見出し画像

サケ、見かけなくなったよね

ちょこっと深掘りです。

今回は、東海新報2024年3月29日付の記事「厳しさ増すサケ稚魚育成」を取り上げます。サケは秋の味覚として私たちの食卓を彩ってきましたが、不漁が続き、希少な魚種となってしまいました。
(東海新報 https://tohkaishimpo.com/

なお、写真はサケではありません(宮古水産科学館の水槽です)。あくまでもイメージです。


厳しさ増すサケ稚魚育成

記事は、岩手県農林水産部水産振興課がまとめた令和5年度最終版の秋サケ漁獲速報に基づき、次のように報じています。

県内沿岸における令和5年度の秋サケ漁獲数は前年の26%にとどまり、過去最低に終わった。大船渡だけをみると前年の17%で、さらに深刻な状況だ。

東海新報 2024年3月29日付

続いて、岩手県全体の沿岸・河川累計捕獲数、沿岸の累計漁獲量、大船渡魚市場への累計水揚げ数、気仙の河川捕獲数(海産を除く)が具体的な数字で示され、いずれも前年を大きく下回ったことを伝えています。
さらに

採卵数は吉浜川が3万9000粒で、前年度比85%減。盛川は42万2000粒で、同61%減。気仙川は371万7000粒で、同60%減。気仙地区全体では、417万8000粒で、各漁協での採卵計画数合計174万粒(※)の24%にとどまった。

東海新報 2024年3月29日付

と漁獲だけでなく、それにともな採卵も大きく減少していることを伝えています。 ・・・(※)おそらく1740万粒と思われます。

記事では、こうした採卵数の減少に対する対策として、

こうした中、北海道で採卵した822万2000粒を4回に分け、気仙の拠点ふ化場となっている広田湾漁協(陸前高田市)の施設で育成。さらに、山形県で採卵した35万5000粒も同施設で育てた。これにより種卵は1275万5000粒となり、計画の73%分を確保した。

東海新報 2024年3月29日付

と報じられた一方で、盛川漁協の組合長の話として、ふ化放流事業が立ち行かなくなっている現状や今後の大幅な回復の見込みがないこと、さらに新たに始めたサーモン育成はまだ道半ばであり、漁協自体がつぶれてしまうのではないかという危機感を伝えています。

サケはやってきているのか?

国立研究開発法人 水産研究・教育機構では、サケの道県別来遊数(捕獲数と漁獲数の合計)や採卵数等を毎年発表しています。それらの情報は、同機構のホームページの水産資源研究所の中の「さけますに関する情報」として、2001年からのデータが掲載されています。
(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 https://www.fra.go.jp/

経営者の視点で見ると、全国どこもサケが不漁なのか、サケ以外の魚種の水揚げはどうなっているのか、水産資源確保のための新たな取り組みはないのかというあたりがポイントになろうかと思います。

サケの来遊数はどうなっているの

まず、2001年からのサケ道県別来遊数の推移の中で、最大尾数を記録した2004年と最新の2023年を比較すると、

来遊数【前:2004年 後:2023年 ( )内はシェア率】
全 国 76,720,843尾 22,850,145尾
北海道 60,570,096尾(78.95%) 22,564,462尾(98.75%)
岩手県 10,388,177尾(13.54%) 43,205尾(0.19%)
山形県 349,351尾(0.46%) 61,108尾(0.27%) 

増減数・率
全 国 △53,870,698尾 △70.22%
北海道 △38,005,634尾 △62.75%
岩手県 △10,344,972尾 △99.58%
山形県 △288,243尾 △82.51%

といずれもこの20年で大きく減少しています。

また、2001年時点では太平洋側と日本海側の比率は7:3でしたが、2010年から5:5になり、徐々に日本海側にシフトし、2023年では2:8と完全に逆転しました。

サケの採卵数はどうなっているの

サケ道県別来遊数のデータシートには採卵数も掲載されています。

採卵数【前:2005年 後:2023年 ( )内はシェア率】
全 国 2,231,852千粒 1,319,329千粒
北海道 1,204,659千粒(53.98%) 1,222,825千粒(92.69%)
岩手県 521,955千粒(23.39%) 15,500千粒(1.17%)
山形県 40,166千粒(1.80%) 30,703千粒(2.23%)

増減数・率
全 国 △912,523千粒 △40.89%
北海道 18,166千粒 1.51%
岩手県 △506,455千粒 △97.03%
山形県 △9,463千粒 △23.56%

こちらは、北海道がほぼ横ばい、日本海側も減少率が小さくなっている一方で、太平洋側は大きく減少しています。

サケはどんな状態といえるのか

これらのことから次のことが分かります。

・サケの来遊は北海道辺りまでで、それ以上の南下は著しく減少している
・北海道や日本海側の採卵数は一定数確保されている
・それは北海道のシェア率が年々高まり、現在は北海道一強である

岩手県に限ってみると、来遊数、採卵数ともにほぼ壊滅状態であり、こうした傾向は2014年あたりから出始めて、2019年は顕著になっています。また、北海道や山形県の採卵数が一定数以上あることと、気仙地区において同地から移入したことが整合していることが分かります。

サケ以外の魚は獲れているの?

