見出し画像

すべてを諦める朝

午前八時、わたしはまだ布団のなか。
二週間前の週末に映画を観に行った。気になるものはあったが、その日に見る予定ではなかった。「グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜」が、ふらりと吸い寄せられるように近づいたシアターで上映開始五分前だった。チケットを買っていた。安い日でもなんでもない。もうすでに諸々で外出を控えている世情だったのか、たんに平日の昼間からの上映だったからか人はまばらだった。わたしを入れても五、六人。席はふんだんに空いていて、通路の真上、中央を買った。同じ列にも前にも座っている人がいないから、まるでシアターを独り占めしているみたいだった。時折うしろのほうから笑い声が聞こえてきたけれど、それも含めて映画になっているようで、ああここは笑うところなんだ、となんとなく遠くで考えていた。
エンドロールが流れても誰も立ち上がらなかった。スクリーンが真っ黒になって照明が点く。わたしは立ち上がり外に出た。誰よりも早い退室だった。すてきな時間だったのでもう一本観ようという気になったが、本来の目的を思い出して歩き去る。
そして先週末の、外出自粛である。土日が休みというわけではないからさして関係ないのだけれど、近所のカフェでランチをしただけだった。どの席にも誰かが座っていて、楽しそうだ。そうしてしばらく仕事が暇になることをメールで知る。タルトが運ばれてくるのを待っている間に、だ。思わず笑っちゃうくらいおいしいのだけれど、「どうなるんだろう」の漠然とした不安感が燻っている。どうなるんだろう。
今週末は自粛要請はなかったものの、映画に行く気にはなれなかった。営業しているかどうかも調べていない。
そして外は吹雪。三十センチ積もったらしい。昨日の夜からずっと吹雪いていて、まだ雪も風もやんでいない。窓ガラスははりついた雪で真っ白になってしまって外の様子がほとんどわからないでいる。自粛せざるを得ない状況だ。外に出たら死ぬ。除雪車もまだ走らない。きっと誰も外には出ていないだろう。道路はことごとく通行止めだ。
まだこの地に春はこない。

サポートいただきましたら、ちょっと良いものを食べたり本を買ったりします。