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初めてのZINE制作を振り返る

2023年11月11日に東京流通センターで行われた文学フリマ東京37にて、初めて制作したZINE『ストレンジ シンクロニシティ』を初頒布した。文フリだけでなく、翌日に出たデザインフェスタ58、それ以外でも何かと最近こんなものを作りましたと話をしたときに買っていただけることがあって、本当に制作してみてよかったなぁと思っている。それだけでなく、音楽と記憶の奇妙なつながりについてを話すと、「ああ、わかるわかる」「あるある!」と話をしてくださる方がとても多く、それだけでもとてもうれしい。今後も何かしらを作るということを続けていくためにも、いったんここで今回制作した『ストレンジ シンクロニシティ』について、振り返りをしてみようと思う。

『ストレンジ シンクロニシティ』の概要

ある音楽が、その曲自体が持つ内容やテーマと関係なく、自分の個人的な記憶と結びついてしまっているもの(ex:あの曲を聴くとあの瞬間にあったことを思い出す、あの場所に行くとあの曲が聴きたくなるetc…)を引き出し、それがなぜつながってしまったのかを語った。
A5版16ページ、全6篇、全て自身で執筆・撮影・編集、印刷所依頼、頒布価格500円。

良かった点

テーマ設定(独自性を出せた)

音楽の内容と関係ない記憶がその音楽に固着してしまった瞬間を語ることがイコール自分史を語ることになるという発想は、自らZINEを作ってみようと思うきっかけにもなった。きっと誰にでもあるけど、あんまり人に話す機会はないよな、他人のそれを聞いてみたいな、という思いもあったし、自らのそれを語ってみたいという気持ちもあった。というか、自らで語るなら、それはそれなりの数を出すことができるという頭があった。このテーマ設定自体が、自らに何かを作る一歩を踏みださせたという大きな意味がある。
だがそれ以上に、想定していたよりもこのテーマを面白がってくださる方が多かったのは、とても良かったと思っている。本当に誰にでも起こりうることで、あえて人に語る機会が少ないけど、聞くと話したくなること。こういうスポットに一石を投じられたのは良かった。

写真(ほめてもらう→撮る意欲向上)

意外とここをほめていただくことがすごく多い印象がある。その実、題材に近しい写真を過去に撮っていたものから引っ張り出してきたにすぎないのだが、昔からそれなりの画質のカメラを提供してくれていたiPhone様様というほかない。とはいいつつも、ここをほめていただけたのはそれはそれで予想外にうれしかった。それぞれの題材に合う内容の写真をきちんと持ってこれた証拠でもあるのかなと思うし、それっぽい写真を撮ろうとしてはだいたい自分でも(うーん…)と首をかしげることが多かったので、ちゃんとピックアップすればそれなりのもの撮れてるんじゃん自分、というちょっとした自信にもつながった。若干その先にカメラ沼が見えているのだが、それはいったん見なかったことにする。(一応、古い一眼はあるので)

編集(InDesignを一応使えるようになった)

一年間無駄にするだけになりそうだったAdobeCCを無駄にせずに済んだのが編集作業だ。まったくどう使うのかわからなかったInDesignだったが、(これは各所で何度も言っていて、これからも何度も言うのだが)タイミングよく9月末に小鳥書房さんでデザイナー長通さんによる文字組講座があり、それを受講できたおかげでなんとかそれなりにすることができた。ルール人間なので何もないところに何かを配置しなさいと言われると困惑するのだが、基本ルールを教えてもらったことで配置する基準ができたし、こうだったら少し外してもいいのかも、とかも考えやすくなった。『谷保ZiNE』を一緒に発案、制作したことをいいことに長通さんへあれこれ聞きまくって助けていただきまくり、小鳥書房の落合さんにもアドバイスを何度ももらって、本当にプロの力を借りまくって出来た。ここは本当に運がよかったとしか言いようがない。お二人には頭が上がらない。
実際の作り自体はシンプルなものだが、最初二段組でなんだかなぁと思っていたところに、自分の好きな音楽雑誌っぽく三段組にしてみれば?というアドバイスをくれた大福さんにも感謝だった。この変化を加えたことで、急にそれっぽさが増したのだ。3人に頭が上がらなくなったので、私は谷保で頭をあげて歩くことができない。

入稿(印刷所依頼)