確かにサケの来遊数(捕獲数と漁獲数の合計)は大きく減少し、漁場も北海道に限られ、本州にはほぼ来遊していない状況がわかりました。

ここで疑問が浮かびます。サケ以外の魚も同様に減少しているのか、それとも他の魚種は獲れているのかということです。来遊数が99.58%(2001年と2023年比較)減少の岩手県の大船渡市魚市場の水揚データを取り上げます。

サケに限らず減っている

大船渡市魚市場の2001年から2022年までの魚種別水揚構成推移の中で、さけ・ますの最大水揚量になった2008年と最新の2022年を比較すると、

水揚量(t)【前:2008年 後:2022年 ( )内はシェア率】
総数量   67,853t 28,201t 
さんま   1位:30,435t(44.85%) 3位:3,054t(10.83%)
さば    2位:10,819t(15.94%) 2位:6,379t(22.62%)
いさだ   3位:8,454t(12.59%) 4位:2,903t(10.29%)
さけ・ます 4位:5,568t(8.21%) 8位:33t(0.12%)
いわし   5位:268t(0.39%) 1位:9,344t(33.13%)

増減数・率
総数量   △39,652t △58.44%
さんま   △27,381t △90.00%
さば    △4,440t △41.04%
いさだ   △5,551t △65.66%
さけ・ます △5,535t △99.41%
いわし   9,076t 3386.57%

とほとんどの魚種が減少しています。その中でいわしだけが増加して水揚量の1/3を占めています。

国でも不漁が問題に

水産庁で2021年6月に公表した「不漁問題に関する検討会とりまとめについて(https://www.jfa.maff.go.jp/j/study/furyou_kenntokai.html)によると、サンマ、スルメイカ、サケの漁獲量が急速な減少について、その要因と影響をまとめています。

この3魚種の減少は2014年頃から始まり、全漁獲量が約13%の減に対して3魚種は約74%の減と、減少の大きさが分かります。

サケの不漁の要因として次の仮説が提示されています。

  • サケ稚魚に適した水温帯が継続する期間が短くなり、形成される時期が変わったこと

  • 黒潮系の暖水塊や津軽海峡に抜ける対馬暖流の影響が強くなり、サケ稚魚のオホーツク海への回遊が阻害されていること

  • 親潮が弱くなり、栄養塩や動物プランクトンの沿岸域への供給量が減少し、季節変化に伴うサケ稚魚の餌となる生物が減少したこと

  • 水温の上昇により、サバ等のサケ稚魚を捕食する魚と分布域が重なり、生存率が悪化していること

これらのことは地球規模での環境の変化が影響していることを示唆しており、すぐに回復するようなことではないと思われます。海洋環境の変化に応じた対策が求められることになります。

長期的に漁業を持続するための対策は?

サケだけでなく、それ以外の魚種の水揚も減少傾向にある中で、水産資源確保のためにどんな取組みがあるのでしょうか。

前出の「不漁問題に関する検討会とりまとめについて」では、取組の柱として次の4つを掲げています。

  1. 不漁の要因となる環境変化等の状況分析により、漁業者が直面するリスクを着実に把握する

  2. 単一の資源のみに頼るのではなく、マルチな漁業の操業形態や事業構造について検討する

  3. ICTの活用や省エネ化による効率的な操業を推進することで燃油使用量の削減に取り組むとともに、電化、水素化等の研究・社会実装に取り組む

  4. 現在の施策や制度について必要な見直しを行い、漁業が持続的に生産できるよう施策の展開方向を構築する

この中で、サケに関する具体的な取り組みとして「ふ化放流と漁業構造の合理化」が掲げられています。

  • サケの回帰率の良い取組事例をベストプラクティスとして横展開する

  • 既存ふ化場を養殖用サーモンの種苗生産に活用する

  • ブリやサバ等の漁獲量が増加している魚種の有効活用を進める

  • 地域の実情に応じた協業化・共同経営化、漁場の再配置、ICT活用などを進める

これをみると、これまでのふ化放流・回遊サケの漁獲といったビジネスモデルが成り立たなくなったということで、他魚種への転換や養殖事業の拡大が大きな流れになっていくものと思われます。


いかがだったでしょうか。
水産資源としてのサケはとても厳しい状況に置かれていることは、各種統計データをながめてみても記事が示しているとおりでした。加えて、中長期的にみても回復する可能性が低いことも分かりました。

今回は、地球規模での長期的な変動がそれぞれの地域に大きなインパクトを与えることを示しています。つまり、自社を取り巻く長期トレンドを把握しつつ、その中で自社を位置づけ、何らかのビッグピボットを考えておく必要があるだろうと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?