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美しいものに人は集まる

今日の記事は、東海新報2024年5月26日付「美しく咲かせるために 盛町出身の鈴木さん招き 椿館でバラ栽培講習会」です。大船渡市にある「世界の椿館・碁石」は、原種と園芸種合わせて約600種の世界の椿を栽培・展示している施設です。そこで行われたバラ栽培研究家の鈴木満男さんの講習会が開かれました。

いつの時代もガーデニングは人気の趣味ですが、ガーデニングと世界の椿館・碁石とを合わせた地域活性化の可能性はあるのでしょうか。
(東海新報 https://tohkaishimpo.com/



大盛況だったバラ栽培講習会

記事は、世界の椿館・碁石で大船渡市出身のバラ栽培研究家の鈴木満男さんを講師に「バラのガーデニング講習会」が開催されたことを伝えています。

講習会は、バラやガーデニングの魅力発信、栽培技術の普及を狙いに企画し、新型コロナウイルスの流行後は初開催。鈴木さんは千葉県の京成バラ園でヘッドガーデナーなどとしてバラ園の管理、生産農家への指導などに携わり、バラ栽培の第一人者として知られる。
この日は鈴木さんからバラ栽培を学ぼうと、定員を超える約70人が参加。鈴木さんは薔薇を育てるときの品種や苗選びのポイント、せん定、植え方、病害虫対策などを解説した。

東海新報 2024年5月26日付

そして、鈴木さんからの園芸本に書いていることが全てでないので工夫が大事であるとのアドバイス、屋外での植え方実演、質疑応答といった講習会の内容が綴られています。

記事の最後には、

講習を終えた鈴木さんは「東北はヨーロッパと気候が近く、花茎が低くても立派な花を咲かせることができる。大船渡も栽培に適した気候。アメリカ産の「ノックアウト」は病気に強く、育てやすい品種なので、興味があれば挑戦してみてほしい」と話していた。

東海新報 2024年5月26日付

とバラ栽培が盛んなヨーロッパとの比較を紹介していました。

多くの人が参加した講習会ですが、花き栽培振興につながっているのでしょうか。また、施設を利用した振興策は考えられるでしょうか。


世界の椿館・碁石を多面的に見る

「世界の」を名乗るだけの質と量を誇る

世界の椿館・碁石は、大船渡市内の花き栽培の振興を目的に1997年に開設されました。椿は原種10種、園芸種の和種約400種、洋種約200種と600種以上の椿が屋内と屋外に展示されています。開花時期は10月上旬から4月下旬と限られますが、花にちなんだイベントを開催するほか、園芸売店も併設しています。

世界の椿館・碁石の設置目的は、花きとのふれあいによる市民交流と花きづくりの知識の普及によって農業を振興するというものです。

世界の椿館・碁石(世界の椿館・碁石ホームページから)

農業振興のためとは言うものの

農業振興という面を見るため、大船渡市における花き農家数と面積、販売農家に占める花き農家の割合を大船渡市統計書からまとめると次のとおりになります。

(前:花き農家数 中:面積 後:花き栽培農家の割合)
2000年 14戸 2ha 2.23%
2005年 4戸 非公表 0.85%
2010年 11戸 非公表 2.98%
2015年 8戸 1.29ha 3.21%
2020年 7戸 1ha 4.40%

販売農家も面積も減少していますが、販売農家に占める花き農家の割合は上昇しています。これは他の作物に比べて減少の度合いが小さいというだけで減少傾向にあることには違いはありません。

世界の椿館・碁石が大きな目的ではる「農業振興」に寄与しているかといえば、シンボルとしての寄与はあるかもしれませんが、設置から四半世紀余りを経た現在では実質的にはないというのが実態でしょう。

加えて、大船渡市においても、政策として「にぎわいにあふれる商業・観光の推進−観光宣伝の充実」に位置付けており、小さな目的の一つである「花きとのふれあいによる市民交流」に力を入れているものと思います。

入館者数はどう推移しているのか?

