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かぶりつき

電車に乗って帰宅。


月曜日の帰宅ラッシュは
なんだか不思議な雰囲気。


ようやく一日が終わった解放感と
帰宅ラッシュのやや混みぎみの車内。


とはいえ、週のはじめでそこまで疲れていないけれど
何曜日であれ帰宅ぐらいは席に座りたいという気持ち。


色々混ざった、どっちつかずの不思議な空間。


一番後ろの車両の
またさらに後ろ。


車掌さんのいる窓のところに寄りかかり
家に向かう電車に身を任せる。


発車ベルが鳴る。


ドアが閉まろうとしたとき、
ギリギリで駆け込んできた
小汚い仕事終わりのおじさん。


そのまま車両の最後方に来て、
”かぶりつき”をした。


小さいころ誰しもがやる、
後ろの景色を見るやつ。


するとそのまま缶ビールを開けた。


正確にはビールかはわからないけど、
缶のお酒だと思う。


缶の周りにタオルを巻いて、
慣れた手つきでお酒をちびちび飲みながら、
後ろの景色にかぶりついている。


缶にタオルを巻いてることからも、
常習だとわかる。


にやにやしやがって。


1人だけ楽しそうだけど、周り見ろよ。


迷惑なおじさん。


そう思って、僕は惰性でTwitterをみる。


さっきから何も更新されてないのに、
なんどもスクロールをする。


あーあ。何してんだろ。


こうやって死ぬための
時間をつぶして人生が終わるのかな。


月曜日の夕方は、
思考をむやみに壮大にさせる。


隣のおじさんは、
まだお酒をちびちび飲みながら、
嬉しそうに後ろの景色を見ている。


むかつk…


いや、


その時おじさんが
すごく輝いて見えた。


さっきまで迷惑なおじさんだと思っていた人が、
憧れて見えた。


僕は、周りの目ばっかり気にして
正義に押し込められ、誰のために生きているのだろう。
なんのために、Twitterのスクロールをしているのだろう。


でも隣のおじさんは、
自分のためにこの瞬間を生きている。


仕事で疲れた正直清潔感のないこのおじさんは、
大好きなお酒を飲みながら、大好きな電車の景色に
かぶりついている。


多少の迷惑なんて関係ないよな。


かぶりつくなんて子供みたい、
そんな声、勝手な被害妄想だ。


「お酒なんて迷惑」
「いい大人がかぶりつくなんて」
本当は誰も大して気にしていないのではないだろうか。


自分の好きなことを
好きなようにやる。


僕たちは他人に迷惑をかけないで生きることなどできない。


これくらい正直に迷惑をかけていきたい。


僕もいつか、
迷惑をかけて生きられるようになりたい。


そう思って、僕も後ろの景色に
かぶりついた。


その時だけ、
僕とおじさんは、同じ景色を見ていた。

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