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コンドミニアム理事会の議長を解任。その時、目の当たりにしたタイ人のプライドの高さ、怒りの沸点の低さ。 

2ヶ月程前、理事会の議長の解任決議を行なった。
彼は小太りでボンボンのような容貌をしており、年齢は40歳前後。理事会発足の席、彼は自ら手を挙げて議長に就いた。著名大学を出て一流会社で働いているとのことだが、私は議長就任当時から彼のアホさ加減に呆然とすることが度々あった。

例えば2023年5月での理事会。
筋トレのマシンを新たに購入するにあたり、現状のマシン配置を変更する必要がある。私はそのレイアウト図面を描いてプランを詳しく説明した。
最後まで黙って聞いていた彼は、
「マシンを移動したら、マシンの保証が切れるのではないか?マシンの移動をしても保証は継続するとの文言を入れた新たな保証書を業者に発行してもらいたい。」
と、私が想像もしなかった事を言い出した。
例えばメールで業者から言質を取るくらいなら私も納得出来るが、彼は新しい保証書が必要だと言って譲らない。彼の論法でいくと、冷蔵庫を引越しで動かす時も大騒ぎになる。
彼は議長である為、自らの裁量で進行を止めることが出来る為、他の理事も表立って意義を述べず、業者との不毛なやり取りにより1ヶ月以上進行が遅れた。

しかし、彼の想像力はこれだけでは満足しなかった。
次に彼が言い出したのは、
「ジムの床の強度が全て同一なのか、マシンを移動させても問題はないのか、施工業者の責任者名(部長級)の一筆が欲しい」
と言い出した。
「同じコンドのジムやねんから、床の強度は同じに決まってるやろアホか!」
と、私は相方に憤慨して見せたが、時すでに遅し。
理事会の進行は当然のことながらタイ語で行われており、私は議会でのやり取りをリアルタイムでは理解出来ておらず、その場での反論がほぼ不可能。
毎回、理事会終了後の議事録を翻訳し、相方に確認を取りながら次の理事会に向けて反論の準備をしていたので、私の対応は一歩も二歩も遅れざるを得なかった。

そんな事が重なり、ジムのマシン購入と全体のデザイン変更は停滞して3ヶ月以上遅れることとなった。
ジムの案件だけではなく、理事会において彼はしばしば重箱の隅を突く発言を繰り返しており、最初は彼を理解しようと努めていた私も匙を投げた。
「近い将来、あのアホを解任するよ」
と相方に宣言したのは、ジムのマシン設置が完了する2ヶ月前の10月だった。

年が明けて2024年2月、小さな事件が起きた。
件の議長が突然、
「理事会で論議したい案件がある場合は、私に二週間前までに報告すべし。」
「次の理事会は2日後に開かれる。」
両者共に7人の理事が初めて聞かされる内容で、彼が誰の承認も得る事なく独断で言い出したものだ。
流石に他の理事から不快感を伴う発言が出てきたので、機が熟したと判断した私は、理事一人一人に議長解任の根回しを始めた。
当然のことながら、全理事が議長の運営、進行に不信感、不快感を持っており、難なく根回しは終えた。
ただ一つ、少し驚いたのは理事全員が口を揃えて
「根回しに同意したことは議長に秘密にして欲しい。理事会当日まで知らなかったことにして欲しい。」
と条件をつけたことだった。
これは必要以上の気遣いではないか、と私は判然としない思いを持ちながらも、理事会当日を迎えた。

全ての審議を終えて、議長が
「それでは終了します」
というタイミングで私は挙手して、
「議長解任の採決を求めます。」
と高らかに宣言した。
彼は虚を突かれたようにポカンとして、事務方に
「これは有効なのか?」
と確かめてから、
「私の何が悪いのか?」
とボソボソと呻いた。
既に事務方、理事全員に根回しを終えており、彼にその理由を説明する必要はなく、直ぐに採決を取っても良かったが、
「彼も自分の何が悪く至らなかったのかを思い知るべきだろう。」
と考えて、予め準備していた彼がダメな理由をまとめた文書を彼に手渡した。
時間をかけて読み終えた彼が取った反応は全く予想しなかったものだった。

「この文書は名誉毀損罪に当たる。司法に訴えてやる!」
と言い出したのだ。
私は突然の彼のこの幼稚な反応に驚き、笑い飛ばした。
念の為に言っておくと、私が記述した内容は客観的な事実のみで構成されており、事務方、理事にも配布した公的な書類。そこに誹謗中傷するニュアンスは一切含まれていない。
敢えて言えば、私が記した
「リーダーシップがない。」
との記載が気に食わなかったか?
または、前回の理事会で20分間にわたり、他の理事たちがしている議論そっちのけでTikTokに没頭していたのを暴露されたのが恥ずかしく、腹に据えかねたのか?

いずれにしろ彼の幼稚で理不尽な怒りはなかなか収まらず、他の理事が入れ替わり立ち替わり30分以上に亘り彼を真剣に宥めているのを、私は可笑しくも、憮然と眺めやるしかなかった。

今回の出来事により、私が以前から感じていた、
「店の店員、飲み屋のお姉ちゃんでさえ、タイ人は根拠が無いのにプライドが高い。」
「そのプライドを毀損されたと感じるタイ人の怒りの沸点が低い。」
との一般的傾向が、低学歴、若齢のタイ人だけのものではなく、高学歴、壮年であってさえも当てはまる事を目の当たりにしたのは少なからぬ驚きであり、苦い思いをも残すこととなった。

ただそれ以降の理事会の運営は極めて円滑に運び、議論しやすい環境になったことは言うまでもない。(解任された議長が理事会に出席しなくなった事も大きな理由だろう。)


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