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LIV Golfとは?今後世界のプロゴルフツアーはどうなるのかーー。【解説】

グレッグ・ノーマンがCEOを務めるLIV Golfというゴルフの新リーグが立ち上がり、世間を賑わせている。
とは言っても、PGA TOURや、海外のゴルフ事情をフォローしている人でなければ「え、そんな話があるの?」というくらいの印象かもしれない。

「54ホール、48名、個人戦とチーム戦、ショットガンスタート、予選落ちなしで年間8試合。各試合の賞金総額2500万ドル(約30億円)」
というのが基本コンセプト。選手たちにとってみれば破格の試合だ。

この新リーグのことをPGA TOURは「Rival League(ライバル)」と呼ぶようになり警戒した。それもそのはず、ツアーのトップ選手がこぞってLIV Golfの試合に出場するとなれば、同週に開催されるPGA TOURの試合は選手層が薄くなり、興行として成立しなくなる可能性があるからだ。

ただ、この新リーグ構想が出始めたのは何年も前の話で、今年の1月末頃に新リーグ発足の発表があった頃も「どうせ始まらないんでしょ」という空気感
だった。

否。つい1ヶ月前くらいまでは現実味が帯びていなかった。
それが5月に入ってから話題が急に加速。5月31日には、ダスティン・ジョンソン、セルジオ・ガルシアらがLIV Golfの初戦「LIV Golf Invitational London」に参戦すると発表。ケビン・ナや、リー・ウエストウッド、ルイ・ウーストヘイゼンらのPGA TOUR、DP World Tourを主戦場とするトップ選手たちも参戦を表明した。

6月2日から行われたメモリアルトーナメントを前に、PGA TOURのコミッショナー、ジェイ・モナハンは、「新ツアーに参戦するものは、PGA TOURの出場権を剥奪、厳罰とする可能性がある」と再度、選手たちに通告するに至った。

しかし6月4日(土)、PGA TOUR5勝のベテラン、ケビン・ナが「PGA TOURを辞める」と発表。すると、ナに続くようにダスティン・ジョンソンも「PGA TOURメンバーを辞める」と発表。PGA TOURとLIV Golfを取り巻く状況は未曾有の事態へと発展している。

ここまでがこれまでのざっくりとした展開だ。ここからは、LIV Golfについてもう少し詳しく解説してみる。

1. LIV Golfとは何か?フォーマットは?

LIV Golfとは、LIV Golf Investmentsが主催する新しいゴルフリーグ。
元世界No.1プレーヤーでオーストラリア人のグレッグ・ノーマンがCEOを務めている。サウジアラビアの政府系ファンド(Public Investment Fund)が出資し、2021年11月に発足した。

「これまでにない、新しいゴルフの楽しみ方をファンに提供する」として、
・12チームによるチーム戦(4名1チーム)
・48名による個人戦(同時開催)
・54ホール競技
・年間8イベント(レギュラーシーズン7試合、チームチャンピオンシップ1試合)
・予選落ちなし
・ショットガンスタート(12組が同時スタート)

というフォーマットで開催される。

個人戦は通常のトーナメントと同じように54ホールのストロークプレーで競われる。各大会の上位者にはポイントが与えられ、レギュラーシーズン後には年間王者が決定。年間王者には3000万ドル(約40億円)が支払われる。

LIV Golfのフォーマット

チーム戦は、それぞれの試合で4名1チームが結成される。
初日と2日目は4名中2名のスコアが採用され、3日目は3名のスコアが採用される。
(6月9日現在、公式websiteで誤表記あり。初日と2日目、3日目と最終日という表記になっている)

レギュラーシーズン7戦を終えた後、8戦目は「Team Championship」として、チーム戦のみが行われる。チーム戦のマッチプレーが4日間行われ、年間チームチャンピオンが決まる。年間チャンピオンチームには5000万ドル(約70億円)が支払われ、4名の選手が25%ずつ受け取る。

Team Championship

チームとは?

初戦を先駆け、12チームが結成された。

LIV Golf Teams

それぞれのチームにLIV Golfが任命したチームリーダーが就任し、チームリーダーがチームメンバーをドラフトしていく。
つまり、毎回同じチームメンバーとは限らず、チームリーダー以外は別のチームを転々としていく可能性もある。
チームキャプテンは、下記の通り。選手のフルリストはこちら

4 Aces GC-Dustin Johnson

HY Flyers GC-Phil Mickelson

Punch GC-Wade Ormsby

Cleeks GC-Martin Kaymer

Iron Heads GC-Kevin Na

Smash GC-Sihwan Kim

Crushers GC-Peter Uihlein

Majesticks GC-Ian Poulter

Stinger GC-Louis Oosthuizen

Fireballs GC-Sergio Garcia

Niblicks GC-Graeme Mcdowell

Torque GC-Talor Gooch

LIV Golfのスケジュール

6月9日から開催されるLIV Golf Invitational - Londonを皮切りに、レギュラーシーズンは10月まで。そしてTeam Championshipが10月27日〜30日まで、マイアミのTrump National Doral Miamiで開催される。リストはこちら

