失恋
「失恋しました」
そんな言葉を彼女は僕の目の前で口にした。
彼女は、僕がずっと恋焦がれていた人で。今までいくら願ったか分からないほどの状況。
でも、僕の気持ちは、グルグルとグチャグチャと、渦巻いて、吐き気を誘発させようとする。
「彼のことが大好きだったんです。」
彼女は、涙を浮かべる。
ここで、彼女の涙を拭ってあげることができれば。そう思って僕は手を伸ばそうとした。そんな勇気あるはずもないのに。
「彼は最期まで私の事を気にかけてくれました。」
彼女は、僕の眠る箱に泣きついた。
「彼が私のことを守らなければ。私が代わりに死ぬことができたのに。」
そんなこと言わないでと、僕はわらう。
彼女が席に戻り、いくらか時がすぎる。
黒1色の空間を抜け、彼女は帰路に着いた。
ブー!ブー!
甲高いクラクション。
透けた手で僕は彼女を突き飛ばす。
あの時とは違うから、少し不安だったけど。
また守ることができてよかったと。
「また、助けてくれたの?」
僕は彼女の涙を拭い、
「幸せにね。」
と言葉を遺し、立ち去った。
透き通った空が印象的な冬の日だった。
彼女は寒さに立ち向かうように、しっかりと前を向いて歩き出した。