#31 スロー再生の夜

デオキシスを捕まえるためにモンスターボールをくるくるする。最近の僕の趣味といえば、ポケモンGOだ。あらゆるスポットに出向き、たくさんのポケモンを捕まえる。彼女がいない僕は、一人の時間が大好きだ。行動力があるから、やろう!と思ったことはとことんやるタイプだ。だが、恋愛においては、全く別だった。

同じクラスのTは、学年のマドンナだった。週に一度は誰かから告白されているとの噂だった。僕はTのことが気になっていた。Tはよく僕に話しかけてくれる。というのも、クラス替え一発目の席が隣で、いろいろと話して仲良くなったのだ。

教室の隅にTがいたので、特に話すことも決めてないが、僕は彼女に声をかけた。

「よっ。なにしてんの?」
『宿題やるの忘れてたからさ〜。
急いでやってんのよ。』
「そかそか。手伝おうか?」
『いや!いいよ!もう終わるから!
あーあ、カラオケ行きた〜。
ちょ、ねぇ、今度一緒に行こうよ。』

恋するだけの僕は、Tの声を聴いて心が踊った。なにを話しても心はフワッと宙に浮いたままだった。Tとカラオケに行くことになった。最高だ。

『いぇーいやったー。Y、ほんと最高。
めっちゃ楽しみ!』

最高だ。最高すぎる。それ以外の言葉が見当たらない。君の適当な相槌も、記憶のど真ん中に色濃く焼き付いた。気づけば三時間も自然と会話が続いた。空が暗かった。一緒に帰りながら見上げた秋の星空で、星たちが笑っていた。


翌日。無理矢理に予定を開けてカラオケに行くことになった。Tはaikoを歌う。僕はカブトムシを歌うTの横顔を見つめていた。三時間は一瞬で過ぎ去った。最高の時間だった。一瞬すぎたけど、Tとの時間は記憶のど真ん中に突き刺さった。

カラオケからの帰り道。Tは僕にいろんな話をしてくれた。

「私ね、怖いんだー。誰かと付き合あうってのが考えられないんだよね。」
『そっか。モテモテだもんな。』
「いやぁ…。嬉しいんだけどね。怖いんだ。
漠然と。私の何がいいんだろうね。」
『そういうところ、かな。俺は好きだよ。』
「それは…どっちの意味…?」
『どっちもかなー笑 
まぁ、どっちでもいいじゃん笑』
「そっか。どっちもか。私もどっちも!笑」

何かが始まる予感がした。二人で見上げた空で、星たちの動きがスロー再生に見えた。

Fin.

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