それでは世界の椿館・碁石の入館者数の推移を、大船渡市ホームページにある事務事業評価の評価シート「0529) 総合交流ターミナル維持管理事業」からまとめてみました。
(大船渡市 https://www.city.ofunato.iwate.jp/soshiki/kikaku/418.html

入館者数(人)
2005年 25,941人
2006年 30,092人
2007年 25,181人
2008年 27,483人
2009年 25,109人
2010年 23,498人
2011年 10,853人
2012年 20,976人
2013年 19,590人
2014年 24,888人
2015年 23,694人
2016年 21,533人
2017年 18,813人
2018年 22,291人
2019年 18,103人
2020年 9,315人
2021年 10,955人
2022年 15,416人

世界の椿館・碁石 入館者数推移(大船渡市資料から)

入館者数の推移をみますと、東日本大震災のあった2011年と、新型コロナウイルス感染症が広がった2020年と2021年は大きく落ち込んでいますが、全体的な推移は減少傾向にあります。

観光やレジャーが多様化する中にあって、「椿の花を見せる」だけの施設では訴求力が小さく、観光の着地点にならなくなっているものと思われます。

栽培講習会にこそ活路があるのでは?

そこでもう一つの小さな目的である「花きづくりの知識の普及」はなされているのかということが問われますが、今回のバラ栽培講習会がその答えということでしょう。

講師を務めた鈴木満男さんは、NHKの「趣味の園芸」でもバラの専門家として講座を持つほどの実力者です。「温暖化に負けない!バラ栽培のすべて」などバラの栽培に関する書籍を数多く出版しています。

記事にあるとおり、定員50人のところ70人が参加する大盛況な講座でしたが、募集は、大船渡市の広報や世界の椿館・碁石のホームページでは行われておらず、おそらく東海新報2024年5月17日付に「25日にバラ栽培講習会 世界の椿館・碁石 参加者を募集中」のみだったのではないかと思います(見過ごしたかもしれませんが)。

これは鈴木さんがすごいということもあるでしょうが、バラを栽培しているガーデナーがたくさんいること、そして、花きづくりの知識を得たいという人がたくさんいることが周知方法が限定されても定員オーバーとなって現れたものと思います。

こういったガーデナー視点で世界の椿館・碁石を見てみると、二つの資源が眠っているのだと思います。

一つは椿の栽培技術です。椿館は巨大なガラス温室ですが、基本的に展示空間は一つです。世界の椿は、産地も性質も異なりそれぞれに適した栽培技術が必要となりますが、それを一つのハウス内で開花させられるのは神技ではないかと内心思っています。こうした技術やノウハウは講座なり書籍なりで伝授できるものです。

もう一つは約600種の園芸種です。特に洋種約200種については植物検疫の面からも入手が難しくなっているのではないかと思います。また、園芸種には種苗法による品種登録と育成者権が設定されており、勝手に育成することはできませんが、25〜30年経過したものは育成者権が終了します。椿館の中にはこうした権利が終わったものもあるものと思います。それを挿し木なりで増やすことで苗木販売が可能になると思います。

これらの資源を有効に生かすことで、世界の椿館・碁石を「椿を見せる施設」から「椿栽培を広げる施設」に転換することが可能だと思います。こうしたことは花き栽培農業の振興という面でも有用ではないかと思います。

いろいろなハードルはあるかと思いますが、自らが保有する資産を有効に活かしてこそ、経営がうまくいくのではないでしょうか。これらをコア・コンピタンスといってもいいし、ケイパビリティといってもいいですが、可能性は高いと思います。


最後に

いかがだったでしょうか。
世界の椿館・碁石のような植物園は全国にありますが、それぞれの設置目的に従って運営されています。しかし、それらの設置目的は現在でも通用するのでしょうか。設置された当初とは大きく前提条件が変わっていることもままあることと思います。蓄積された知識やノウハウは多くの国民の共有財産です。その有効活用を考えてみてはどうかと思います。

今後も気になった記事をちょこっと深掘りしてみたいと思います。

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