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返事を声に出せなかったの

宇宙から呼ばれたような気がしても返事を声に出せなかったの  枡野浩一(『アックス93』)

私が緑色のクリームソーダを注文したらこんなことを言った。
  
「もしもこの星に来てはじめて頼んだものが緑色のクリームソーダだったら、なんか納得するんじゃないかな、この地球のこの飲み物に。
この地球も他の星とつながっていたことを表すものがこの緑色のクリームソーダなんじゃないかな。だってふつう発想しないでしょう、ソーダを緑色にしようなんて。
だからクリームソーダの緑色は古い星の記憶なんだよ。
僕たちがここに泣きながらやってくる前のこの緑って記憶なんだよ。愛とか、悲しみとか、捨てなければならなかった未来とか」

私はふんふんと言いながらバニラアイスにスプーンを入れていく。
アイスもソーダもやがてみんな混ざって、溶けてなくなってしまうのを知ってて、そうやって食べて飲んでゆく。
私もいつか星が滅びたその後に話すときが来るだろう。

「こういうものが私の星にもありました。ずっと、ずうっと、このクリームソーダは古くからあったものです」

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