見出し画像

深夜 体温 解禁 電波

ラジオが好きだ。


オールナイトニッポンを中心に
深夜ラジオをよく聴く。


最近は、radikoというアプリの
タイムフリーなどという
過去1週間の放送を何度も聴ける機能を
利用している。


深夜まで起きていると
翌日に影響するし、
なにより眠いから。


だから、昼間の散歩や移動の際に
タイムフリーを使って
深夜ラジオを聴くと、
自分だけ生きている世界が変わり
透明人間になったような気分になる。


この感覚が好きだ。


でも、思い返してみれば、
僕にも 深夜ラジオをリアルタイムで
聴いていた時期があった。


中学生から高校生にかけて。


あの頃 特に好きだったのは、
星野源のオールナイトニッポンだ。


毎週火曜日の深夜
1時から始まる番組のために
5分前の12時55分ごろに
スマホのアラームを設定した。


家族を起こさないように、
音量は小さめに設定しておく。


起きれるか起きれないかの ぎりぎりの音量だ。


だから、正直 起きれないときもある。


でも、だからこそいい。


その分、眠いながらに
アラームに気づけたときは
特別な達成感と幸福感がある。


12時55分。
布団の中で目を覚ますと
部屋の明かりは付けずに
ラジオを起動させる。


radikoでスマホから聴くのではなくて、
小さいころ買ってもらった
中古のスピーカーから聴く。


これも、もちろん 音量は最小限。


時報と共に番組が始まる。


体温が上がる。


熱を出した時のような
体の温まり方ではなければ、
運動をした時の温まり方でもない。


体の内部は冷えているけれど
表面だけ温かい、
興奮と寝起きの絡み合った
不思議な体温。


暗い部屋の中で 布団にくるまりながら
スピーカーの方向に体を向ける。


月明かりがカーテンを
かすかに色づかせる。


大好きな星野源のオールナイトニッポンの中でも
楽曲解禁が行われる放送回は、
死ぬほど
いや、生を体の隅々まで実感するほど
大好きだった。


単純に 星野源の楽曲が好きなことはもちろん
電波が繋げてくれている感覚がたまらなかった。


今もそうだが、
僕は友達がいなかった。


ラジオだって同じかもしれない。
ラジオを聴いているからと言って
パーソナリティと話せるわけではない。


でも、ラジオは繋げてくれた。


電波は、一人暗い僕の部屋に
有楽町のブースに流れる空気を
届けてくれた。


そのブースには
パーソナリティはもちろん、
番組に関わるスタッフや
全国にいる顔も知らないリスナーの生み出す
音もなき音があった。


それらが電波に乗り
僕の部屋に流れ込んでくる時だけ、
僕は誰かと一緒にいることができた。


学校で隣の席で授業を受けている
あの子よりも、近くに感じることができた。


楽曲解禁の時間が近づく。


音のない音が騒がしくなる。


ラジオでの楽曲解禁は、
その場で曲が生み出されたのかと思うくらいに
新曲の新鮮さを感じる。


僕は、「新曲」の賞味期限は
あの瞬間だけだと思う。


だから、賞味期限以内に
新曲を味わえたことを今でも誇りに思うし
一生忘れないと思う。


番組が終わると
そっとラジオを消す。


部屋は静かになるが、
頭の中がうるさい。


興奮して眠れそうにないが、
確実に体は睡眠を欲している。


目をつぶってみると、
すぐに夢の中へ誘われる。


睡眠と睡眠によって
挟まれたあの深夜のラジオは、
現実世界から隔離された
僕にとってのテーマパークだった。


今夜、もういちど
訪れてみようかと思う。


入場時刻は
12時55分である。















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?