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『舞台新サクラ大戦』によせて

『新サクラ大戦 the Stage』の千秋楽を観劇した。

5日間全9公演のうち、7公演を観劇。同じ舞台を見続けた回数としては人生で1番の回数になる。
観劇記をnoteに書こうとアカウントまで作ったが、文章の構成を考えているうちに手が止まった。これは自分にとって余りに思い入れのある舞台だし、むしろ湧き上がってきた諸々の気持ちを言語化しておきたいなと。そもそもサークルの相方である新野と毎晩、合計で5時間くらいアツい感想戦をして感想欲(?)は満たされているし。
以降半分くらい自分語りになるのだけれど、1世代遅れたサクラファンの思い出話をつづっていく。

サクラ大戦と出会ったこと

私が一番好きな創作物は『サクラ大戦』で、恐らく生涯更新されることはないという予感がするくらい、大好きだ。日々琴線に触れるコンテンツは多いけれどサクラは別格で、精神の一部に染み付いているし、サクラに触れたことが今の仕事(主業)に就いた遠因にもなっている。

ただ私はリアルタイム世代ではない。初代セガサターン版『サクラ大戦』が発売された時私は未就学児だったし、ゲームが好きで勧めてくれる親類や先輩がいたわけでもない。後から思うとCMで「ゲキテイ!」は聞いていたものの、一つのコンテンツとして意識をしたことはなかった。

『サクラ大戦』との出会いは突然で、2006年、面白いアニメに飢えていた中学生のときにたまたま公立図書館で借りたアルバムCD「サクラ大戦 帝撃歌謡全集」を聞いたことがきっかけだった。最初の1曲、「檄!帝国華撃団」を実家のCDコンポで聞いた時のことは10年以上経った今でも思い出せる。感動の余り泣いてしまったからだ。

帝撃歌謡全集

それからCDを漁った。何より曲を聞きたかった。

すでに『サクラV』が発売されていたタイミングだったが、ゲームをやるより先に音楽を求めた。巴里華撃団のプロフィールも知らないうちに「サクラ大戦4 全曲集」を聞いた。(さすがに「君よ花よ」は聞いてはいけない気がして、後にゲームに追いつくまで取っておいたけれど)

そしてすぐに気付く。『サクラ大戦』の音楽を愛するものとして、ちょうど乗り遅れてしまったのだと。

『サクラ大戦』に登場する帝都花組(いわゆる帝国歌劇団)は、担当声優が自ら舞台公演に出演する「歌謡ショウ」「スーパー歌謡ショウ」というとんでもない企画を10年間続けた。1997年夏の『愛ゆえに』からはじまり、2006年夏の『新・愛ゆえに』まで。作曲家の田中公平はこの舞台に毎年10曲くらい新曲を書き続けたし、サクラ人気の中核の一つになったのが「歌謡ショウ」だと思う。

海神別荘

私はこの舞台を1度も生で見ることができなかった

折しも『サクラ大戦』コンテンツは冬の時代に入ろうとしていた。
幸運にも2007年5月の「武道館ライブ〜帝都・巴里・紐育〜」(初めて武道館に入った!)へ行くことはできたものの、帝都花組・巴里花組イベントの先行きはわからなかった。
2008年3月にオフィシャルショップ(そんな贅沢なものがあったのだ)「太正浪漫堂 池袋本店」が閉店。朝の5時近くから並んで閉店イベントの整理券を取り、お別れムードのトークショーに参加した。年季の入ったファンにとっても当然悲しかっただろうが、まだまだようやくハマり始めたくらいの自分にとってもまた悲しい出来事だった。
「紐育レビュウショウ」も2007年の第2回公演から楽しんだものの、ゲーム『サクラⅥ』が出る見込みもなく、2008年の第3回公演で一旦終了に。これは「歌謡ショウ」の雰囲気を感じられるイベントだっただけに残念だった。
そのあとも散発的にイベントがあったから、冬の時代と言い切るのは正確ではないかもしれない。ただ勢いがなくなっていったのは確かだ。