また、LIV GolfはAsian Tourとアライアンスを組んでいる。Asian Tourの10大会をThe International Seriesとして、それぞれの上位がLIV Golfの大会に出場できる権利を獲得できる。

新リーグが誕生する背景

90年代に世界ランクNo.1に君臨したオーストラリアのグレッグ・ノーマンは、PGA TOURの体制に疑問を持っていた。「個人事業主なのだから、世界のどこでも、試合に呼ばれれば参加する権利があるはず」と訴えた。
そして1994年、ノーマンは「世界各国で10試合」を理想とするインターナショナルツアー(World Golf Tour)を画策する。しかし、そのツアーに賛同する選手が思ったように集まらず、立ち上がることはなかった。

1996年にタイガー・ウッズが鮮烈なデビューを果たし、PGA TOURは一躍人気の興行に成長。それまでは欧州や日本など、各国の主要ツアーと同等の賞金額だったツアーは、その他を大きく引き離す賞金額を誇るツアーになった。「一番稼ぐにはPGA TOUR」という構図が2000年代以降出来上がり、PGA TOURが主導権を握り、世界のツアーは構成されていくようになる。

その後もインターナショナルツアー構想は水面下で話題に上がる。2014年、2018年にはローリー・マキロイが新ツアー構想の打診を受けたという。(ソース)

そして2020年、「謎の新団体」Premier Golf Leagueがツアーのロッカールームを賑わすことになる。「18試合、48名、10試合を米国内、8試合を米国外で行い、個人戦と団体戦を行う」というものだ。

Premier Golf Leagueは、当時欧州ツアーのスケジュールに組み込まれていたSaudi Internationalのプロアマで一緒にプレーしたフィル・ミケルソン、The Raine GroupのColin Neville、Barclays CapitalのコーポレートファイナンスロイヤーAndrew Gardiner、サウジ・ゴルフ・フェデレーションの幹部との間で話題になり、Gardinerが音頭をとって実現に動き出したものと言われている。

潤沢なサウジマネーを背景にPremier Golf Leagueとしてスタートするかに見えたが、その話題は2020年に消えてしまう。そして2021年、新たに"Super Golf League"という名称の、非常に似たコンセプトの別団体が話題に上がるようになる。そのCEOにはグレッグ・ノーマンが就任ーーこれが現在のLIV Golfとなる。

なお、Premier Golf Leagueは、LIV Golfとは完全なる別団体で、今もなお構想は続いている(ウェブサイト)。Premier Golf Leagueサイドは、「LIV Golfがアイデアを100%盗んだ」と主張しているようだ。

PGA TOURの主張と選手たちのリアクション

LIV Golfは、世界のトッププレーヤーたちに数千万ドル(数十億円)という契約金を積んで勧誘していると言われている。

LIV Golfが選手たちの勧誘を始めてからというもの、PGA TOURのコミッショナー、ジェイ・モナハンは、「ライバルリーグ(LIV Golf)に出場する選手はPGA TOURの規約により厳罰処分にする」と強く警戒した。この厳罰処分とは、出場資格の剥奪やツアー追放を指している。

2022年1月の時点でLIV Golfによる勧誘を受けたプレーヤーたちの殆どは、コリン・モリカワやローリー・マキロイのように「移籍しない」といった主旨のコメント、もしくはノーコメントを貫いていた。

一方、その頃、フィル・ミケルソンは記者のアラン・シップノックに「サウジは人権侵害をする恐ろしい集団だ。それなのに、なぜ参戦を考えてるかといえば、PGA TOURにとっては生まれ変わる一生に一度のチャンスだと思うからだ」といった主旨のコメントをした(全文が気になる方はこちらを読んでみてください)。ミケルソン曰く、オフレコだったというが、シップノックは記事にし、それが炎上。ミケルソンは謝罪し、PGA TOURを4ヶ月以上離れることになった。

LIV Golfが選手を勧誘していると話題になった2022年1月から5月までは、移籍する選手はあまりいないのではと言われていた。ルール裁定に対する抗議から「こんなこと(PGA TOUR)に付き合わなくて良いと思うとせいせいする」と失言したセルジオ・ガルシアとミケルソン、移籍を噂されていたリー・ウエストウッドなど以外は、LIV Golfに参加する選手は不透明だった。しかし、5月31日に発表されたLIV Golf初戦の出場者リストには、ダスティン・ジョンソン、イアン・ポールター、テイラー・グーチ、ルイ・ウーストヘイゼンなどと言った現役のトッププレーヤーも名を連ねた。

何故ダスティン・ジョンソンやケビン・ナはPGA TOURを辞めたのか?

