インバウンドという言葉を使う人の目は¥になっている

旅行には2種類あります。
ひとつは、蓄えた富を使って贅沢をすること。すばらしいホテルに宿泊し、贅を尽くした料理を味わい、王様気分の夢の世界に没頭するという典型的な旅行ですね。
もちろん、自分へのご褒美に日々頑張って働いた貯えを使い、気分をリフレッシュさせることは大切なことです。
特に日本の旅館業は「おもてなし」の精神を大切にして、訪れたお客様を神様として大切にしてくれる文化があります。

そしてもう一つは、普段の世界とは違う世界に触れあう旅行です。
インドに行って人生観が変わっちゃう人は、私も知り合いにいますが、そこまで極端な例を出すまでもなく、海外ではなくても国内や日帰りできる距離の場所でも、探せば違う世界がいくらでもあります。

その世界と触れ合うためには王様であってはいけません。一方向的な交流では、ただの通行人なのです。


違う世界と触れ合う旅行とは、インタラクティヴでなくてはいけないのです。そこの世界の文化にまじりあい、人と人と交流し、「またね」と言って送り出してもらえる旅行でなくてはいけないのです。
近年ではこういう人を「関係人口」ともいいます。

このようなインタラクティヴ・ツーリズムは大手の資本や規模の大きい観光地では極めて難しくなります。
京都は人気の観光地ですが、オーバーツーリズムと叫ばれるほどに人が来れば来るほど、観光業の対応も機械的になります。京都で双方向な関係を作るには、ニッチな場所に行くか、ぐっとお金のかかるお店に行くかしかないのです。

観光業として産業として成立させることを優先させるのではなく、経済効果は後からついてくると気長に事業を行える人でないとインタラクティヴ・ツーリズムはなしえませんが、ふと周りを見渡せば、そのようなところは意外とあります。


理論として上記のインタラクティヴ・ツーリズムを推進している旅館は南魚沼市の「里山十帖」がありますね。

里山十帖の母屋

岩佐十良さんは旅館もレストランもすべてはお客様に直接伝えられるメディアであり、しかも双方向的なので常に変化できるとしています。

しかし、ほとんどのインタラクティヴ・ツーリズムを実践できている場所は理屈だってやっているわけではありません。


新潟市の沼垂テラスは、もともとは港町の市場として活気あふれていた小さい店舗が並ぶ商店街でした。

沼垂テラスの朝市

時代の流れとともに小さい店舗の商店街は衰退しましたが、そのレトロな雰囲気に惹かれて出店したいという声がでてきました。そこで空き家だらけになったこの店舗街地元の居酒屋さんが買い取り、市内外から多種多様な出店者を集ったのが沼垂テラスの始まりです。
いまでは地元の人とよそから来た出店者、そこを訪れる人たちが交流する人気観光地となりました。


もう一つ私の好きな場所が柏崎市椎谷海岸にあるShiiyaVillageです。

ShiiyaVillageの中にあるサイン


ここは古民家を改造したサウナなのですが、もともとは自分たちが遊ぶ場所をつくろうとして始まった事業でサウナ以外にも板場や交流できるスペースがあります。サウナの質、目の前に広がる椎谷海岸の景色とすばらしい点は多々ありますが、このShiiyaVillageのおもしろいところは定期的にいろいろな人とコラボイベントを行っていること、そして地元の人たちを招いて一緒に楽しんでいること。
人口100人の、高齢化率が極めて高い寒村にありながら、人口以上の人たちが集まり、定期的にイベントをして楽しむ。
正直、そこまで利益になってるのかと考えるとあまり利益にはなってない気がしますが、間違いなく、おもしろい場所です。


今回あげた3つの例は、最初から経済的な利益を優先していたわけではありません。
すべてに共通していることは、「そっちの方がおもしろいから」

おもしろいから人が集まり、交流が生まれ、新しい展開につながっていく。
歴史は京都だけでなく、どこにでもあります。
楽しさは東京だけではなく、どこにでもあります。
しかし、それはパッと見ではわからないのです。
拾い上げた石を意気揚々と磨き上げ、仲間を集めていくとできあがっていくものです。

おもしろいことをやりたいですね。


「暗がりの賢人が捨てられた日々を集め海沿いに見も知らぬ炎を躍らせた」



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