ガンギマリコロポックル
「ガンギマリコロポックル」
この言葉を聞いてあなたは何を思い浮かべるだろうか?
大学生だった頃、とある講義でわたしはそれを見た。
見たと言う言い方は少々不適当かもしれない。そいつは「いた」。
白髪混じりのモサモサ頭、小さな身長、そしてなにかがキマってるんじゃないかと思わせるようなかっぴらいた目。
それは確かに教壇の上に「いた」。
その姿を見てわたしの頭に突如として湧き上がってきたのがこのワード
「ガンギマリコロポックル」
であった。
その語感の良さ。そしてわたしがいなかったら出会うことがなかったであろう「ガンギマリ」と森に住む妖精「コロポックル」という言葉のマリアージュ。
わたしはこれ以上ないくらいに納得した。
およそ人につける名前ではない。
わたしは講義が終わった後、唯一気の許せる少々狂っている友人にこのとっておきの閃きを話してみることにした。
「ねえ、あの人とってもガンギマリコロポックルじゃなかった?」と。
友人はくっくっと悪い笑い方をしていた。思った通り。わたしと彼女に刺さるものはいつもだいたい同じところにあるのだ。
いつしか2人はその講義名を「ガンコロ」と呼ぶようになった。何せ、ガンギマリコロポックルというワードは少々物騒がすぎた。ガンギマリなんて言葉は本来そんなぽんぽん使っていい言葉でもないだろう。
ガンコロとしてしまえばなんだか響きも可愛いし、特定個人を指してるようにも聞こえないだろう。
一般常識が欠落していない我々隠れキチにとってそれはありふれた配慮だった。
ガンコロの講義は課題が多かったのを覚えている。最初はまるで小鳥が鳴くようにつつましくガンコロ…ガンコロ…と発していた我々だったが、そのうちガンコロはただの講義名として、あるいはガンコロの講義で出された課題を指す語として定着していったのだった。
例えばこういった具合である。
【ケース1 】本人を指す場合
「ねえ、昨日のガンコロめっちゃ目キマッてたよね」
「いやそれな〜!」
【ケース2】課題そのものを指す場合
「年末年始は2人でガンコロ(冬休みの課題)しようね」
「一緒に頑張ろう…🥲」
少々聞き馴染みのない単語が混ざっていることを除いたら、至極普通の大学生同士の会話である。
ガンコロの講義は不得手な分野であったこともあり、なかなかに苦しめられた。
それでもなんだかんだ2人で力を合わせて乗り越え、無事にテストも終えて胸のつかえがとれた。
………
その数日後のことだった。
2人、学食で昼食を食べ終え、少し時間があったので食堂でいつもの通り駄弁っていた。そんな時、ふと、ガンコロの話題になった。
「ねえ、わたしたちガンコロガンコロよく言ってたけどさ、ガンコロって単語この世にあるのかな?」
「え、ないんじゃね、どうだろ、調べてみるか」
わたしがおもむろにスマホを取り出してガンコロと検索してみる。
ここまで読んでくれたそこの貴方もぜひ、ガンコロの検索結果を予想してみてほしい。
検索結果はこちら。
わたしは呆気に取られた。「え?」
友達に検索結果を見せた。2人目を丸くして「え?いや、ガチ?」
ガチである。ガチガチのガチである。
私たちは日常会話の中で当たり前のように使っていたガンコロは,ガチガチの隠語だったのである。
思い出して欲しい。私たちの会話を。
「ねえ、昨日のガンコロめっちゃ目キマッてたよね」
「年末年始は2人でガンコロ(冬休みの課題)しようね」
やべえのである。
ほのぼのした日常会話の一節なのに、ガンギマリコロポックルなどというよくわからないニックネームを他所様につけたがために相当やべえのである。
一瞬の驚きと興奮の後、私たちは肩を寄せ合ってくっくっくっと笑った。2人共通のあの悪い笑いはいつもよりも長く続いたような気がした。
ガンギマリコロポックルー完ー
【後日談】
ガンコロの言葉の正体がわかってからはその言葉を口に出すのはもちろん憚られた。もちろんやめないけれど、擬態型キチの私たちのガンコロトークは声をひそめて行われるようになった。
また、別の日。
わたしと友人がいつもの如く他愛もないキチトークに花を咲かせながら歩いていると、向こうから見覚えのある顔が来た。ガンコロだ。
友人もわたしも静かにすれ違った。
すれ違ってしばらくしてもさっきまで喋っていた友人が黙っているからわたしは思わず「え?続きは?」と聞いた。
すると、「あ、、ガンコロみたら飛んじゃった」
おい、ガンコロでとぶなwwwwwwwwwwwwww
ーおしまいー
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