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恋石川千明「わたしたちの好きなロジハラ」


今回の記事は、自分が過去に企画した同人誌『共感性致命傷説集 vol.1』に掲載した架空のインタビュー原稿です。

頒布したのももう2年前ですし、boothの在庫も既にないのでここに再掲します。

今後も、過去原稿をいくつか載せようと思っています。(当然ですが、自分で執筆したものに限ります!!!)

『共感性致命傷説集』はvol.2もあるのですが、そちらは以下のリンク先から無料でダウンロードできます。
共感性致命傷説集vol.2 - b4summerrocket - BOOTH
「感傷マゾ」を題材に創作をするサークル、國學院大學感傷マゾ同好会の同人誌の第2弾『共感性致命傷説集 vol.1』の電子版で
b4summerrocket.booth.pm
それではどうぞ。

今回の記事は、自分が過去に企画した同人誌『共感性致命傷説集 vol.1』に掲載した架空のインタビュー原稿です。

頒布したのももう2年前ですし、boothの在庫も既にないのでここに再掲します。

今後も、過去原稿をいくつか載せようと思っています。(当然ですが、自分で執筆したものに限ります!!!)

それではどうぞ。


「少女に、自分の本質的な部分を見透かされて、的確に本質を糾弾されたいという欲望だよね」



「感傷マゾ」の提唱者であるわく氏が中心となって刊行している同人誌──その名も『感傷マゾ』──その第一号に掲載された座談会にて出た発言です。

これと似た嗜好を私も以前から持っており、それを「ロジハラ萌え」と呼んでいました。実に2年ほど前からです。当時は共感してくれる人が周囲にいなかったのですが、冒頭に引いた発言を見て、「まさにこれではないか!」とマジで感動しました。それが「感傷マゾ」との出会い……それも、今の青春が云々という奴ではなく、それより一つ前段階の「感傷マゾ」です。自分の抱いていた、あまり同好の士を見つけることが出来なかった「ロジハラ萌え」に共感してくれそうな人たちがいるんだ、という純粋な喜びで満たされ、発足したばかりだった感傷マゾ同好会にⅮMを送り、ちょうどビラを作るというのでその中に是非「ロジハラ萌え」の文言を入れてくれと代表に頼み込みました。結果ビラには「ロジハラ萌え」という、他の感傷マゾ愛好家は誰一人言及していない謎の単語がサラッと載ることになったのでした。ただ、「そもそもロジハラってなに?」という方もいるかもしれません。確かにこの「ロジハラ」という単語はその物珍しさから瞬間的に流行り、そして忘れ去られていってしまった……ように思える、「セクハラ」「パワハラ」のように定着した言葉ではないからです。

ロジハラとは「ロジカルハラスメント( logical harassment)の略語。正論を突き付けて相手を追い詰めるハラスメントのこと」、だそうです。しかし、このロジハラという言葉が世に出たとき、決して肯定的な評価はされていなかったように記憶しています。今でもサジェストには、「ロジハラ 意味不明」とか「ロジハラ おかしい」と表示されているみたいですね。……しかし、私にはこの「ロジハラ」という言葉、とてつもない萌えの可能性があると思うんです。そもそも「萌え」という言葉が今、使われなくなって久しいですよね。「推し」という本来三次元に使われていた言葉が「萌え」にとって代わっています。これはオタク層の幅が広がったせいで「二次元に萌えられる」オタクが全体を占める割合が低下し、それに応じる形で業界が(アイドル戦国時代に便乗する形で)仕掛けたアイドル声優ブームの影響が大きいと思うんですが、この「推し」隆盛の時代にもう一度「萌え」を復興させるためにも、「萌え」界には新たな「萌え」の開拓の必要があると思うのです。その急先鋒として「ロジハラ萌え」を盛り上げていきたいのです。21歳、大学生。希望は、ロジハラ。さて、いわゆる一つの萌え要素として「ロジハラ萌え」を盛り上げるには、「ロジハラ萌え」属性を持つキャラクターを紹介する必要があるでしょう。ツンデレなら『とらドラ!』の大河、メイドなら『ハヤテのごとく!』のマリアというように、萌え要素にはそれを代表するキャラクターがいます。では、ロジハラ萌えにおけるそれは誰か?というと、やっぱりそれはきづきあきらの漫画『ヨイコノミライ』の青木杏でしょう。


