#28 あの子の行方

チャイムが鳴る。転校して2ヶ月経ったが、僕はクラスに馴染めないままでいた。
友達なんてできっこない。僕は笑顔が苦手だ。友達か…。いつかはできるさ。自分にそう言い聞かせ、我慢する日々を送っていた僕だが、ある日のお昼休みに運命的な出会いをする。
お昼の放送の時間に流れてきた音楽を口ずさんでいたら、前の席に座る真由ちゃんが声をかけてきた。

「ねぇ、このバンド好きなの…?私も好き!今度ベストアルバム出るんだよ…!」

僕にとって絶好のチャンスだった。彼女の笑顔は太陽のようだった。僕はこの子との繋がりを一生大切にしよう、そう思った。
それからというもの、僕は真由と一緒に過ごすことが多くなった。

駅のホームで電車を待っていた時、真由が俯きながら話し始めた。

「私ね、冬が好きなの。人の温もりを感じられるから。」

僕と真由は駅の待合室に入り、缶のカフェオレを飲む。冷え切った彼女の手が、少しだけ温まった。
待合室の扉を閉めた瞬間、真由はどこか物憂げな表情だった。僕は彼女の表情の意味を知れないまま、カフェオレを一口、また一口と飲み、電車に乗った。

転校して半年が経った。僕はクラスに馴染めないままだったが、真由だけは違った。
ある日のお昼休み、真由と出会ったきっかけのバンドの曲が流れる中、真由がつぶやいた。

「私ね、転校するんだ。」

僕は呆然とした。初めて、あの日待合室で見た表情の意味を知った。あまりにも突然だった。海外に引っ越すというのだ。彼女と同じ大学に行くという儚い望みは、虚しく消え去った。

「ねえ、観覧車乗らない?」

学校の帰り道、真由は僕を観覧車に連れて行った。ゴンドラの中からネオンが綺麗な街を見下ろす。
彼女の表情は明るかった。彼女は強く生きていた。

「今日はありがとう。綺麗だったね。………また来れたらいいね。」

一瞬の間を感じた。僕は察した。もうすぐ会えなくなるのだろう。僕は彼女の手を強く握りしめ、涙を堪えた。

卒業式が終わり、僕はいつもの駅の待合室でひとり卒業アルバムを開いた。
アルバムに真由の名前はなかった。わかっていたが、僕はどうしても寂しかった。
思い出の写真のページを見ていると、僕と真由が笑いあっている写真が載っていた。お昼休みにあのバンドの話をしている時だ。
僕は自然と笑顔になった。今、あの子は何をしているんだろうか。
久しぶりに連絡をとってみようかな。そう思った僕がスマホを見ると、1通のメッセージが届いていた。

「私、冬が好きなの。」

僕は…君が…。

是非サポートお願いします。サポートしていただいた資金は制作資金、ギター資金、ミルクティーに変わります。宜しくお願いします。