潜って、作って、慈しむ。 ーオンラインジグソーパズルのすすめー

「人生で一度もジグソーパズルをやったことがない」という人は、おそらくほとんどいないだろう。多くの人が、隣り合うピース同士がはまったときの「パスッ」という快感を経験したことがあるはずだ。ジグソーパズルの魅力とは一体何か。一般的に、ジグソーパズルの魅力といえば「出来上がったときに達成感がある」「集中力や記憶力がアップする」といったものが挙げられる。いずれもジグソーパズルの代表的な魅力と言えるだろう。しかし、私がここで提案したいのは、こういった側面を一切無視した、言わば「ジグソーパズルの裏ワザ的な楽しみ方」である。それは、ジグソーパズルを使って【欲しくても手に入らないものを愛でる】という遊びだ。一体どういうことなのか、順を追って話していこう。

 誰しも、「手に入らないものに憧れるもどかしさ・虚しさ」というものを経験したことがあるはずだ。好きだけど手が届かないアイドル、実在したらいいのにとつい空想してしまうアニメのキャラクター、ローンのことを考えると気が重くなる素敵な一軒家……。欲しいものを挙げだしたらキリがないし、物理的に手に入らないものもたくさんある。ジグソーパズルは、そんな手に入らないものを愛でるのにぴったりの手段だ。行き場をなくして彷徨う霊魂のような所有欲を、ピースをはめる時間がやさしく包み込んでくれる。
 やり方は簡単で、自分が「手に入れたくても手に入らない」と思っているものを思い浮かべて、それが描かれたジグソーパズル探す。お気に入りのジグソーパズルを手に入れたら、あとはひたすらピースをはめていくだけだ。気分を盛り上げるために、絵柄に関連した音楽をかけてもいいだろう。目を凝らし、手を動かして、少しずつ時間をかけて大好きなものを形にしていく。その一連の動きは紛れもなく対象物を「愛でる」行為であり、至福のひとときを過ごすことができる。

 ここでひとつ、実例を紹介しよう。
私は、柴犬がとても好きだ。しかし、ペット禁止の物件に住んでいることや経済的に余裕がないなど、様々な事情があって飼うことができない。仕方がないので、Twitterの柴犬アカウントをフォローして毎日画像をチェックしたり、外出先での「柴犬ウォッチング」を楽しんでいる。しかし、心はいまひとつ満たされない。だから私は、柴犬のジグソーパズルを作る。ここは目かな、ここは地面と毛の境目かな、と散らばったピースを確認していると、「あぁ、やっぱり可愛いな」と、とても幸福な気持ちになる。もちろん、いくら柴犬のジグソーパズルを完成させたところで実際には手に入らないのだが、作っている最中は、温かくお日さまのにおいのする柴犬を「精神的に撫でている」ような気がするのだ。

 もちろん、手に入らないものを愛でる方法は、ジグソーパズル以外にもたくさんある。好きなものを絵に描いてみたり、写真に撮ってみたりと、よりクリエイティブな方法で愛情を示したいという人もいるだろう。また画像や動画を見ているだけで幸せ、という人もいるかもしれない。しかし、それらの方法では決して味わえない、ジグソーパズルならではのエキサイティングな瞬間というものがあるのだ。バラバラになったピースを1つ1つ眺めている最中、不意に”その瞬間”は訪れる。「このピース……〇〇の一部に違いない!」と確信する瞬間だ。柴犬の場合でいうと、「これは耳の先っぽに違いない」「これは目尻ではなく目頭に違いない」といった確信。予想ではなく、確信である。愛するものの一部なのだ、間違えるはずがない。確信を持ってそのピースが本来収まるであろう場所に持っていく。ピースはまるでそこへ吸い込まれていくかのように、ピタリとはまる。この時の、「わしの目に狂いはなかった!」といった全能感。これこそが、愛するものをジグソーパズルで愛でる醍醐味ではないかと思う。
 
 これまでの話で、厚紙で作られたジグソーパズルを自宅の机や床に広げて作る光景をイメージしたかもしれない。しかし、私が推すのは、オンラインのジグソーパズルだ。デジタル化されたジグソーパズルを、パソコンやタブレットの画面上で作り上げるのである。こういったオンラインのジグソーパズルは、いわゆるジグソーパズル愛好家からはあまり評判が良くないが、私は断然オンライン派だ。一体なぜか、ここからはその理由を説明していく。

 何事も、オフラインよりもオンラインが圧倒的に勝っている点、それは「便利さ」だろう。好きな本をkindle版で買えば大きな本棚はいらないし、手ぶら同然で何冊もの本を持ち歩ける。遠方に住む友達にどうしても話したいことがあれば、はるばる会いにいかずともビデオ通話で繋がることができる。オンラインジグソーパズルもこれらと同じように、紙のパズルと比べてとても便利だ。どんなに遊んでも無料だし、スペースを取らないから四畳半アパートでも作れる。しかしそんな便利さを軽く凌駕する、魔力ともいえる魅力を、私は知っている。「これからどんなジグソーパズルを作ることになるのか、自分でもわからないところ」。これこそが、オンラインジグソーパズル最大の魅力だ。

 PCを立ち上げ、ブックマークしてあるお気に入りのジグソーパズルサイトを開き、広大なインターネットの海へ本日の獲物を探しに深く潜っていく。海に入ったら、まずやることはフリーワード検索だ。「柴犬」、「ログハウス」、「湖」、「スイーツ」、「ビッグバン★セオリー」……その時猛烈に好きなものや食べたいもの、行きたい場所、要するに「愛でたい対象」をとにかく入力し、検索にかけまくる。絵柄をユーザーが投稿するタイプのパズルサイトだと、どんな単語を入力しても、びっくりするくらいヒットするのだ。検索で表示されたものの中から、今の自分にピッタリの獲物を探す。「これは絵柄が好みだけど、ピースの数が少なすぎて物足りないな」「これは使われている色が少なすぎて、単調な作業になりそう」といったように、ビビッとくるものに出会えるまでは、少し時間がかかる。気分はまるで、大物のアワビやサザエを狙う海女さんだ。慣れてくると、「この絵柄でこのピース数……私なら30分はかたい! 」といった”目利き”も出来るようになってくる。さぁ見つけた。絵柄も好み、ピースの数もちょうどいい。このパズルが、間違いなく今日1番の上物だ。これ以上深追いしても、きっとこれ以上の獲物には出会えないだろう。こうしてようやく、ジグソーパズルを作り始めることができる。日によっては、始める前は予想だにしなかった絵柄を作ることになっていたりもする。この「潜って取ってくる感じ」は、紙のジグソーパズルではまず味わえないだろう。巨大な本棚に色ととりどりのパズルがズラーッと並び、その場で何でも自由に作れる「ジグソーパズルランド」がオープンしない限り、オフラインでこの「漁」を楽しむことは不可能だ。

 愛するものを「ピースをはめる」という行為で愛でる幸せ、未知の空間からお気に入りを見つけて捕獲するワクワク感。これこそが、オンラインジグソーパズルの魅力だ。愛するものを愛でる方法は人それぞれだが、ぜひ一度、騙されたと思って試してみてほしい。

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