そんなこといわないで。

でしょう、というか私が一番好きな「ロジハラ萌え」キャラが青木さんというだけですけどね。そもそも、この『ヨイコノミライ』という作品が世間的にどれだけ知られているのかはよくわからないのですが……おそらくきづき作品の中では『メイド諸君!』と並んである程度有名な作品なのではないかと思います。ネットでたまにコマが貼られてるの見ますし。この漫画はオタクサークルの話で……どうでも良いんですけど『げんしけん』に憧れて入ったサークルが『ヨイコノミライ!』だったというのはあるあるです。おそらく前者はもっと知名度ありますよね?『げんしけん』はアニメ化もしましたし……あっちは大学の話ですが『ヨイコノミライ』は高校の部活、漫画研究会が舞台です。

そして、この漫研に所属しているオタクはというと……ロジハラヒロイン・青木さんの評するところによると「感想と批評の区別もつかない自称批評家」「現実が直視できないオカルト少女」「文芸部からはみだしたボーイズ作家」「声優気取りで甘えた声……自己愛の強烈なナルシスト」「口ばっかりプロの半可通」「なんの取り柄もない、ただのオタクに居場所を感じているだけの無能オタク」などなどです。……キツイですよね?キツイけど、こういうオタクっていますよね。そして往々にして、彼らはこの事に自覚がない。そんな彼らがぬるま湯でまったりやっていた漫研に青木さんがするっと入り込み、漫研部長・井之上くんを唆して「部誌制作」の企画を立ち上げさせ、オタクたちに自分たちが目を逸らしている「現実」を直接的に、または結果的に突きつけていき、青木さん自身も変わっていく……的な話です。


青木さんの表情、良い。

この、オタクたちに現実を突きつける青木さんの一連の行動……ここに私は「ロジハラ萌え」を感じるのですが……作中での具体的な例を紹介しましょう。

1.    「感想と批評の区別もつかない自称批評家」の場合。
彼の名前は天原強。利己的な性格で強引、他人の気持ちがわからない困ったやつです。彼は初めに青木さんのターゲットとなり、部誌の編集権を部長の井之上くんから強引に奪ったりと便利に動いてくれるのですが、他人の気持ちがわからないものですから青木さんと自分の間に特別な関係が芽生えていると勘違いしてしまい、散々迷惑をかけたあと、最終的に青木さんから「どうして自分の話しかできないの?もうどうせ最後だから言うわ。アナタが簡単に他人を蔑むのは賢いからじゃない。他人を理解しようともしない、馬鹿だからよ。」と言い放たれてしまいます。……良い台詞ですね。次に紹介するのはもっと良いですよ。

2.    「文芸部からはみだしたボーイズ作家」の場合。
彼女の名前は桂坂詩織。部のなかでは割と常識人ポジションにいる感じなのですが、実のところ彼女も他の部員たち同様自分の才能を過信しており、おまけにリストカット常習者。そんな彼女は友人の大門夕子(「声優気取りで甘えた声……自己愛の強烈なナルシスト」)を「守る」ために色々と頑張ります。(もちろん、これも青木さんに誘導されながら、です)。

しかし結局その努力は空回りし、最終的に夕子は「アンタは、アタシを守ると称してアタシが前に進むのを邪魔したのよ!」「ここ自体が、ぬるま湯の金魚鉢で、足を引っ張りあう場所だもんね。─中略─サヨナラ。桂坂さん。」と言い放ち、詩織の前から(そして漫研からも)去っていきます。もうおわかりだと思いますが、本当に依存しているのは詩織の方なのですね。

夕子から絶縁状を突き付けられた直後、屋上で悲嘆にくれる詩織に青木さんが追い打ちをかけるロジハラ名シーンを紹介します。引用ばかりで申し訳ないのですが、好きなので紹介したいんです。読んでください!

青木:だから忠告したじゃないですか。

詩織:夕子が…ボクなしでやっていけるワケ……

青木:……前の大門先輩ならね。たたき起こしたのは先輩ですよ?よかったじゃないですか。大門先輩は一人でも歩けるようになってしまいました!

詩織:ムリだよ…あんな、依存心の強い子が…

青木:……依存心が強いのは…桂坂先輩の方じゃないですか。大門先輩本人のためなんて考えた事もない。自分を必要としてくれる大門先輩によってしか、存在意義が確認できなかっただけですよ。勝手な人ですね。

詩織:青木……?

青木:私は依存相手の替わりはやりたくないので、さよなら。

詩織:待て青木!君ははじめから、ボクらを引き離すつもりで…

青木:いいえ?なんでそう人のせいにするんですか。私はちょっとした本音を掘り出しただけです。先輩達が本当の友人なら、とっくにわかっていた事を。卑怯者で、保身に必死、虚勢ばかりで、利己的な自分を、ありのままのちっぽけな自分を受け入れる覚悟はない。いざとなれば手首の傷が免罪符ですか。そんなものを見せられたら、普通の人間なら黙って従いますもんね。

詩織:ボクは……ボクは人にこれを見せびらかした事なんてない…!そんな下衆なマネを誰が…!