ZINE制作でいきなり印刷所に依頼するのはどうなんだろう、とは思ったのだが、むしろちゃんと製本してもらったものが見たい!というその一点で印刷所へ依頼した。お願いしたのはイシダ印刷さん(https://www.lowcost-print.com/)で、これも長通さんから教えていただいたのだが、とてもお安く、そして文句なしの状態で印刷していただいた。何より印刷所入稿に対する抵抗感は下がったと思う。届く直前になって、急にデータの順番とかおかしなことになってたらどうしよう…とか不安は襲ってきた。だが、そういう不安は抱くものだということを知っているかいないかが、今後印刷所に依頼するハードルを下げる気がする。
その後、いくつかの印刷所の入稿方法を見てみて、お願いする先によってやり方違うなぁとは思ったし、同じイシダ印刷さんにお願いするとしても印刷したいものが変わればまた悩むことにはなる。だが、一度やってみた、そしてそれで問題ないものが上がってきたという経験自体がとても大きい。

次回作への意欲(次につながるテーマ)

もともとこの作品を作るにあたって、できるならいろんな人からこのテーマ設定で文章を書いてもらって集めたいと思っていた。ただ、さすがに自ら編集することを全くしたことのない人間がいきなり人から文章をもらうハードルは高かったので、全編自分で執筆した。
だが、いろんな人からこのテーマで話を集めること自体は諦めていない。というかむしろそれを集めた方が絶対に面白いものができるという自信がある。また、それをやるにあたっても面白い案ももらった。対話する形でお話を聞いて、それを自分で書き起こすという方法。自分の作業量が圧倒的に増えるので大変ではあるが、『谷保ZiNE』で座談会の編集をした際も結構楽しい作業だったので、これはこれで面白いんじゃないかなと今は軽い気持ちで考えている。
いずれにしても、ちょっとずつ集めて少し長い目でいろんな人のの話を集めた作品を作ってみたい気持ちがある。

イマイチだった点

ボリューム・価格設定(適切な価値提供)

まず、端的にボリューム不足だった。完成させることに重きを置いていたこともあって、「ひとまずこのくらいあればいいか」というラインを低めに見積もってしまった。16ページとは書いたが、実際の内容自体は6篇2ページずつで12ページ。印刷所に依頼して制作しているとはいえ、これで500円は少し強気設定がすぎたな…というのが正直なところだ。一応理由があって、昔自主制作でCDを作ったときに収支大赤字の300円で売ったことがあり、周囲からも500円でよかったじゃんと言われたのが結構頭に残っていたらしい。出来上がってくるまで見た目のボリューム感もあまりつかめていなかったというのも理由の一つにある。かといって、この内容を増やし足してもなぁという感じがある。同じ人間の、同じテーマがあんまり続くのは面白くないのかもしれないとも思う。次に作る際はその辺のテーマとボリューム、価格設定のバランスを見ていく必要がありそうだ。

タイトル・表紙(見た目のわかりやすさ)

テーマ設定そのものは面白いものになっているという自負はあるのだが、それが最初に見てもらうタイトルや表紙から全く伝わらないものだったのも問題だった。音楽にも記憶にも関係の薄い、わかりにくいタイトルをつけてしまったし、表紙もシンプルにしたい気持ちが出すぎて情報が全くない表紙となってしまった。前書きを読んでもらったり、自ら口頭で説明する必要があり、それをする前の段階の人の目になかなか留めてもらいにくかったかもしれない。
また、文フリにおいては結構系統がばらばらの3冊を置いていて、それぞれの説明に割けるスペースも限られていた。その中で最も主張が弱い作品でもあったので、その辺もう少し工夫が必要だった。
例えば、「帯をつけてみる」というのが、今からでもこの作品に対して出来る解決策として考えられる。次にどこかで頒布することがあった際は試してみたいと思っている。

題材と並び順(とっつきやすさ)

題材とさせてもらったアーティストのチョイスも少し(個人的には本当に少しだと思っているのだが…)マニアックなものが多かったのかもしれない。一番の有名どころでおそらくRADWIMPSだろうか。m-floも市民権を得ているイメージでいたが、それこそ題材に出した『come again』によるものだとすればもう何年前の話だというところだ。書きたいものを書くのが大事ではあると思っているし、あまり知られていないけどいいと思っているアーティストを聴くきっかけになってほしいなという気持ちはあったのだが、それにしてもいきなり最初から飛ばしすぎた感はある。一つから話も暗いし。ボリューム増と合わせて、もう少しとっつきやすさがあった方がよかったなぁという印象がある。

まとめ

書き並べてみてわかることがある。
良かった点は、まとめると要するに「作った過程すべてが素晴らしい『経験』そのものだった」ということ。
イマイチだった点は、「人に見てもらうものを作るにあたって、持てていなかった(あるいは固定化してしまっていた)視点があった」ということ。
あくまで個人制作物であり、利益を求めているものではないので、売れることに執着しすぎない、作りたいものを作るようにしたいとは思っている。だが、せっかく人に見てもらうために作っているのであれば、見てもらうための努力もしてみた方が面白い。作りたいものを作ること。見てもらえるように作ること。どちらもバランスよく、楽しみながら次の何かを作ってみたいと思っている。

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