧げたオマージュ ―碇ゲンドウと平田篤胤―

愛する妻を失うことは、計り知れない痛手と悲しみをもたらすのでしょう。一人残された夫が、亡き妻の幻を追い求めるというのも、分からない話ではありません。

人気アニメのエヴァンゲリオンで「人類補完計画」を推し進めた碇ゲンドウの真の狙いは、亡くなった最愛の妻・碇ユイとの再会であったと言われます。いささか狂気めいた動機にも思えますが、これはあくまでも、フィクションとしての設定だからなのかもしれません。

例えば、実在した人物が、これと同様の動機から、似たようなことを思い描いていたとしたらどうでしょう?

それが幕末から明治維新に少なからぬ影響を及ぼした国学者・平田篤胤です。

彼は37歳のとき、相思相愛で結ばれた妻、織瀬を亡くします。深い悲しみに見舞われた彼は、それから死後の霊や幽冥への関心をたくましくし、本格的な幽界研究へと身を投じます。

そうして記された『霊能真柱(たまのみはしら)』は、死後の世界を黄泉ではなく、冥府だとします。そして冥府にいった死者の魂は、そこから現世の子孫たちを見守っている、つまり、この世とともにある、というのです。

平田篤胤はこうして、亡き妻、綾瀬とともにある世界観を構築したのでした。