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春へ・小景

ほとけのざ。仏の座。
ほとけのざの明るい紫色がポツポツ目に映るようになってきた。

幼稚園まで、徒歩で20分ほど。
末っ子とともに歩く道。
少し前には椿の落ちたのが、お土産だった。白、薄いピンク、赤。濃い緑の硬い葉。
椿は花ごと落ちるので、すぐに3歳の手のひらいっぱいになる。

昨日からは、ほとけのざ。
幼稚園に子どもが通い出して、初めてその存在を知った。
それまでは「雑草」が空き地に生えているな、くらいで実際には視界に入っていなかった。
ほとけのざ、という名前。小さな花の蜜はほんのり甘い。似ているけど違うのは踊り子草。みな、子どもたちから教わった。
いったん教わると、あらゆる場所で目に留まるようになる。車に乗っていても、あ、ここにも。
私が知らないところで、ずっとこんな風に咲いていたのだな。私が知らなかっただけで。

門までたどり着くと、検温と消毒が息子の元担任だった。娘の手に握られたほとけのざを見て「〇〇とも蜜吸ったなぁ」と笑顔。
正門の白木蓮のつぼみが大きくなっている。

少しずつ、寒さと暖かさが交互に繰り返されて、北風はまだまだ強く冷たいけれど春の気配。
日の温かさに身体がゆるむ。芽吹きを感じると自分の中の自然もよろこび始める。
春だ!春だ!
と同時に、卒業と巣立ちの予感。

関東平野は晴天、まっさらな青空に別れの名残り惜しさがにじんでくる。
繰り返す、けれど二度とはない、春。

春がきたら 
耳をあててごらん
大きなけやきの樹の幹に

きこえるだろう 
その暗い幹のなかを
樹液のかけのぼる音が

千の若芽 若葉が 
水をすいあげる音が

だから 木の芽どきになると 
井戸の水が ひくくなる

三月の空にもえる
千の若葉が
千のばけつで
汲みあげるから

春が来たら 
耳をあててごらん
大きなけやきの樹の幹に

『春がきたら』 大島博光 詩 丸山亜希 曲


年長さんが卒園前に歌う歌。
凛とした顔立ちで、前だけを向いて、気持ちよさそうに歌う彼らはほんとうに素敵なのだ。

飛行機雲が2本、青空に線を引いていった。
来た道をひとり、背筋を伸ばし歩いて帰る。
道路脇には、ほとけのざの群生。

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