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「あなたはどこへいくのですか?」



そう問いかけてきたのは
アンボセリ国立公園で出会った
アフリカゾウのメスのリーダー。



静かな黄昏
彼女たちは夜を過ごすための場所へと
ゆっくりと歩みを進め、
ちょうど私たちのサファリカーが
その道に交差したのでした。
 



はじめてアフリカゾウと間近で見つめ合った時
畏敬の念に胸を打たれました。



静かで、厳かな力にあふれていて
そして
どこまでも見抜かれてしまいそうな深い瞳。


もちろん、人と同じで
彼らにはそれぞれの個性がありますが

この写真の彼女から感じたのは
静寂や覚悟、平安、
家族や自然への深い愛でした。



アフリカゾウの女性たちは、
“matriarch• メイトリアック”と呼ばれる
女性の長老を中心として、
母系社会で生きていきます。


メイトリアックの知恵は
世代を超えて受け継がれていきます。


どの季節に水や草がどこにあるのか
子育てはどのようにするのか。


オスたちとのお見合いの季節は
どのようにするのか。


グループ特有の貴重な情報が
引き継がれていくのです。




干魃が起こった時なども
メイトリアックは
先祖代々、受け継がれた知恵をもとに
危機を乗り越えるための
とっておきの水場へと群れを導きます。


そして
どうしても食べ物や水が足りない時や
年老いて

「自分が群れの足枷になっている。時がきた」

と悟った時は、後継に全てを託して
自ら群れを離れて
命を終えることもあるのです。



彼女たちは、世代から世代へ
生きるための智慧と愛を
遺産として引き継いでいる。

 


祖母、母、叔母から若い娘たちへ
どの道を歩めばよいかをつないでいくのです。


それは生き方としての道
実際のサバンナを歩む時の道も。


興味深いことに
あれほど広大なサバンナの中でも
彼らは野放図に歩くのではなくて
決まった獣道を歩くのです。



野生はかぎりなく自由でありながらも
そこには生きるための絶対的なルールがある。




広い広いサバンナの中
身体に似合わないほどの細い道を
ゾウたちが静かに歩んで行くのは
とても興味深い光景です。



その道は彼らが日々生きる中で、
形作られていった大切な道。


そして、そんな彼女たちの道と
私たちの道が交差した奇跡のような瞬間。


お互いにまったく別の大地で
ちがう種として生きる私たち。


でも、同じ女性として
それぞれの道を生きている。


その私たちが、
たとえひとときでも視線を交わし、
互いを認め合った、あのあたたかな時間。



お互いの過去からの歩みが導いた

“あの場所での出会い” 

忘れることはないでしょう。



いのちの旅のまたどこかで、
遠い未来で、
彼女と邂逅することがあるかもしれません。




すべての生命は、大いなる光りに向かって
それぞれの道を歩んでいます。



どんな道であれ
それぞれの道が
唯一無二で、美しくて、尊い。




そして、その道が
時に交差したり
寄り添ったりしながら紡がれる物語を
私たちは生きています。





人も動物もそうだけれど
ほんのひとときだけの出会いなのに
忘れられないひとがいます。



言葉を交わすことさえなかったのに
人生の中でいつまでも残り続ける存在。



なにかを問いかけ続けてくれる存在。



この彼女も私にとってそんな存在です。
 



この写真を見るたび思います。


彼女のように
「自分の道を歩みたい」と。



そして写真を見るたびに

「あなたはどこへ行くのですか?」

という彼女の問いに答えるのです。




「私は私の未来へ。
私の信じる私へ歩いていきます。

だからいつかまたどこかで
互いの未来で会いましょう」と。

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