『A Night at Boomer's vol.1』シダー・ウォルトン アルバムレビュー#5

1973年1月4日、ニューヨーク、グリニッチ・ヴィレッジ「ブーマーズ」にて録音

レーベル:Muse

パーソネル:
Cedar Walton(p)
Clifford Jordan(ts)
Sam Jones(b)
Louis Hayes(ds)

シダーのリーダー作では初のライブ盤です。
録音場所の「ブーマーズ (Boomer's) 」は1970年代にニューヨーク、グリニッチ・ヴィレッジにあったジャズクラブで、シダーはここを活動拠点の一つとしていたそうです。後年、ルイス・ヘイズ以外の本作のメンバーは、アート・ファーマーをリーダーに据えて再度ブーマーズでのライブ録音を残しています(『At Boomer's』、1976年録音)。
ピアノの音質がキンキンしているのが多少気にはなりますが、キャノンボール・アダレイのリズムセクションとしても活躍していたサム・ジョーンズ、ルイス・ヘイズの生み出す強烈なビートには痺れます。
シダーファンである小説家の村上春樹は、このアルバムについて「見事な出来ばえのメインストリーム・ジャズ」と評しています(『意味がなければスイングはない』、2005年)。
慣れ親しんだ環境でのびのびとした演奏を繰り広げる当時のシダーバンドの姿を活写した好盤と言えるでしょう。

※作曲者名の記載があるもの以外はすべてシダー・ウォルトン作曲

1. Holy Land
シダーの代表的なオリジナル曲の一つです。マイナーブルースのテーマが2回繰り返され、その間にテンポ・ルバートのピアノ独奏が挟み込まれているという、一風変わった構成の曲です。
最初に録音されたのはテナーサックス奏者ヒューストン・パーソンのリーダーアルバム『Blue Odyssey』(1968年録音)。
私は共感覚を持っているわけではないのですが、なぜかシダーのマイナー系の曲を聴くと紅(くれない)色のイメージが湧きます。映画俳優が歩くレッドカーペットのような色ですね。
シダーの演奏が素晴らしいのは勿論のこと、サム・ジョーンズとルイス・ヘイズがバッキングでも歌いまくっています。サム・ジョーンズのベースソロも、短いながらも印象的です。

2. This Guy's in Love with You (Burt Bacharach, Hal David)
バート・バカラック作曲のポピュラーソングのカバーです。この曲ではクリフォード・ジョーダンが抜け、ピアノトリオで演奏されています。約4分半にわたってシダーがソロを弾きまくりますが、とにかく素晴らしい内容です。何も言わずに聴いてください。
個人的には、自分の結婚披露宴の余興で演奏した曲なので思い入れがあります。

3. Cheryl (Charlie Parker)
チャーリー・パーカー作曲のブルースです。

この曲の聴きどころは、何と言ってもルイス・ヘイズのドラムソロでしょう。ここぞとばかりに大爆発しています。このアルバムでは、演奏中にも時折客席の話し声がぼそぼそと聞こえてきますが、これだけ激しいソロを叩かれてしまっては会話どころではなかったでしょう(笑)。
繊細な演奏をするイメージのドラマーでも、ドラムソロになると豹変したように叩きまくるので、聴いている方はびっくりすることがありますね。大学時代にライブでジミー・コブを見たときにも、当時はマイルスの『Kind of Blue』ぐらいでしか彼の演奏を聴いたことがなかったので、バリバリ叩くドラムソロに驚いた記憶があります。

4. The Highest Mountain
シダーのオリジナル曲です。初出はクリフォード・ジョーダンのリーダー作『These Are My Roots』(1965年録音)。その後もクリフォードのアルバムでたびたび吹き込まれています。

冒頭のルイス・ヘイズのライドパターンがいきなりスイングしていますね。そして本曲でフィーチャーされているクリフォードは、熱のこもった演奏を聴かせています。

5. Down in Brazil (Roy Burrowes, Beaver Harris)
比較的早いテンポのラテンの曲です。シンプルでかわいらしいテーマのメロディーが魅力的ですね。
ロイ・バロウズ、ビーヴァー・ハリスの共作曲となっていますが、ロイ・バロウズはジャマイカ出身のトランペット・フリューゲルホルン奏者、ビーヴァー・ハリスはドラマーだそうです。2人ともアーチー・シェップのバンドに参加していました。
シダーとロイ・バロウズは、前出のクリフォード・ジョーダンのアルバム『These Are My Roots』で共演しているので、親交があったのでしょう。

6. St. Thomas (Sonny Rollins)
ソニー・ロリンズが『Saxophone Colossus』で吹き込んだ、言わずと知れたスタンダード曲です。

シダーはこの曲を長年レパートリーとして演奏しています。
クリフォードがフラジオも多用しながら、気合いの入ったソロを吹いています。一旦ソロが終わるのかと思いきや、そこからさらにギアを上げて大爆発しているのがさすがです。
それを引き取ったシダーのソロも、指が動いて動いて止まらないというように、アイディアを次から次へと紡ぎ出しています。
最後のルイス・ヘイズのソロは、原曲のラテンの雰囲気をキープしながら、まさにドラムで歌を歌っています。
ジャズの醍醐味を味わえる一曲と言えるでしょう。

7. Bleecker Street Theme
シダーがセットの終わりに演奏することが多いブルースです。このアルバムの録音場所「ブーマーズ」もブリーカー・ストリートにあったそうで、ぴったりの選曲と言えるでしょう。
テーマだけを演奏してさらりと終わります。
セットの最後に演奏される定番曲みたいなものが個人的には結構好きです。マイルスバンドの「Go-Go」とか……。


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