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セカオワを知らない私が藤崎彩織『ふたご』を読んだ感想

巻末の宮下奈都さんの解説を読んで、感想文を描いておこうと決めた。

読書感想文って、
「あの本を挙げたらこっちの本はどうすんの」とか
「あとあと読み返したら自分の熱量に自分でどん引くんだから」とか
微妙な気持ちになりがちなので、わたしは基本書かないんだけど
この本のことは書いといたほうがいいと思ったんだ。
わたしは SEKAI NO OWARI というバンドのことをほとんど知らないし、
まあ曲は流行ったものをいくつか知ってて「イイヨネ」くらいにしか認識してなかったし、メンバーのことなんか全く興味がなかった。
つまり、藤崎彩織が誰であるかを知らずに『ふたご』を読んだわけです。
まあまあ少数派なのではなかろうか。


以下、ふんだんにネタバレを含みますので、未読のかたは絶対に読まないでください。



冒頭の一文、
“彼は、私のことを「ふたごのようだと思っている」と言った”

平積みしてある文庫本をパラッと捲りこれを目にしたとたん、
買おうと決めた。
頭の中ではピロウズの「I think I can」が鳴っていた。
音楽が関わる本でもあるので、なかなかの相性だったんではないか。

読むのは、まあ辛かった!
月島という男
物語全編を通じて出てくるこの、最重要人物である男が、
憎くて憎くて(笑)


ADHDなど、
ひとつの(もしかしたら一つではないかもしれない)特性をきっかけとして
雪崩をおこすように生き辛さが加速する感じ、
あの感じは、理解できる。
わたしが、ではなく、誰もが、
多かれ少なかれ思い当たることがあるだろうし、
本人を責めるものではない、と重々承知の上で、しかし、
同年代…つまり十代やそこらの少女を、ここまで振り回していいものだろうか、と思ってしまう。
生き辛い本人を、けれども見捨てる自由は、傍にいる人間全てが持ってる。
(と、わたしは思う。異論は認める。)

けれど夏子(主人公)はそうしない。

嫌な事言われたかと思えばキラーフレーズで鷲掴みにされたり
もうたくさんだ、と思う一方で自分を責める気持ちにさせられたり
とんでもない危害を加えられながらも責められない気持ちにさせられたり
月島が夏子にやってることは、人の心を操る手段にとてもよく似ている。
控えめに言ってクソだ。(異論は認める!)
けれど、夏子が操られているとも思えない。
彼女は自分の気持ちを「恋心」だと幾度も自覚するけれど
それとも少し違うように思う。

物語が進むと、
夏子の対峙しているものが
「己の心」よりも「己の作り出すもの」にシフトしていくように思える。
彼女の焦燥、無力感、寝不足、からだがバラバラになるような疲れ、が
まるで自分が彼女に乗り移ったかのように、痛みを伴ってやってくる。
はげしく身につまされる。
ちなみにこの近辺で、月島から
「俺たちは上にいかなくちゃいけないんだよ!」というセリフが出た時は、
私は正直、月島しね、って思ったね。どの口が言うか、と。


わたしは夏子に聞きたい。
「どうしてやめないの?」「どうして、まだ一緒にいようと思うの?」


彼女はどう答えるかな。
「やめないよ」って、ただ言うだけかも。

彼女が書いた歌詞の内容は知らない。
それこそ、
SEKAI NO OWARI のファンだったら、「きっとあの曲、あれに近い」って
分かるのかもしれないが、わたしは分からない。
そんなわたしでも、その詞がどんなに密で(蜜で)固く苔生しているかが
わかる。なんとなく、わかる。


乱暴に言う。


何かものをつくるとき、
誰だって真剣でいたい。
とことん限りなく真剣でいたい、と、みんな思ってる。
そういう時に必要なのは、
うるせえつべこべ言わずにやるんだよやれよ」と迫ってくるヒトなんだ。

暴論だから、穴だらけであることは認める。
けど、真理の芯はここにある。(ように、思う。)


丁寧なフォローやら根気よい励ましやら親身になっての相談なんぞは…
…うん、めっちゃ大事だ。
けど、
それらをすっ飛ばして、「いいからやれ」と迫ってくる人間は、チート級の効果を発揮するんだ。

あとは、つくる本人がそれに耐えられるかどうか。

・・・耐えたいねえ。
だからおおむね、(おおむね。)わたしは夏子が羨ましいです。


「I think I can」と自分を鼓舞し続けるのは、ほんとうに難しいことだから。




最初と最後にピロウズの楽曲タイトルを挟むのは、
SEKAI NO OWARI という超人気バンドに関連するものを語る時に
失礼かなとも思いましたが
まず、著者が自作を自分の属するバンドに紐付けられるのを良しとして
いるかどうかもわからないし
何より、
SEKAI NO OWARI をよく知らない人間がこの本を読みましたよ、
というのがこの感想文の趣旨でもあるので
ゴメンナサイ、と言いつつ、このままにしておきますね。ゴメンナサイ。

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