青木:そうですか。見せればいいのに。なんて、見せられるワケないか。そんな浅い傷、その浅さが、先輩の心の浅さそのものですよ。デモンストレーションなのですよね?まったく、アナタ達は何もかも、いつまでたってもデモンストレーション。いいですよ。「本気を出した自分はスゴイ」そういう事にしておきましょう。

いやぁ……名シーンすぎますね。このシーンを是非『ヨイコノミライ 完全版』全四巻を購入して読んで欲しいです。例を二つ挙げましたが、私の言う「ロジハラ萌え」により近いのは後者なのですよね。というのも、二つの大きな違いは「青木さんから言われるまで、本人がそのことを自覚していたかどうか」なんです。そして天原くんはおそらく自分の欠点にそれまで決して気づいていなかった。対して詩織は頭では既に理解している、しかし自分の弱さゆえに目を背けていることを青木さんに代弁されている、という状況だと思います。

ロジハラ萌えというのは、まさにそれなのです。「頭では理解しているが、自分の弱さや浅ましさゆえに見ないふりをしていたことを代弁し突きつけてくる」というのがロジハラ萌え属性を持つキャラクターの振る舞いであり、そこに萌えるのが、「ロジハラ萌え」です。

少しアクロバティックな話かもしれませんが、このとき、ロジハラされる側にとってロジハラしてくる側は自分自身だと思うんですよね。代弁者としてそこに立ち現れているので。つまり、ロジハラ萌えを先鋭化していくと、特定のキャラにロジハラ萌えを感じる、というのは困難になってくる……というか、物足りなくなってくるんですね。他人の創ったキャラクターにはどこまでも他者性が付きまとってくるといいますか。そうなると、自分でロジハラヒロインを生成する必要が出てきます。もし、この原稿を読んで「自分もロジハラ萌え愛好家だ!」と感じられた方がいれば、その方にも良ければこの域まで達していただきたいので、簡単にですがロジハラヒロインの生成法を紹介しておこうと思います。

まず、モデルを見つけます。これはキャラクターでも、実在の人物でも構いません。私の場合は高校時代の同級生をベースにしました。彼女から「ねぇねぇ、あなたはなにがしたいの????」と言われたことが今でも心に残っているからです。仮に彼女の名前を「路地原 萌」としましょう。そして、彼女についてひとしきり考えます。どういう性格か、どういうプロフィールか……忘れないように書き出してみます。中でも重要なのは「どんな風に話していたか」です。それが終わったら、次のステップに進みましょう。

なんでも良いですが、文章を書いてみましょう。そして、そこに後から彼女……私の場合は「路地原 萌」によるコメントを追加してきましょう。試しに、この原稿の冒頭でやってみましょうか。

私「それが「感傷マゾ」との出会い……それも、今の青春が云々という奴ではなく、それより一つ前段階の「感傷マゾ」です。自分の抱いていた、あまり同好の士を見つけることができなかった「ロジハラ萌え」に共感してくれそうな人たちがいるんだ、という純粋な喜びで満たされ、発足したばかりだった感傷マゾ同好会にⅮMを送り、ちょうどビラを作るというのでその中に是非「ロジハラ萌え」の文言を入れてくれと代表に頼み込みました。結果ビラには「ロジハラ萌え」という、他の感傷マゾ愛好家は誰一人言及していない謎の単語がサラッと載ることになったのでした。」

路地原「そんなに特別になりたいの?今の感傷マゾが云々という奴ではなく……同好の士を見つけることができなかった……他の感傷マゾ愛好家は誰一人言及していない。どれもこれも、自分が他人とは違うって主張したいのが伝わってくるよね。「共感してくれそうな人がいるじゃないか、という純粋な喜び」?……違うでしょ。共感じゃないでしょ、あんたが求めてるのは……むしろ共感、だなんて他人と同じ立場に立つ行為は避けたいはずなのに。自分の自己顕示欲を隠すために「共感したい」だなんて、気持ち悪いよ」

こういう感じです。「彼女ならこの文章を見て、どんな風に私の隠したがっている本心を糾弾してくれるだろう」と想像するんですね。そうすると、どんどん彼女の言葉で己の弱さが露呈していきます。そして、これを繰り返し続けることで、もうワンステップ先に進めるんですね。そうするとどうなるか。だんだん、口頭でもこの一人二役が自然にできるようになっていきます。落語みたいな感じを想像してもらえればと。 そうしたら、応用に進んでみましょう。

