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文部科学省「学校・教育委員会等向け虐待対応の手引き」を公表

令和元年5月10日に文部科学省が「学校・教育委員会等向け虐待対応の手引き」を公表しました。幼児児童生徒に対する虐待の疑い事案に遭遇した際にスムーズに対応ができるよう、チェックリスト等も作成されています。

新たに以下の3ルールも設定されました。これらがルールとして設定されていなかったことに驚きますが、今後は全教職員、教育委員会等の行政職員はこのルールを徹底して遵守して、対応不備による不幸な事件を無くしてもらいたいものです。

1.学校等及びその設置者においては、保護者から情報元に関する開示の求めがあ った場合には、情報元を保護者に伝えないこととするとともに、児童相談所等と連携しながら対応すること。
2.保護者から、学校等及びその設置者に対して威圧的な要求や暴力の行使等が予 測される場合には、速やかに市町村・児童相談所・警察等の関係機関や弁護士等の専門家と情報共有することとし、関係機関が連携し対応すること。
3.要保護児童等が休業日を除き、引き続き7日以上欠席した場合には、理由の如 何にかかわらず速やかに市町村又は児童相談所に情報提供すること。
(文部科学省「学校・教育委員会等向け虐待対応の手引き」より)

平成31年1月、千葉県野田市で父親の虐待の"疑い"(注:本記事記載時点は裁判による事実認定前のため"疑い"と記載)により、小学4年生の女児が亡くなりました。この事件では、女児が勇気を出してアンケートに虐待の事実を記載し、助けを求めたにも関わらず、救うことができませんでした。

<千葉県野田市小学4年生女児虐待事件>
野田市虐待死 DV受けていた母親が「この子さえいなければ…」と追い詰められる負の連鎖(AERA / 2019.2.14)
「野田市女児虐待死事件」が浮き彫りにした行政の「欠落」(DIAMOND Online / 2019.2.21)
野田小4女児虐待事件 - Wikipedia

教育委員会がアンケートの写しを父親に見せるという、本来やってはいけないとされる対応をしたことなど、職員の対応不備も指摘されています。父親による職員への恫喝等があったと言われていますが、何があっても守らなければいけない秘密を守れなかったことで、一人の児童の命が奪われたということは、非常に重たい対応不備であると同時に、二度と同じことを起こしてはいけません。

今回公表された文科省のマニュアルがあったら、果たして小学4年生の児童の命を守れたのでしょうか?個人的には大いに疑問を感じますが、マニュアルを事前に理解し、マニュアルに則り、基本的な対応についての理解が十分に身についていれば救うことができた可能性も否めません。

マニュアルは使う人が内容を理解し、意識高く行動をすることで初めて役に立つものになります。マニュアルを作成するだけでは役に立ちませんし、作成して配布するだけであれば単なるアリバイづくりです。最低限、関係者全員がこのマニュアルに則って初動や基本的な対応ができるよう、事前にケーススタディ等で実際に対応について擬似的にでも経験をしておくことは必要でしょう。防災訓練の避難訓練ではありませんが、繰り返し経験することで体感で覚えておくということは対策において有効な手段です。

ここで一点問題があります。教職員がどこまで何をやるべきか。

マニュアルでは学校や教育委員会等による役割も記載されていますが、現実はその役割通りにいかないことの方が多いでしょう。マニュアルに書いていないから対応できない、もしくはここまでやれば良いと書いてあるから書いてある以上のことはやらないということでは、十分な対応とは言えません。

個人的には、具体的な対応については、専門的な訓練を受けた人を充てるということも含めて検討しつつ、絶対にやってはいけない対応について教職員、教育委員会の職員全員が理解して初動にあたる、行動できるようにすることは必須でしょう。そのための訓練は必ず行うことです。そして意識を高めて、訓練した通りに行動ができるようにしておくことです。

児童虐待は今に始まったことではありません。数十年も前から存在し、問題となってきています。いじめも同じです。数十年も前から問題視され、対策が講じられているにも関わらず、なぜ虐待やいじめが無くならないのでしょうか?問題対応が起こるのでしょうか?

虐待やいじめ等の問題行動を起こす人には、少なからず本人に問題があリます。幼少期の家庭環境や現在の生活環境、脳疾患や精神疾患、性格的な問題など本人の意思ではコントロールできないものも要因としてあります。

また、人が絡むことに絶対はありません。問題が起こる前提で予防、早期発見、早期の適切な対処、対処を誤った際のリカバリープランを検討し、関係者全員に周知徹底されていても最悪の事態は起こる可能性はゼロにはできません。しかし、意識を高めて行動する習慣を関係者が身につけることで、最悪事態に至る率を下げることは可能です。

問題対応が発生する要因は様々ありますが、(1)基本的対応法を知らないこと、(2)責任回避意識が働くこと、(3)具体的な対処法が実行できないことがあるでしょう。知らなければ何もできません。面倒なことへの関与や責任回避意識が働くと自分を守ることが中心になってしまいます。実際の修羅場と化した現場で頭が真っ白になって行動ができなくなることもあるでしょう。これらのどれか一つで当てはまると適切な対応ができない状況になり、結果として不幸な事態に陥ります。

"限りないゼロ"に向け、現場の教職員や教育委員会に任せきるのではなく、児童相談所、警察、弁護士、医師や心理士等、関係各所の専門家が早い段階から積極的に関与できるようにすることも効果的でしょう。何より、地域の目も抑止と早期発見には効果的です。他人に関心を持つことも忘れずにいたいものです。


著者:原田光久(ひかりば 代表 / コミュニケーション・プランナー) ●社会問題解決アドバイザー、新規事業開発・地域創生・経営支援 ●行政・教育機関・民間企業で研修・講演・IT推進をサポート ●連絡先:harada@hikariba.com