見出し画像

風の声

風の声十一月はよく迷い  渡辺和尾(『現代川柳鑑賞事典』)

本に挟まってあった手紙が出てきて、「あなたは水のような人です」と書いてあった。
風のような人がよかったな、とちょっと思う。水だと流れていってしまうではないか。事実流れて来てしまったし。
あなたはどこに行ったのか、私もどこにいるのか。

でも風もそうか。
風だって、あなたを通り過ぎて、ここまで吹いて来てしまう。
だったら何がいいのか。
手紙に「あなたはコンクリートのような人です」とか「あなたはしっかりと大地に座り込んだ大きめの仏像のような人です」と書かれていたら私は嬉しかったのか。

水のような人です、と言ってくれた人なのにどうして別れてしまったんだろうとか考える。
時々二人であの地震の時に何をしていたかを話した。
あなたはずっと街を歩いていたと言った。それしかないじゃない、そうするしかなかったじゃない。あるくしか。
私は私がそのときじっとしていたことを話した。駅が揺れている。じっとしていようと思ったんだ、と私は話した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?