ステップでは、あるコンテンツを視聴しながらリアルタイムで感想(と、それに対するロジハラヒロインの返し)を喋っていくことになります。これも例を出した方がわかりやすいでしょうね。

たとえば、私と路地原さんがABEMAでやっている恋愛リアリティーショー、特に「今日、好きになりました。」(通称「今日好き」)を観ているとしましょう。この番組は「運命の恋を見つける、恋の修学旅行」をテーマに、現役高校生の男女が2泊3日のなかで恋愛模様を繰り広げる……というものです。彼らの恋愛模様を見て、私はこう呟きます……。

私「こんなサーフィンが趣味な奴とかダメでしょ。理由は一つ、サーフィンが趣味だから。ていうか、さっきからこいつらの会話なんなの?まったく面白くないんだけど」

すると、次に私の口から自然と路地原さんのセリフが出てきます。

路地原「あのね、あんたがこの会話を面白いと思わないのはあんたがこの内輪に入っていないからなの。教室で起こる笑いをあんたが面白いと全く感じないのと同じ。この人たちは内輪で、お互いにある程度好意を持っているから面白いの。それわかって言ってる?逆にね、あんたがいつも笑っている声優のラジオだって、あんなの何にも面白くもなんともないの。地上波に出てるのを見て「芸人越えw」とか本気で言っているとしたらとんでもなく客観視ができていない証拠。あれは、あんたがあの声優を好きだから面白いの。本当は何にも面白くなんかないの。そのことをわかって今の発言をしてるの?してないよね。結局あんたは、こいつらが気に食わないから短絡的に「会話」をやり玉に挙げているだけで、あんたは「会話」の面白さなんて何ひとつわかってないの

もうやめてくれ、と思いますよね。でも、同時に心地良くもあるのです!!!

こういったことが出来るようになれば、一旦「ロジハラヒロイン生成」は終わりです。 更に、もう一つ上に行きたい場合、身体的な修練が必要になってきます。

「合気道」という武道をご存知でしょうか。『刃牙』シリーズの渋川剛気をイメージする方が多いかもしれません。(厳密には、渋川は合気柔術の使い手ですが)この武道の開祖、植芝盛平にはある逸話があります。Wikipediaとかにも書いてあるんですが「敵が銃を撃ってきたとき、弾より先に謎の光が飛んでくるのが見え、それを避けることで銃弾に当らずに済んだ」らしいです。ほんとかよ。

これはおそらく、植芝独特の自己鍛錬法が功を奏したのです。彼の言葉を集めた本に詳しく書いてあるのですが、彼は天地や宇宙と常に交流するよう心がけていたらしいのです。すると、何か行おうとする時に目の前に白い玉が現れ、そこにもう一人の私が現れ、自分の行動をそのままなぞってくるんだと言います。そうすると自己が常に進み、そして最終的には魂の花が咲き、魂の実を結び、顕幽神三界を守るところの人格者にならなければならない……のだそうです。刃牙がカマキリと戦っていたやつと似ているかもしれません。

ちょっと妙な方向性になってきましたが、要するに私が言いたいのは本格的に自己との対話……つまりロジハラヒロインとの会話精度を上げるには、身体的な鍛錬も必要になってくるということです。そもそも、脳内での想像や文字化といった最初のステップから、一人芝居という身体的なものへと段階を踏んできたことからも、これは必然です。

本稿では合気道を挙げましたが、他にも多分やりようはあると思います。……まぁ、といっても。落ち着いて考えるとそこまで(つまり、ロジハラヒロインの生成まで)やる必要なんてもちろんないですね。

私はただ、「頭では理解しているが、自分の弱さや浅ましさゆえに見ないふりをしていたことを代弁して、突きつけてくる」そんなロジハラヒロインについて「この子もロジハラヒロインだ、この子もそうだ」とか言って皆で魅力を語ってみたり、「この発言、“ロジハラ萌え”だよね!」てな感じで盛り上がりたいんです。

そういう方との交流を求めて、私は感傷マゾ同好会に入りました。皆さん、ロジハラ萌えについて語りませんか?

最後の合気道のくだりなんなんだ?マジで。ちなみにロジハラ萌えを一緒に語る仲間はできませんでした。

???「良かったじゃない。「変な性癖をこじらせた自分って面白いでしょ?」って、ずーっと一人で言っていたいんでしょ」

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