#29 壇上

雲ひとつない快晴の空のもと、待ちに待った体育祭が幕を開けた。
怪我をしがちな僕は、入念にウォーミングアップをして、自分の出場するリレーと騎馬戦に備える。
開会式、可愛らしい女の子が朝礼台に上がって開会宣言をした。隣のクラスの楓さんだ。楓さんは、体育委員長を務めている。朝礼台に上がってラジオ体操の指示をするのも、楓さんだ。

競技が徐々に終わり、前半戦の時点で僕のクラスは8クラス中4位につけていた。
僕は自分のクラスの応援をしながら、楓さんを自然と目で追っていた。
せっかくの体育祭だし、楓さんと一緒に写真を撮りたいな。2人で一緒に観戦したいな。体育祭が終わった後、2人で話せたりしないかな。
叶いやしない願いばかりが積もっていく。
そうこうしているうちに、自分の出番が来た。ウォーミングアップをしたはずだが、自惚れていたのだろうか。誰も抜かせないまま、次の子にバトンを渡した。

悔しい気持ちとは裏腹に、僕の後に続く友達がどんどん追い抜いてくれて、僕のクラスは1位を取ることができた。1位に貢献することはできなかったが、勝ちは勝ちだ。

リレーの後、すぐに騎馬戦があった。赤白帽子を被った僕は、友達に持ち上げられ、敵の帽子を必死に取りに行く。
本気で取り組む中、ある人を目の前にした瞬間、ふと力が抜けてしまった。楓さんがいたのだ。
楓さんは僕のところに一直線に向かってくる。
僕は楓さんの帽子を取ってもいいのだろうか。いろいろと考えているうちに、僕は楓さんに帽子を取られた。揺れるポニーテールが、僕の心を揺さぶった。

空に雲がかかっていた。うっすら灰色の雲は、僕の気持ちを投影しているようだった。

全く活躍できないまま、全ての競技が終わった。楓さんに、カッコいいところを見せられなかった。まぁ、カッコつけたところで、僕のことなんか知らないだろうが。


閉会式、成績発表。味方の活躍もあって、僕のクラスは3位に入賞した。
クラスの体育委員だった僕は、朝礼台に向かい、体育委員長の楓さんから賞状を受け取る。楓さんが僕の目を見て微笑んだ。気がした。

閉会式が終わり、グラウンドの片付けを終えて教室に戻ったとき、突然雨が降り出した。
たまたま傘を学校に置いていた僕は命拾いした。昇降口で靴を履き替えていた僕は、雨宿りする楓さんを見つけた。
多分、傘を忘れたのだろう。一度も話したことないし、声をかけるの、怖いな…そう思っていたとき、楓さんが僕に気づいた。

「ねぇ…慎二くんでしょ…?私、傘忘れちゃったんだよね…」

楓さんが僕の名前を知っていた。慎二くんと呼んでくれた。どうやら僕のことは友達づてに知ったらしい。理由なんてどうでもいい。僕は楓さんが僕を知ってくれているという事実だけで嬉しかった。
無神経なタイミングで降り出した雨は、僕を幸福へと誘ってくれたのだろうか…?

『たこ焼き食べて行かない?』
「いや。気分じゃない。」

僕のとっておきのアイデアは、無機質な言葉で蹴飛ばされた。君は笑っていた。


相合い傘をしながら歩く並木道で、僕は人生に意味を見つけたような気がした。どこまでも続いてほしい、と思った。

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