何より「歌謡ショウ」は私の憧れだった。近々別で書く機会がありそうなので深くは触れないが、実際の役者がゲームキャラを拡張していく自由な面白さ、伝説的に語られる役者と観客の関係、キャラを演じた上で「さらに」演劇をするという複雑な構成、多彩なミュージカルナンバーの数々。CDやDVDで何度も繰り返し楽しんだが、「この場にいたかった」という気持ちは強く残り、一種のトラウマとなっていた。

そして10年が経ち、2018年4月、「サクラ復活」のニュースが飛び込んだ。

サクラ復活

2018年4月に秋葉原で開催された「セガフェス2018」にはゲームの新作開発中、と言うほかは詳しい情報はなく、「サクラ復活」と書かれた謎の手ぬぐいが販売されただけだった。何はなくとも部屋に飾った。なんらかの肩透かしがあるのかもと警戒しつつ、同時にサクラの新時代が来るかもという期待を持ち始めていた。

サクラ大戦復活

それからおおよそ1年が経った2019年3月、同じく秋葉原で開催された「セガフェス2019」でPS4『新サクラ大戦』の発売が発表された。発表会場には入れなかったが、物販コーナーで中継を見ながら打ち震えた。「時代来たじゃん!」と。「ゲームが出て、アニメやドラマCDが展開して、夢の歌謡ショウまで見られるかもしれない!」と。

同日、メインキャストが発表される。
「佐倉綾音・内田真礼・山村響・福原綾香・早見沙織」

最初の印象は、落胆の気持ちに近かった。これは集まってイベントができないメンバーだからだ。
その名を見ない日の方が珍しいほどの人気声優たち。演技力も歌唱力も申し分ないと断言できるし、個人的にも好きな役者たち揃いで嬉しい。だが今は90年代の牧歌的なテレビアニメ放映数とは文字通り桁が違うし、バリバリ活躍中のこのメンバーではそれこそ5日間の日程で舞台をやるなど不可能に近い。

担当声優が舞台も務める近年の例としては『少女歌劇レヴュースタァライト』(2017年初演)がある。ちなみにこちらは第1部でキャラクターとして演技しながらミュージカル、第2部で音楽ライブを行うという点で『新サクラ大戦 the Stage』の構成に近い。
ただ『レヴュースタァライト』のメインキャストは声優歴の長いメンバーから、舞台経験はあるものの声優経験はないメンバーまで様々で、「数日間の日程でミュージカルを演じる」ことを意識したキャスティングとなっている。また、同じブシロード系作品の『BanG Dream!』『アサルトリリィ』『D4DJ』などに参加しているキャストも多く、少し出演の融通がききやすい側面もあるだろう。
それと比べると、『新サクラ大戦』のキャストで舞台企画をやるのは厳しいのではないか…というところまでが一瞬でよぎった。オタクなので
(また別の作品で、『舞台 黒子のバスケ』で主人公役の人気声優・小野賢章が舞台でも同役を演じたような例がないわけではないが、それも小野さん以外のキャストは別の俳優が務めている)

再び気持ちが沈みつつも、まあまた何かの機会があるかもしれないし、何よりサクラ企画が持ち直していることは嬉しかった。そうしてサークルで新サクラ本を企画したり(好評発売中です)、なんやかんやと時が過ぎていったわけだ。

でも幸せな一報はまた突然訪れる。
その発表は半年後、2019年9月の東京ゲームショウ。『新サクラ大戦 the Stage』の発表は、正直ゲーム以上に嬉しかった。案の定でゲーム・アニメとは別の舞台俳優たちを集めた座組になっていたが、ティザービジュアルの関根優那さんの凛々しさには心ときめいた。

関根さくら

そして3月のコロナ延期を経て、この2020年11月に満を持して上演。

かくして私は14年越しに、帝都花組の舞台を見ることができた。
環境的に本当に厳しかったと思うが、しっかりと上演していただいたスタッフ・キャスト・関係者には感謝しかない

舞台の感想

今回の上演は「歌謡ショウ」ではなく、「the Stage」だ。もちろん歌謡ショウ的なものを見たい気持ちはあるけれど、新たな形の舞台芸術が見られるなら嬉しいな、と思って観劇に臨んだ。