2022年6月4日、ケビン・ナが「PGA TOURとの訴訟を避けるため」として、PGA TOURを辞めたことをTwitter上で発表した。

ケビン・ナに続き、6月7日にはダスティン・ジョンソンが同じくPGA TOURを辞めると発表。元世界ランクNo.1で2020年のマスターズチャンプが移籍を発表したことで、LIV Golfの話題が世界中で加熱した。

何故辞める必要があったのかーー。推測ではあるが、PGA TOURが「規約により厳罰処分にする」と主張するということは、PGA TOURメンバーを辞すれば処分を回避できると考えていると予想される。2020年のマスターズチャンプであるダスティン・ジョンソンにしてみれば、この先5年間はメジャー出場権を有している(はず)だし、ルールに沿っていれば「ツアーメンバー外選手」としてPGA TOURイベントの推薦を受けることができるはずだが、6月9日にジェイ・モナハンが発表した内容によると「永久追放」と読み取れる内容になっている。以降、PGA TOURイベントに出場できないとしても、数十億円とも言われている移籍金や、年間8試合という緩いスケジュール、予選落ちがなく賞金総額がPGA TOURよりも高いLIV Golfは、選手たちにとっては魅力的に映る。

6月8日にはブライソン・デシャンボーとパトリック・リードも参戦を表明している。

PGA TOURとLIV Golfの賞金比較

世界最強のPGA TOURを去ってまで、LIV Golfに参加するメリットは選手たちにあるのだろうか。賞金を比較してみよう。

1試合あたりの賞金:
PGA TOUR(RBCカナディアンオープン)
総額:870万ドル(約11億円)
優勝:136.8万ドル(約2.2億円)

LIV Golf(初戦のロンドン)
総額:2500万ドル(約32億円)
個人優勝:400万ドル(約5.2億円)
団体優勝:優勝300万ドル(一人当たり約1億円)、2位150万ドル、3位50万ドル

シーズンを通した賞金:
PGA TOUR
FedExCup優勝:1500万ドル(約20億円)

LIV Golf
個人優勝:1800万ドル(約23.5億円)
団体優勝:1600万ドル(約21億円/一人当たり約5.3億円)

1試合あたりの平均収益率(RBC Canadian Open週の場合):
PGA TOUR
870万ドル/出場156名=5.57万ドル(約725万円)

LIV Golf
2500万ドル/出場48名=52万ドル(約6770万円)

1シーズンあたりの賞金総額:
PGA TOUR(メジャーを除く44試合)
4億640万ドル(約530億円)

LIV Golf(8試合):
2億2500万ドル(約293億円)

まとめると、LIV Golfは1試合あたり約3倍の賞金総額の試合で、選手たちの収益率は9.3倍にも及ぶ。これに加えて破格の契約金が支払われると憶測されている。

何故LIV Golfがこれほど敵対視されるのか?

人権侵害をする国(サウジ)がスポーツをプロパガンダに使っている(スポーツウォッシング)のでは?ということと、プロスポーツをお金の力で一社独占することが脆弱だとも言われている。

人権侵害をめぐる論争では、2018年に起こったサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件(皇族が殺害を支持したとされる事件)が例として取り上げられ、ノーマンやミケルソン、その他LIV Golfに参戦する選手に対しては意見が求められることが多い。

6月8日に行われたLIV Golfの記者会見では、「仮にプーチンが開催したツアーでも参加するのか」という質問をリー・ウエストウッド、イアン・ポールターに対して記者が浴びせた。お金のために動き、モラルを失っていると選手たちが批判の的になり、議論は加熱している。

しかし実際は、主要団体にとっては、コンテンツ(選手)が流出することで、スポンサーやファンの減少を招くと懸念し、ビジネスモデルが崩壊することを恐れていると思われる。同週開催試合の選手層が薄くなればスポンサー撤退につながる可能性もある。実際、メジャーや有名試合(招待試合など)以外のPGA TOURイベントは選手層が薄くなりがちで魅力が乏しいと言われるようになってきた。有名選手は年に20試合くらいしか出ないのに、8試合を新リーグに持って行かれたら、通常の試合には殆ど出ないということにもつながるのだろう。

LIV Golfの近未来

LIV Golfは、潤沢なサウジマネーで選手たちを集めている。
個人戦の総合優勝をするには最低3試合に出場する必要があり、8試合目のチームチャンピオンシップに出場するには、チームキャプテンにドラフトされる必要がある。

初戦に出場する選手たちは、世界ランキング1000番台の選手もいれば、主要ツアー未勝利の選手もおり、PGA TOURやDP World Tourに比べれば、決して強いフィールドとは言えないだろう。

しかし、個人的な見解としては、「ドラフト制」というのが、今後LIV Golfが魅力的な選手たちを集めることができるかの鍵を握っているように思える。

数十億円の移籍金や、1試合あたり9.3倍にも及ぶ収益率でプレーするLIV Golfを魅力的に思う選手たちは増えていくだろう。2回目、3回目と回を重ねるごとに、選手層は厚くなっていき、「ドラフトから漏れたくない」と思う選手はLIV Golfに残ることになるだろう。

考察:LIV Golfはどうなるか?PGA TOURのビジネスモデルは崩れるのか?

長文を読んでいただきありがとうございます。
ここからは個人的な意見と感想ですので、読まなくても記事は完結しています。続きが気になる方は筆者にビールを奢る感覚で期待せずに購入してみてください。

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