正直、11月19日の初日は構成的な問題が目について、かなりドキドキした。

やはり男性を排除したのは悪手だと思う。
「録音で神山さんの声を流す」=「生の掛け合いを殺してしまう」というのが大きい。律儀にストーリーをなぞる脚本と相まって、役者の遊ぶ余地を殺してしまう。少しセリフをとちったりのトラブルをもう一方がフォローしたりは演劇でよくあることだが、その余地を削ってしまうのは単純に醍醐味を削いでいるようだし、生で演じている緊張感のようなものも薄れてしまう。
そして、相手側のセリフが決まりきっていることで花組の演技の尺感、テンポ感も規定されてしまい、シーンによっては窮屈な演技になってしまう。音楽との兼ね合いもあるが、第一話すみれさんの「さあ帝劇に戻りましょう」あたりはもう少し尺が豊かに取れたらいいんだろうなぁと思ったり。
っていうかシンプルに神山くん見たかったよ。あのコミュニケーションモード演出ですら、いてもらって構わなかった(階段降りた横あたりに)。

それでも楽日にはアドリブっぽいやりとりが出てきたり、日を追うにつれてアフタートークが砕けてきたりしてよかった。話題になったクラリス始め、かなり真面目に役を研究してきているキャスト陣なのだから、縮こまらせず役が自ら羽ばたくような場を提供していってもらえた方が、面白いものになったのではないかと感じた。

あと、欲を言うなら劇中劇「ダナンの愛」の演技シーンが見たかった。せっかくあの衣装あるんだし、歌謡ショウを彷彿とさせる素敵メロディな新曲があるんだし、オチだけという演出はあまりに勿体無いかも。

そんなこんなを初日・2日目の感想戦で吐き出してからの後半日程は、花組や芽組の演技に集中してかなり楽しく観劇した。何しろ、花組が若い。元祖帝都は元祖帝都でもちろん大好きだが、今回の関根さんなんて特にさくらが生きて動いているように見えた。今後ともあの花組5人+すみれさんの舞台が見たいと思えたし、次回ライブ(という形式がどうなるのかよくわからないけれど)公演が決まったのは本当に嬉しい。

そりゃ「ゲキテイ!」の途中で「さくらー!」って声かけたり、天宮さくらが帝劇を案内するシーンで客席降りしたら泣いてしまうなとは思ったけれど、こればかりは仕方ない。いずれ落ち着いたらそんなのもあるといいな。今回は声が出せない分、手が痛くなるまで拍手した。これは14年分の拍手だ、と思いながら。

夢見ていよう

アフタートークで初穂役の高橋りなさんも言っていたけれど、今回ライブパートで歌われた「夢見ていよう」が時期にピッタリだった。自分ももともと大好きな曲で、原曲2番の出だしのマリアさんのくだりが特に大好きなのだが…という脱線は置いておいても、

夢見ていよう 未来はいつも 希望にあふれ きみのそばにある

という歌詞が延期を経ての今回の公演と重なって、すごく染みる…というようなお話だった。ここまでウダウダと思い出話を書いてきた自分も、この曲が初日に流れた瞬間に同じような気持ちになった。

今朝、5回目になるヒューリックホールへの道すがらこの曲を聞きながら、『新・青い鳥』ではないけれど、未来は本当に自分のそばにあったんだな、などと思いましたとも。
そうして色々なことを思い出しながら聞いた「檄!帝国華撃団<新章>」は、イントロだけで涙が止まらなかったともさ。


以上走り書きではあるけれど、思い出語りはここまで。
これは『サクラ大戦』プロジェクトに取っても、私の人生にとっても大事な公演だった。明日からがんばって生きていこうと思えた。

まだまだ色々よくなる部分はある!と思いもしたけれど、本当にこの舞台が見られて良かった。手のひら以上の倖せをありがとう。
この「夢のつづき」はすぐそこだけれど、永遠に桜が舞い踊ってくれることを望みつつ。

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